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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 その夜は月明かりと星影が優しく帳を下ろす静かなものだった。ミュウはチェストの上に置かれた籠の中で寝息を立てている。ルークは窓の外に浮かぶ半分の月を見上げた後、ファブレ邸の自室から出た。両親からは、ナタリアの傍にいてやってはどうかと王城で過ごすことを薦められたが、断った。歩き慣れた自宅の廊下を進み、両親の寝室の前で止まる。扉をノックすると、中からシュザンヌの声がした。しばらくすると遠慮がちに扉が開かれた。
「…ルーク?」
 扉の隙間から来訪者の顔を見ると、シュザンヌは微笑んで入室を促す。失礼します、と頭を下げて中に入ると父の姿もあった。
「遅くにすみません」
 クリムゾンは小さく咳払いをすると、部屋の片隅に置かれたソファに腰掛けた。
「ハーブティーでいいですか?」
 シュザンヌの言葉にクリムゾンが頷き、
「ルークも同じものでいいかしら」
 そう聞かれたルークも咄嗟に頷く。
「は、はい」
「ふふ。少し待っていてくださいね」
 シュザンヌはストールを羽織って部屋を出る。クリムゾンとふたりきりで残されたルークは所在無さげに頭を掻く。
「…何をしている。座りなさい」
 クリムゾンが向かいのソファを顎で示す。普段は主にシュザンヌが使っている席なのだろうが、父に従って腰を下ろす。丁度クリムゾンと、テーブルを挟んで向かい合う形になった。いざふたりきりになると何を話したら良いものかと、何も乗っていないテーブルの中央を見つめて考える。うまい切り出し方が思いつかず黙っているとクリムゾンの方から口を開いた。
「皆さんとは、十分お話できたか」
 仲間たちのことだ。その話題を父の方から振ってくるとは思っていなかった。
「はい。昼間、全員と会えたので…」
 そうか、とだけ返事があった。外で居眠りしているところをジェイドとアニスに見つかり、その後丁度ルークを探しに来たガイやミュウとも合流して話しをすることができた。内容は、主に今後のことだった。
「今回の件で、長く引き止めてしまったからな。もう明日にも出発する方もいると聞いているが」
 そうだ。ジェイドやアニスは、明日の朝には船で本国へ戻ると言っていた。それを聞いて、結構無理して滞在してくれていたのかもしれないと思った。
「父上、それなんですが…」
 トントントン、とルークの台詞を遮るようにノックの音が響く。次には扉が開かれ、シュザンヌがティーセットを持った執事と共に入ってきた。執事はテーブルにティーセットを置くと、部屋の隅にあった丸椅子を持ってきてシュザンヌが座る席を用意した。
「お待たせしました。お話中でしたか?」
 椅子に腰を下ろしながらシュザンヌは夫と息子の顔を見比べる。
「丁度良かったです。母上にも、聞いて欲しかったので」
 執事が手際よくティーカップを並べ、お茶を注いでいく。カップに注がれたハーブティーの香りが広がり、鼻腔をくすぐった。
「…いい香りですね」
「あら」
 シュザンヌがルークを見て驚いたような顔をしたあと、微笑んだ。
「ふふ…昔は変な匂いだと言って寄り付かなかったのに。大人になりましたね」
 見れば執事も笑っている。確かにそんなことも言ったかもしれない。なんにしろ随分前の、子供の頃の話だ。そんな話を持ち出されて、少し気恥しさを覚えた。
 執事がティーポットをテーブルに置いて一礼すると「いただきましょうか」とシュザンヌがカップに手を伸ばす。それに倣うようにクリムゾンとルークもカップを手に取り口をつけた。飲み慣れない味ではあったが、砂漠地帯のケセドニアで飲んだ香辛料が入った飲み物よりずっと美味しいと感じた。
 執事が部屋から下がり、両親がカップをテーブルに置いたタイミングでルークは再び口を開いた。
「お二人に、話さなくてはいけないことがあって」
 手に持ったカップの中で揺れる、琥珀色の水面に映った自分の顔。それをじっと見つめて、言葉を探す。これを言って、両親はどんな反応をするだろうか。しかし黙っていることはできない。全て伝えると、仲間たちと話し合って決めた。ここで必ず、伝えなければならなかった。意を決して言葉を紡ぐ。
「俺…三日前までの俺とは違うんです。ずっとアッシュだったけど、今の俺は…」
 レプリカの、と言いかけて昼間のティアの顔を思い出した。
「……アッシュじゃない、ルークで」
 なんとか切り出したは良いものの、うまい表現が見つからず変な感じになった。どう伝わっただろうか。両親の顔を見るのが怖くて顔を上げられない。すると、
「ほら。やっぱり当たってましたでしょう?」
 そう言ったシュザンヌの言葉はルークに向けられたものではなかった。
「ああ、そうだな」
 クリムゾンも相変わらずの仏頂面ではあるが驚いていたり、怒っている様子はない。むしろ、ルークだけがふたりの予想外な反応に戸惑っている。
「あ、あの…?」
「実はねルーク。そうなんじゃないかと話していたんです」
 シュザンヌはどこか嬉しそうですらある。先に気付いたのは私ですよ、と言うシュザンヌに対して何も言わないクリムゾン。
「あなた達は仕草も表情も全然違いますもの。母の目は誤魔化せません」
 もちろん父の目もね、とシュザンヌが付け加えるとクリムゾンは表情を隠すようにカップを手に取った。
「気づいて…」
 いたんですか、と尋ねる声は途中で消え入る。ならば何故今まで黙っていたのだろう、という疑問が喉を締めた。
「お前が自ら言い出すまで待っていたんだ」
 真っ直ぐ父に見つめられてはっとする。
「他に、話したいことがあるのではないか」
 半年間、アッシュが黙し続けたことを今ルークは口にした。そこに理由がないわけがないと、クリムゾンにはわかっていたのだ。
「…父上、俺」
 続く言葉は、父の視線に後押しされて当初想像していたよりもすんなりと出てきた。
「このままナタリアとは、結婚できません」