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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 白衣の三人に案内され辿り着いたのは八台のベッドが設置された大部屋だった。真っ白な壁に窓はなく、それぞれのベッドから規則的な電子音とモーター音が聞こえてくる。ルークにとってはあまり見慣れない光景に、入室する前に少し尻込みした。
「どこからやってもらいましょうかね」
 ベッドの上に横たわる患者を値踏みするように部屋を歩くレヴィンの声音はどこか楽しげですらある。マークが何事かをレヴィンに囁き、「よし」と頷くとレヴィンは向かって右、奥から2台目のベッドを指し示した。
「43歳男性、キムラスカ王国軍所属。カイツールから14日前に搬送されてきた。23日前に発症、以降目を覚ましてない。どうだ?」
 レヴィンの目は挑戦的だ。男性は長くの昏睡状態からか、かなり衰弱しているように見える。
 ルークはガイの肩のフィフィと目を合わせて「やれるか?」と聞いた。フィフィはふわりと床に降り立ち、部屋の中央へ歩み出る。
「レヴィンさん達は下がっててください」
 医師達と入れ替わるように部屋の奥へ進むルーク達。フィフィから少し距離をとった位置で足を止める。
「……」
 フィフィがちらり、とルーク達の方を振り返って首を傾げたように見えた。
「本当にいいの?」
 と聞いたのかもしれない。何故そう感じたのか、そしてそれが正しかったのかはわからないが、ルークはフィフィの仕草に小さく頷き返す。フィフィはルーク達に背を向けるように正面を見据えると、尻尾をひとつ振った。次第にフィフィの身体は光を放ち始め、その足元には真っ白な譜陣が現れた。
「…ねえルーク」
 後ろにいたティアがそっとルークに耳打ちする。
「少し前と違わない?」
 ティアがそう囁いたときだった。
「…!」
 暗紫色の影が部屋に漂い始めた。それはレヴィンが指示した男性からだけでなく、部屋の四方八方、八台全てのベッドから湧き上がっていた。
「おいフィフィ!?」
 ルークが慌てて抜刀する。
「一気にやれなんて言ってねーぞ!」
 宙空を見つめがら狼狽するルークに只ならぬものを感じ取り、ガイやティアも身構えた。
「どうしたのルーク!」
「何が起きてる!?」
 そうこうしているうちにも影はどんどん濃くなっていく。
「ここの全員から霧が湧いてる!」
「なんだって…!?」
 ルークの返答でガイが部屋を見回す。
「…俺には何も見えないぞ!」
「私もよ…!」
「くそっ、なんでだよ!」
 お互いの背を庇うように三人が背中合わせに立つ。やがて八つの黒い塊がはっきりと形を持ち、ずるりと動き出した。
「…来る!」
 ルークの叫びとほぼ同時に、塊が一斉に跳び上がる。その狙いは一点、
「フィフィ!?」
 他の人物には目もくれず、塊は全てがフィフィ目掛けて襲いかかった。それを知っていたかのように、フィフィは自らに張った結界で塊を全て弾き返した。
 フィフィの結界と塊が接触した時にバチッと大きな音がした。八つの塊はそれぞれ四散し、部屋の壁や天井、床に叩きつけられる。
「うおっ!?」
 ルーク達の方へ飛んできたものに関してはルークが剣でなんとか叩き落とした。
「バカフィフィ、周りのことも考えろ!」
 ルークの悪態にもフィフィは軽く首を巡らせて尻尾を振るだけだ。「そのぐらい対処出来て当然」とでも思っているかのようだ。
「…なるほど、全部で八体ね」
 ティアが暗器を構えながら呟く。
「こりゃ骨が折れそうだな」
 ガイの構えた剣の切っ先が一番近くの塊に向けられる。それで、二人にも塊が見えるようになったことが伝わった。
(フィフィの結界に触ったからか?)
 しかし今は理由を考えている暇はない。足元で蠢く塊に鍵を突き刺しルークは叫ぶ。
「とにかく、ひとつずつ潰すぞ!」
「おう!」
「了解!」
 ルークの号令で三者三様に動き出す。塊…魔物はそれぞれ大きさも動きもバラバラであったが、動きが鈍いものから順にルークが分解していく。ルーク達を敵と認識した魔物は次々襲いかかってくる。それをフィフィやガイが弾き返し、ティアが譜術を叩き込む。
 そうして動きを止めたところでルークがとどめを刺し、半分に数を減らした時だった。
「…おい、ルーク!あいつら…!」
 ガイに呼ばれて振り返ると、残っていた魔物が一箇所に集まり出していた。
「…まさか…?」
 ティアが予感を口にする。その前で、魔物達は重なり合って形を変え、境目を曖昧にしていく。そうして四体いた魔物は、大きな一塊になってしまった。
「おー、合体した!」
「感心してんじゃねえよ!」
 ローレライの鍵を構え直し、ルークが自らと同じくらいの大きさになった魔物に向けて走り出す。
「待ってルーク!」
 ティアの声が聞こえた時にはルークは鍵を魔物目がけて振り下ろしていた。
 ギンッ!
「かっ……」
 左肩まで伝わる痺れ。ルークはよろめいて数歩後ろに下がる。
「…って〜〜〜〜!?」
「だから言ったのに!」
 鍵を右手に持ち直し、早く痺れを引かせるように空いた左手をぶんぶん振るルーク。駆け寄ってきたティアにルークは涙目で訴える。
「なんだよこいつ、めちゃくちゃ硬えんだけど!?」
「私に言われても…」
「二人とも!」
 ガイの叫びでティアが言葉を中断した。同時にルークに覆いかぶさり、転がるように横へと押し退ける。次の瞬間には、ドカッという鈍い音と共に、先程までルーク達がいた場所に巨大な塊が降ってきた。
「あっぶねえ…!」
「大丈夫か!?」
 ガイが魔物を挟んで反対側から二人の無事を確認する。標的を逃した魔物はうぞうぞと身体を動かし方向転換をして、再びルークとティアを見定める。
「くっ…」
 なんとか体制を整えようとしていると、魔物はまたズルズルと動き、ルーク達とは反対を向いてしまった。急にどうしたのかと魔物の視線を追うと、その先にはガイの肩の上で身体を光らせるフィフィがいた。理屈はわからないが、どうやらフィフィが魔物の気を引いているらしい。ならばとルークは立ち上がった。
「ティア!下がってろ!」
 ティアを背に庇うように立ち、ルークは鍵を鞘に納めた。
「ルーク!?何を…」
 ティアが立ち上がろうとする前で、ルークは塊に対して両手を突き出した。
「こんだけマトがでかけりゃ、むしろ当てやすい!」
 第七音素を練り上げ、意識を掌に集中する。
(久しぶりだけど…やれるか…!?)
 ピリピリと肌が総毛立つ感覚。腰に下がるローレライの鍵も震えている。気を抜けば全てを吸い込んでしまいそうな引力が掌に生まれる。強力な超振動の発生に魔物がビクリと体を揺らすがもう遅い。
「ギィィッ!!」
 なんとか力場から逃れようと魔物はもがくが、身を捩るほどその体は削れていく。
(いける…!)
 はっきり手応えを感じたルークは更に第七音素を込めて力場を拡げる。
「消え…ろおおおおっ!」
────ギィィィィィィ…!!
 強い発光と共に魔物の姿が掻き消える。断末魔が遠のき、ルークが第七音素を鎮めた時、そこに暗紫色の塊は一片も残ってなかった。