テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌
5 蠢く影
翌朝。部屋の窓から射し込む陽射しが瞼を刺激するのを感じてルークは目を覚ました。
「う、ん……?」
目を開けると、フィフィの顔が間近にあった。寝ているルークの顔を覗き込んでいたらしい。ルークが目を擦って体を起こすと、フィフィは首を傾げながらルークを見上げた。
昨晩よりは、幾分頭は軽い。まだ少し痛みはするが、意識しなければ平気な程度だ。これならアルビオールに乗るのも問題ないだろう。わしゃわしゃとフィフィを撫でてベッドから出た。
手早く身支度を済ませ、ミュウを起こしてフロントへ降りる。まだ他の二人の姿は無かったが、ノエルが待っていた。
「おはようございます」
「おはよう、ノエル」
「おはようございますですの!」
そのままティア達を待つつもりだったが、ルークの腹が空腹を訴える。聞けば、ノエルも朝食はこれからだと言うので先に二人で出ることにした。ノエルの行きつけの店の名前をフロントに伝えて宿を出る。
その店は決して広くはなかったが、常連らしき客達で賑わっていた。四人がけの席を選んで座ると、ルークの肩にいたフィフィはノエルの膝に移った。席が空いてるんだからそこに座れよ、と思ったがノエルが喜んでフィフィを撫でていたので何も言わないでおいた。
「昨日は大変だったそうですね」
「ああ、まあそこそこな」
ルークの素っ気ない返事に、ノエルは微笑む。
「こんな時に不謹慎かもしれませんが…また皆さんの旅にご一緒できて、嬉しいです」
「ん、またノエルが着いてきてくれるのか?」
「もちろんです」
それとも兄の方がよかったですか?とノエルが笑って茶化す。ルークはすぐに首を横に振って、
「俺もノエルとアルビオールに乗れるの、嬉しいよ」
ルークがそう言って笑うと、ノエルは何故か視線をテーブルに落としてしまった。ルークが不思議に思っていると、
「ミュウもノエルさんと旅ができるの、嬉しいですの!」
テーブルに乗り出しながらミュウが言ったのを見て、ノエルはまた笑う。
「ありがとうございます、お二人とも。空の旅は、私とアルビオールにお任せ下さい!」
「頼りにしてるよ」
「楽しみですの!」
その後注文した朝食が届くタイミングで、ティアやガイも合流した。
「先生のところで昨日の資料を貰ってきたわ」
「ああ、そういやそんな話だったな。ありがとう」
分厚めの茶封筒をガイが座席に置く。食事をしていると、現地の人間がノエルにちょこちょこと話しかけていった。
「やっぱりノエルはシェリダンじゃ有名人なんだな」
「や、やだ、やめてください。そんなんじゃないですよ」
ルークの言葉に謙遜するノエル。
「ただ、アストンおじいちゃんの孫娘だからって皆が昔から構ってくれてただけで…」
「それだけじゃないだろ?あのアルビオールの操縦士なんだ、そりゃみんなノエルと話したがるさ」
「そんなことは…」
ガイの言葉にまたノエルが困ったように笑う。
「今でも、アルビオールの操縦士はノエルとギンジさんだけなの?」
「はい、今のところは」
隣に座るティアの方を向いて、ノエルが答える。
「でも、アルビオールの量産化体制を整えるのと同時に操縦士の育成も行っているんです」
「そうだったのね」
「そっか、どんだけアルビオールがあっても操縦士がいなきゃ飛ばせねえもんな」
ルークにノエルが頷いて返す。ルークの横では、ガイがにやにやしていた。
「船に代わって、アルビオールが世界中を飛び回る未来が本当に来るかもしれないんだな…!楽しみだなぁ、ルーク!」
ばしっと肩を叩かれるが、お、おぅ…と気の抜けた返ししか出来なかった。
「その操縦士の育成は兄が主体に行っているので、今回ルークさん達への同行は私になったんです。兄は悔しがってましたけど」
「ギンジさんには未来の操縦士をしっかり育ててもらわないといけないからな」
「ええ、本当に」
ガイがアルビオールの将来を真剣に考えていることに若干引きながら、ルークとティアは目を見合わせて笑い合う。店の窓から見えた空は、航行日和の快晴だった。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌 作家名:古宮知夏