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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 部屋の中は南向きの窓から光が差し込み、想像していたよりは暗くなかった。しかしその窓も大半が積み重ねられた書物に埋まり、天井や壁に取り付けられた譜石が主な光源になっていた。
 扉を越えて一番最初に探したのは、扉前の床にいたはずの人だ。全員が部屋に入り、女性が扉を閉めるとその姿はすぐに見つかった。丁度扉に押しのけられたような位置で床の上に転がっていた。
(生きてるのか…?)
(あれ絶対死んでるって…!)
(とはいえ、確かめようにも…)
 仮に死んでいて、その原因が目の前の女性にあるとしたら迂闊な事をして刺激するのは危険だ。互いに目を見合わせながら皆がどう出るか探りあっていると、
「その子…寝てるだけ…だから……」
 気にしないで、と女性が言った。
「ね、寝て……?」
 こくり、と女性は頷く。
「四日ぶりの睡眠……寝かせて…あげて……」
 いくら四日寝ていないとはいえ、生きた人があれほど動かない事などあるのだろうかという疑問はあえて口に出さず、ルーク達は女性に向き直った。
「それで…お話って……?」
 口調も去ることながら、瞬きひとつとっても女性の所作は非常に緩慢だ。女性の周りだけ時間の流れが違うのではないかと思われる程だった。
(大丈夫なのか?この人…)
(しっ!ルーク!)
 彼女の独特な雰囲気に、まともに話が通じる気がしない不安を漏らすと咄嗟にガイに諌められた。ガイも同じように感じていたという証拠だ。
「失礼ですが、もしかしてノーディス博士は…」
 ティアが言うと女性が「ああ…」と零して少し笑った。
「私……が、オルフェ・ノーディス…です…」
 はじめまして、と顔にかかる髪を耳にかけながらオルフェは言った。
「てっきり男性なのかと…」
「よく…言われます…」
 名前がややこしいみたい、とオルフェはゆったり笑う。ゆるく波打った長い髪に隠されていたため今まで分からなかったが、長い睫毛に囲まれた伏し目がちな瞳は大きく、目鼻立ちもはっきりとしている。病的なまでに青白い肌と目の下のクマさえ無ければオルフェはかなりの美女だった。
(幾つくらいだろ…)
 顔色のせいか、それとも纏う雰囲気のせいか。20代と言われても40代と言われても納得できるな、などと考えながらオルフェの顔をじっと見ていると横からティアに脇腹を小突かれた。
「ぐふっ」
 思わぬ攻撃に唸るルークになど一切目もくれず、ティアはオルフェに淡々と自己紹介を行う。
(今のはお前が悪いな)
(なんでだよ……)
 くつくつと笑うガイを尻目に、ルークは脇腹をさすった。
「……という事で、お知恵を貸していただきたく、訪問致しました」
「わかりました……私で良ければ…」
 依頼を快諾したオルフェは平積みされた本の山を掻き分け、埋まっていたテーブルとソファを露出させる。どうぞ、と促された場所に腰掛けると周囲の本の圧迫感が凄く、本達の間に間借りしているような気分になった。
「あらためて、魔物進化学を専攻する…オルフェ・ノーディスです……」
 何の話が聞きたいの?と首を傾げるオルフェ。
「じゃあまずは…」
 ルークが背中に張り付いていたフィフィを剥がして膝の上に置く。
「こいつに…」
「フィルフィスパニア・プティシオン!?」
 フィフィに対するオルフェの食い付きが凄まじくルークの言葉は立ち消えた。テーブル越しに身を乗り出し、まじまじとフィフィを見つめるオルフェの目は爛々と輝き先程までの気だるげな空気はどこかへ行ってしまった。
「あなた、この子をどこで!いいえ、いいわ、幾らで譲ってくれるの!?」
「え、ちょ…待ってください、こいつは…」
「博士、すみません」
 しどろもどろになるルークにガイが助け舟を出す。
「この子は我々の旅に必要なのでお譲りはできないんです。ただ、この子についてご存知のことがあれば教えていただきたい」
「あら…そうなの……」
 残念……とすごすご席に戻るオルフェ。その豹変ぶりに完全に気圧されて、道具袋の中のミュウが震え上がっているのがわかった。
(面倒くさそうだからそのまま大人しくしてろよ…)
 人語を扱うチーグルなぞ見せようものなら二度と帰してもらえないかもしれない。ルークはこっそり袋の緒を締め直した。
「…やっぱり、そんなに希少種なんですか?」
 会話を続けるようにガイが訊ねた。ジェイドやレヴィンの様子からも珍しい生き物であることは承知していたが、専門の学者がここまで興奮するということは余程なのだろう。
「ええ…とっても……。特に最近は……乱獲で数が減っていて……今、生息が確認されているのは…タタル渓谷だけ……」
「乱獲?」
 オルフェはゆっくりと頷く。
「この子達…大気中の音素を吸収して…エネルギーに変換することで…生命維持するんだけど…吸収する音素の属性の…比率で…体毛の色が…変わるの……」
 話しながらオルフェは立ち上がり、本の山から一冊を抜き出した。
「他の動物には…無い色の毛皮が…獲れるから……裏市場で…高値で売買されているみたい…」
 オルフェがぱらぱらと本のページを送ってテーブルに乗せる。そこには桃や橙、薄紫の体毛を持ったフィルフィが描かれていた。
「その子は…第三音素と第四音素が多め…かしら……毛並みもいいし……高く…売れそう、ね…」
「へえ……」
 ルークに抱えられたフィフィが身を固くしてルークを見上げた。
「バカ、誰も売らねえって」
 ふぅ、とフィフィの肩の力が抜ける。やれやれ、とでも言っているようだ。
「すごい…その子…人の言葉がわかるの…?」
「実際どうかはわからないんですけど…そういう記録はないですか?」
「ええ…見たことがない…そもそもフィルフィは臆病だから、あまり…人に懐かないの…」
 めちゃくちゃ懐いてるけどな、とルークの腕を枕にして寝る姿勢に入っているフィフィを見て思う。
「逃げ足もとても早い…捕まえる時は、専用の檻が必要なの……」
 最近はその檻の技術が密猟者に漏洩して乱獲が進んだのだという。
「だから…気をつけてね…悪い人が…いるかもしれない、から…」
「…そうします」
 ティアがフィフィの頭を撫でる。気持ち良さげにフィフィの耳が動いた。
(こいつなら自分でなんとかしそうなもんだけど)
 ルークの意図を汲み取ったかのように、フィフィはふぁさりと尻尾を振った。