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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 シェリダンを発ち、ベルケンドまでは一時間足らずで到着した。飛行が安定してからは各々座席から離れて自由に過ごしていたが、ガイに関しては終始落ち着かず、常にどこにいるのか判るほど騒がしかった。
 ベルケンドの近郊に着陸してもらい、アルビオールから降りてもしばらくガイは興奮していた。
「すごいなぁ〜…まさか新型を貸して貰えるなんてなぁ〜!」
 街を歩きながら、ほくほくと語るガイ。片やルークは呆れ顔だ。 
「…無理に着いてこなくても、こっちの用事が済むまでアルビオールにいてもいいんだぜ」
「な!?そりゃないだろルーク!確かにその件で俺に手伝えることはあんまり無いかもしれないが…」
 ルークとしては親切心から提案したつもりだったが、ガイはそうは受け取らなかった。
「お前が頑張ってるのを知りながら、のうのうと待つだけなんて出来るわけないだろ」
 謎の魔物の件で、力になれないことを彼なりに気にしていたようだ。思いがけずそこをつくことになり、ルークは気まずさを感じながらも、ガイの言葉を嬉しく思った。
「……悪かったよ」
 小さめに付けくわけた「ありがとう」がガイに届いたかは、気恥ずかしさで確認できなかった。
 街で一番大きな建造物である研究施設「第一音機関研究所」に着くと、一番最初に出会った研究者をティアが呼び止めた。
「すみません。シュウ先生はいらっしゃいますか?」
「シュウさんですか」
 シュウとは、かつての旅でも何度となく世話になったこの研究所の専属医師だ。シェリダンの医師から、例の奇病の研究にシュウも携わっていることを聞いている。
「今の時間なら医務室にいらっしゃるはずです」
「ありがとうございます」
 研究者は軽く会釈をして立ち去る。ここで働く人達は、シェリダンとは違った忙しなさにいるとルークは思った。ベルケンドもキムラスカ王国の街なので、ルークの顔を見れば何かしら反応がありそうなものだがそういったことは全くない。研究者達にとっては研究が全て。自分たちの住む国のトップが誰で次が誰になるとか、そんなことは些事なのだろう。
 医務室に入るとシュウはデスクに向かっていた。扉が開く音でこちらを見たシュウは、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐににっこり笑って立ち上がる。
「先生、お久しぶりです」
「ルークさん、ティアさん。お元気そうですね」
 シュウに会うのはルークが地殻から帰還した後、身体検査を頼んだ時以来だ。眼鏡の奥の瞳は優しい。ルークは医者は苦手だが、シュウに会うのは嫌ではないと感じていた。
「今日はこちらの件でお伺いしました」
 ガイが資料をシュウに手渡す。それを見て合点がいったシュウは封筒を開きながら応える。
「シェリダンから連絡は受けています。…まさか、使者の方というのが皆さんだとは思いませんでしたが」
「すみません、急で」
「いえ、助かります。あの奇病には我々も手をこまねいておりまして…」
 シュウの言葉がぱたりと止まる。資料に目を通していたシュウの表情が変わっていく。
「…これは」
 本当なのですか、とルークを見るシュウの顔が言っている。ルークは頷き、
「手伝えることが、あるかもと思って」
 シュウは細く長く息を吐き、複雑そうな顔をした。
「…我々はまた貴方にお願いすることになるんですね」
 何かを決心したようにシュウは小さく頷く。
「これに関する研究は、こことは別の施設で行われています。詳しいことは、そちらについてから聞かせて頂けますか?」
 ご案内します、と言うシュウについて歩き出す。着いた先は、第一音機関研究所よりこじんまりとした施設で「音素医療研究施設」と書かれていた。
「各地から送られてきた患者は皆さんここにいらっしゃいます」
 病院特有の嗅ぎなれない匂い。埃一つ落ちていない硬質の床は歩くと靴音がやたら響くように感じて、ただ歩くだけでも体に力が入る。何人かシュウと同じような白衣を着た人物とすれ違い、案内されたのは会議室だった。
「ん…?」
 部屋には二人、医師らしき人物がホワイトボードを前に立っていた。
「よおシュウ。誰だそいつら」
 挨拶もそこそこに背が高い方の医師がシュウに問いかける。
「昨日話したでしょう、レヴィン。シェリダンからいらした使者の方です」
「はぁん?」
 レヴィンと呼ばれた男性はルーク達のことを上から下まで舐めるように睨めつけて言った。
「シェリダンからの使いにしちゃあ随分ご立派な“なり”をしてるようだが」
 久々に真正面から嫌悪感をぶつけてくる人物と対峙して、逆に清々しさすら覚える。ルークは苦笑しながら名乗った。
「ルーク・フォン・ファブレです」
 ティアたちも続いて名乗る。何かひっかかるところがあったようで、怪訝そうな顔をしたレヴィンに、隣のもう一人の医師が耳打ちする。
「ああ、結婚式中に嫁に逃げられた王子様か」
「は!?」
 思いがけない自分の悪評に耳を疑う。
「不敬ですよ、レヴィン」
「だってそうだろ」
「ちげーっつーの!ちゃんと取り戻せたし!そもそも逃げられた訳じゃねえし!」
 一通り反論しながらも、世間的にはそういうことになっているのか…とショックを隠しきれないルーク。その後ろではガイが肩を震わせている。
「笑ってんじゃねーぞ!」
「す、すまん…」
「…それで、失礼ですがあなた方は?」
 そう話題を切り替えたティアの口元もほんのりつり上がっていたことをルークは見逃さなかった。睨み付けるルークの視線から顔を背けるようにしているところから見ても、にやけを堪えていたに違いない。
「レヴィンだ。普段はここで瘴気中毒について研究してる」
「マークです。レヴィン先生の助手で、主にデータ解析等のお手伝いをしてます」
 小柄な男性もまた、見かけ通りの小さな声で答えた。
「レヴィンはこの施設の責任者で、彼らは例の病に関する研究者の第一人者です」
 シュウが付け加えながら、手に持つ封筒をレヴィンに手渡した。レヴィンは面倒くさそうにそれを受け取り、中の資料に目を通し始める。
「責任者…まだお若いのに凄いですね」
「じじい共から厄介事を押し付けられてるだけだ」
 ティアの賛辞にも素っ気なく答えたレヴィンは、資料をめくる手をピタリと止めた。数枚資料を抜き取って、マークに手渡す。それを読み始めたマークはすぐに「えっ」と驚きの声を上げた。ルークとレヴィンの顔を交互に見比べるマークを余所に、レヴィンは部屋から出ようとする。
「せ、先生?」
「実際に見せてもらった方が早い」
 出口の前に立つと、レヴィンはルーク達に着いてこいと顎で示した。
「幸い、被験者には事欠かないんでね」
 ニヤリと笑って歩き出すレヴィン。ルークはそれを見て、彼は医師ではなく、あくまで研究者なのだと認識を改めた。