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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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「そういえば、フィルフィは譜術を扱える種族なんでしょうか」
「譜術……」
 確かにそういう魔物もいるけれど…とオルフェはテーブルの上の本を手繰り寄せてページをめくる。
「フィルフィに関しては…そういう事例は…確認されていない…」
 うーん…とオルフェは頬に手を当て考える。
「魔物が譜術を使うのは…生存競争に勝つため…」
 だから攻撃系の譜術を扱う魔物が多いのだとオルフェは続ける。
「フィルフィは温厚な種族で…争いを避けて…食料すら必要のない身体になった……だから、譜術まで会得しているとは…考え難い…」
「…でも、この子は第七音素の譜術を扱うみたいなんです」
「……第七音素?」
 オルフェはしばし考え込む。
「…そうねぇ…」
 テーブルの端に寄せられていた資料の山で一番上になっていた紙を一枚取って何かを書き始めた。
「第七音素は…人の手で偶発的に生み出された、いわば…突然変異物質。自然界に則する魔物は…基本的に、第七音素は扱えない……」
 紙上にさらさらと黒いインクが刻まれていくがルーク達にはさっぱり理解できない。
「でもフィルフィなら、大気中の第七音素を取り込む可能性は…十分にある。第七音素の譜術は…治癒力の促進……。仲間同士の結束が強い…フィルフィ……治癒術なら……会得していても合点がいく、かしら……」
 オルフェのペンが止まり、「うーん…」と首を傾げた。
「…つまり、譜術を扱えてもおかしくない、ということですか?」
「ええ。おかしくはない、わねぇ……」
 しかし、まだ腑に落ちないところがあるのかオルフェはまた逆に首を傾げる。
「でも、そう、とも言いきれない……譜術の行使には、いくつか必要な条件が…あるから…」
 じっとフィフィを見つめるオルフェ。
「……解剖させてくれたら…色々わかるんだけど……」
「それは絶対に駄目です!!!」
 ティアとガイの全力の拒否にオルフェはまた「残念……」と項垂れていた。


「結局よくわからねえな」
 フィフィの体毛サンプルが欲しいと、オルフェが道具を取りに席を外している間にルークが呟いた。
「そうね…珍しい生き物だっていうから、しょうがないのかもしれないけれど」
「フィフィー気をつけろよー」
 本の山の上を飛び跳ねて渡り歩くフィフィをガイが心配そうに見守っている。フィフィが跳ぶたびに辺りに置かれた紙が舞い上がるが、分厚い本の山はビクともしない。一番高いところに到達した時、丁度オルフェが部屋に帰ってきた。
「お待たせ……」
 それを見てフィフィはガイの肩まで三足で戻ってきた。
「まあ……身軽なのね……」
 羨ましい…とオルフェがフィフィに手を伸ばす。しかしその手はフィフィには届かなかった。
「………あら…?」
「…す、すみません………」
 ガイが瞬速でオルフェとの距離を取ったからだった。
「お前まだ治ってなかったのかよ」
「しょうがないだろ…!!」
 ガイは女性に近付くと冷や汗や動悸、めまいなどの発作が出る重度の女性恐怖症だ。そのため女性に接近されるととっさに距離をとる癖がある。かなり改善されているとはいえ、まだまだ完治には程遠いようだ。
 フィフィもやれやれ、というように目を細め、ガイから飛び降りると自らオルフェの元へ近寄る。
「まあ……いい子ね……」
 オルフェが屈んでフィフィの頭を撫でる。フィフィが抵抗しないことを認めると床から抱き上げた。
「…………………………」
 目の前にフィフィをぶら下げたポーズでオルフェが固まる。
「…博士?」
「…………軽すぎる……」
 見てわかるものでもないだろうに、持ち上げたり回したり、あらゆる方向からフィフィを眺めるオルフェ。
「ぬいぐるみ……?…おばけ……?それとも、天使……?」
 少なくともお化けではないことを確かめるように、オルフェは手の中のフィフィの腹を親指で撫で回す。くすぐったいのかフィフィが身をよじった。その中でオルフェが「あら、男の子…」と呟いた。
「そういえば」
 ルークが軽くソファから身を乗り出してオルフェに問いかける。
「そいつって、見えたり見えなくなったりしますか」
 最初はルークしか見えていなかったフィフィは、いつの間にかみんなに見えるようになっていた。オルフェのお化け発言で思い出したことだ。
「ええ……するわよ…」
「するのかよ!?」
 まさかな、と思って聞いたのでそのまさかの返答に思わず叫ぶルーク。ティアとガイが驚いてルークの方に顔を向けた。
「フィルフィは…コンタミネーション現象で…別の生体内に、逃げ込むことが…できるの……」
「こん……?」
 ルークが助けを求めてティアの方を見る。
「コンタミネーション現象。大佐が武器を出したり消したりするあれよ」
「あれか」
 道理で聞き覚えがあるはずだ。
「生体で…自在に、コンタミネーション現象を起こせる例は……希少……だから、フィルフィ捕獲は…特別な檻が、必要なの……」
 そう話す間にオルフェはサンプル採取を終えたらしい。満足げに微笑み、フィフィの背中に頬ずりした。
 コンタミネーション現象。詳しい原理は知らないが、確かジェイドは元素レベルに分解した槍を体内に保持していて、必要時に再構築して出現させているとかだった。フィルフィの場合はその逆で、自らを元素レベルに分解して他の生き物の中に入り込むということらしい。
(でもそれって、“俺にしか見えない”ってことは起こるのか?)
 まだすっきりと納得出ないものを感じていると、オルフェの手から抜け出したフィフィがルークの膝に飛んできた。
「どこかへ…体を、忘れてきて…しまったの…かしら……?」
 そんな馬鹿な、と思うが膝の上のフィフィの重みがオルフェの言葉を否定させてくれない。
「全く鳴かないのも…ストレスとか…心因性の、ものかも……実は…凄い…大冒険を、してたり…してね……」
 後半は冗談めかして微笑むオルフェに対し、当のフィフィは興味無さそうに欠伸をしていた。