テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌
インゴベルトの謁見がひと段落ついたことを士官が伝えに来て、ルークはひとり謁見の間へ向かった。ガイはルークの謁見が終わるまで控室で待つことになった。
「ルーク!」
部屋の扉をくぐるなりかけられたのはインゴベルトの声だった。声の主を見やると、玉座の下には父親であるクリムゾンも控えていた。他の重役達は敢えて下げたのか、部屋には二人しかいなかった。
「陛下、ご挨拶が遅くなっ…」
「目を覚ましたと報告は受けていたが…よくぞ無事で…!」
「へ、陛下!」
「陛下、お気持ちはわかりますが!」
国王陛下が腰を浮かせて玉座から立ち上がりそうになるのをクリムゾンが言葉で制し、ルークが慌てて駆け寄る。クリムゾンの前までたどり着くと、父はひとつ頷いた。
「…良かった、ルーク」
「父上…」
すぐに顔を出せずすみませんでしたと頭を下げるとクリムゾンは首を振った。
「無事で何よりだ」
アッシュの残した記憶で見てはいたが、本当に丸くなった父親に違和感を覚えてしまう。しかしこの父の労いも、向けられるべきは自分でなくアッシュなのではないかと思ってしまいすぐに返事ができなかった。
「お主たちが一向に目を覚ます気配がなく、生きた心地がしなかったぞ」
「…ご心配をお掛けしました」
インゴベルトの顔にも疲れが見える。一人娘のナタリアがああなってしまって、心中穏やかではいられなかったのだろう。
「しかし、ルークの意識は戻ってもナタリア殿下の目は醒めぬか…」
クリムゾンの言葉を受けてインゴベルトは玉座に深く背を預け、ため息をつく。その表情は暗い。
「父上、陛下。それなのですが」
「すでに軍からの報告で聞き及んでおる。早速例の人物の確保に兵をまわす手筈を整えよう」
どういったルートで情報が回ったのかはわからないが、一国の姫の一大事とあって流石に早い。改めてナタリアの身分の高さを思い知らされる瞬間だ。
「マルクト帝国やローレライ教団へも協力を要請した。噂の女性も自ずと見つかるだろう」
「そうです、ね」
クリムゾンに返したルークの言葉は歯切れが悪い。それを知ってか知らずか、インゴベルトが言う。
「婚儀も中断してしまったからな。ナタリアが目覚め次第、改めて執り行おう」
民たちもそれを望んでいる、とインゴベルトが微笑む。クリムゾンも頷きルークを見ている。咄嗟に言葉が出ず、戸惑っていると「だから」とインゴベルトが続けた。
「そちはナタリアの傍にいてやってくれ。あの子が目覚めた時、そちの顔があれば安心するだろう」
まるでルークが言い出そうとしている事を知って釘を刺すかのようなその言葉に、ルークはただ「はい」としか言えなかった。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌 作家名:古宮知夏