二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

INDEX|35ページ/60ページ|

次のページ前のページ
 

「先生、きっとこれなら他の人たちも助かりますよね…!」
 喜び跳ね出しそうなモネに、そうですね、と医師が緩く頷く。
「ルーク殿」
 医師がルークに向き直り、真剣な表情で言う。
「ベルケンドには、シェリダンだけでなく他の街からも患者が運び込まれているそうです。詳しい数は我々にまでは回ってきていませんが、相当数の方がいらっしゃるかと」
 医師は頭を下げ、ルークに嘆願する。
「医師として、頭を下げるしかできないなど情けなく思いますが…どうか、ベルケンドへも立ち寄って頂けませんか」
「先生」
 ルークはすぐに医師の肩に触れて顔を上げさせた。
「大丈夫です。俺、行くつもりでしたから」
 そう言うルークの表情は明るい。ティアやガイも、既に聞いていたかのようにルークの言葉を微笑んで受け入れていた。
「むしろ1箇所に集まってくれてるってことならありがたいよな」
「全員が全員搬送されているわけではないと思うけど、罹患している大半の人が助けられるんじゃないかしら」
 ルークも頷き、医師は「ありがとうございます」と再び頭を下げた。
「わ…私、隊の人に先輩が目を覚ましたって報告してきます!」
 ルーク様の事も!と喜び勇んで部屋を飛び出すモネ。その背をじっと見つめている者がいることにガイが気づいた。
「フィフィ?」
 ガイが名前を呼ぶと、フィフィはティアの肩から飛び降りてモネが走っていった方向へ駆け出した。
「おい!」
 ルークが声をかけても止まらない。お互い目を見合わせて、ルーク達もフィフィの後を追った。
 廊下に出ると、すぐにモネとフィフィの姿が見えた。モネがある一室に入ろうとした時、後についてきているフィフィに気付いたようで中腰になり何やら話しかけていた。
「フィフィ!」
 ルーク達が追いつくと、フィフィはそれを見計らったようにモネの肩に飛び乗った。
「わっ」
 モネが小さく声を上げると同時にその体が光り出す。
「!」
 居合わせた面々が驚きから目を見張る。その眼前で、モネの体から黒い影が立ち上る。影の流出が止まると共にモネはその場に倒れ伏した。
「モネさん!」
 影は少しずつ輪郭をはっきりさせながら、ルーク達から距離を取るようにずるずると遠のいていく。フィフィがそれを追いかけ、ティアはモネに駆け寄り容態を確認する。
「…平気よ、気を失ってるだけ!」
 ルークとガイはそれを聞くと影とフィフィを追って走り出した。
「なんで彼女からあれが!?」
「んなの俺にだってわっかんねーよ!」
 走りながらルークがくそ、と悪態をつく。
「なんであいつ喋れねえんだよ!」
 ルークの苛立ちの原因である薄緑色の姿は所内の袋小路で見つかった。フィフィが影を追い詰めるような形で対峙しているのを見ると、ルークがローレライの鍵を手に影との距離を詰める。
「手間かけさせやがって」
 まるで怯えるように震える影目掛けて鍵を振り下ろす。しかし、影は素早く跳ね上がりルークの一撃を躱した。
「なっ」
 そのまま影はルークの脇をすり抜け、俊敏な動きで廊下を滑る。その先にある姿にルークも気づき、ひやりと血が冷たくなる。
「ティア!」
 丁度ルーク達に追いつき、廊下の角を曲がってきたティア目掛けて影が突進する。
「…!」
 ティアは突然のことに身動きが取れず、咄嗟に目を瞑った。バシッと重い音がしたがそれに伴う衝撃は一切無く、ティアが恐る恐る目を開けると目の前にはガイの背中があった。
「…ガイ!」
「平気か、ティア!」
 ええ、とティアが頷くとガイが剣を鞘から抜く。
「大人しくさせればなんとかなるな、ルーク!」
「ああ!」
 ティアを庇うために納刀状態で構えて割って入った時、伝わった衝撃から物理攻撃が有効であると判断したガイ。一部始終見ていたルークもガイの考えを察し、鍵を構え直す。
「狭いから気をつけろよ!」
「わかってるっつーの!」
 狭い廊下の中で互いの動きに気を配りながら影を追う。何度か影がその場から逃げ出そうと飛び跳ねたが、見えない壁にぶつかるようにべしゃりと床に跳ね返されていた。
(フィフィか…!)
 ティアの傍で四つ足を踏ん張らせ影を睨みつける獣の姿を脇目に、ルークは鍵を振るう。ガイとルークの剣筋が幾度か影を捉え、影の動きが明らかに鈍くなった。
「これで最後だ!」
 ルークが鍵を振り上げ、影の中心に突き刺す。力を流すと鍵が震え、影が叫ぶ。パシッと空気が揺れると、それまでの喧騒が嘘だったかのように静寂が戻った。
「……終わった、の?」
「多分な」
 ルークとガイが剣を鞘に納める。
「明らかに今までのと動きが違った」
「ああ」
 互いの無事を確認しながらティアとフィフィの元へ歩く2人。影が消えたあと、床にへたりこんだフィフィをティアが抱き上げていた。
「おいフィフィ」
 ティアの腕の中でぐったりするフィフィの頬をむにっと押し上げて自分の方を向かせるルーク。
「なんでモネからアイツが出てきたんだ」
 フィフィは顔を無理やり歪ませるルークの手を嫌がる素振りも見せずじっと動かない。押し上げられた頬で細まった目はルークをきちんと見据えているのがわかる。ルークがちら、と袋から顔を出すミュウを窺うが、
「…何も聞こえませんの…」
 しょぼん、と肩を落とすミュウ。
「…やっぱダメか」
 ルークもフィフィから手を離す。フィフィはぷるぷると軽く頭を振るとティアの腕に寄りかかって目を瞑った。
「そのモネさんは?」
 ガイがティアに訊ねる。
「先生と近くにいた兵士の人に預けてきたわ。まだ目を覚ます様子はなかったけど…見に行ってみましょうか」
 元いた医務室に戻るとモネがベッドの上に腰掛けていた。
「…あっ、ルーク様!」
 モネは先程目を覚ました女性兵士と医師に囲まれ、ルーク達の姿を見ると立ち上がった。
「もう平気なのか?」
「はい!すみません、私何があったのか覚えてなくて…」
 改めて話を聞くと、身体の異常はもちろん、大きな記憶の欠落もモネには見られなかった。前例のない事態に一同首を捻るが、答えは出ない。終始謝辞を述べるモネを宥め、ルーク達は医師と共に駐屯所を後にした。
「今日の件は症例として纏めて、また明日お渡し致します」
「助かります。ベルケンドへも報告した方が良いでしょうし」
 何より皆さんがご無事でよかった、と医師は微笑みティアの腕で眠るフィフィを撫でる。
「不思議な子ですね、見たことのない生き物ですが」
「フィルフィスパニアという魔物だそうです」
 ふむ…と医師が顎に手を添える。
「その子のことが何か分かれば、手掛かりが増えるかもしれませんね」
「俺もそう思うんですが…」
 ルークの表情が翳ったことに気づき、医師は言う。
「ベルケンドには様々な分野の学者がいますし、助言を得られるかもしれません。私の方でも少し調べてみます」
「ありがとうございます」
 でも専門外ですから、あまり期待はしないでくださいねと医師は笑った。