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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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「ルークが見たのが本当に意識集合体だったなら、一緒に居た女性もそうなのか?」
 オルフェの研究室を出てきて、レヴィンの元へ向かう途中でガイがそう言った。
「そう考えるのが自然ね。よくアスカと同等に語られるのはルナだけど……」
「ルナは確か黒髪だったよな?ルークが見たのは銀髪だろ」
 そうね、とティアも頷く。その会話についていけないのはルークとミュウだけだ。目を丸くしているとガイが笑って説明してくれた。
「意識集合体の話は神話として絵本とかにもなってるんだ。だからなんとなくは知ってるんだよ」
 お前に読んでやったことはなかったっけ、とガイは顎に手を添える。
「…覚えてねえ」
「お前は他にも覚えることが沢山あったもんな」
 なんとなく疎外感を覚えたルークは面白くないと口を尖らせる。
「彼らについての本は比較的手に入りやすいはずよ。また探してみましょう」
 そんな話をしながら音素医療研究施設に戻ると、ルークはざわりと背筋に這い上がる悪寒を感じた。
「なんだ……?」
 思わず口に出したルークに応えるようにフィフィがその肩から飛び降りて前方を見据えた。
「どうしたの?」
「なんか寒気が…」
 大丈夫?とティアがルークの背に触れる。もぞもぞとミュウが道具袋から顔を出した。
「みゅぅぅ…なんだかお腹がぞわぞわするですの…」
 特徴的な眉を八の字に下げ、か細い声を上げるミュウ。
「ミュウも…?」
 ティアとガイは顔を見合わせるがお互い何ともないことを知ると首をひねった。一度外へ出るか悩んでいると廊下の奥からレヴィンが駆け寄ってきた。
「おい!あんたら何をした!」
「は?」
 その言い草に、ルークは眉間の皺を深く刻みぶっきらぼうに返す。
「患者が次々と目を覚ましてる!あんたらが何かやったんじゃないのか!?」
 驚き戸惑うルークたちの顔を見て、レヴィンは宛が外れたと言わんばかりに舌打ちをして、来た道を戻っていく。
「追いましょう!」
「ああ!」
 床の上で微動だにしないフィフィを拾い上げて廊下を走る。レヴィンが曲がった角に入ると、ルークは息を止めた。
「っ…!!」
 そこに見えたのは、あの暗紫色の塊の群れ。床を這うもの、壁を登るもの、中には液体のような動きで扉の隙間から這い出てくるものもある。それぞれは小さいが、数十メートルはある廊下を埋め尽くさんばかりの影達が形を変えながら蠢いていた。
「なんだこれ…」
 立ち込める霧の濃さに思わずたじろぎ、足が動かなくなる。ルークに抱えられたフィフィが恐る恐るといった体で床に降り立つ。
「どうなってる?」
「あいつらがそこら中、めちゃくちゃいやがる…」
 目を離した隙に襲われるのではないかという恐怖からガイの問いかけに振り向くことも出来ず、声だけで答えるルーク。
「つまり、それが抜け出したから次々と患者が目を覚ましている…ということね」
 見えていないなりに状況を想像しながら、ティアは言った。でもどうして、と小さく付け加える。
「いいか、第七音素による治癒術は使うな!体に異常を感じたら直ちに申し出ろ!」
 病室ではレヴィンが怒声を上げながら医療スタッフに指示を出している。その勢いのまま病室から出てきたレヴィンはルーク達を見ると、
「あんたらは別だ!じゃんじゃん使って何とかしろ!」
 そう叫んでまた別の部屋へと入っていく。その足は黒い影をいくつも踏み抜いたが、影達はレヴィンを追うことはない。その様子を見ていて、ルークはひとつ気づいた。
「あいつら、どこかへ向かってる…?」
「何だって?」
 影達は緩慢な動きではあるが、明らかに同じ方向を目指して動いていた。
「それはまずいんじゃないのか?数がどうにしろ、もし合体しだしたら……」
「…っ…そうなる前に潰すぞ!────フィフィ!」
 さっきは四体が組んだだけでも手こずったのだ。もしここの影が全て組もうものなら……そこに思い至り、ルークはフィフィを呼ぶ。その声に叩かれたようにフィフィは体を震わせ前を見据えた。ひとつ尻尾を揺らし、足元に白陣を展開する。しかし、
「…こっちに来ない…?」
 今までであればフィフィが術を発動すると影達が向かってきたものだが、何故か今回は違った。
「……!」
 影達が動かせないことを知るやフィフィは陣を消し去り走り出す。その足で影達を踏み越え跳躍し、廊下を、壁を、天井を、縦横無尽に駆け抜ける。
「…ルーク…」
「……見えてきたか?」
「ああ、こりゃまた…とんでもないな」
 フィフィは廊下の突き当たりまで辿り着くと、三回ほどの跳躍で来た道を戻り、ひとつの病室へ飛び込む。そこは影達が作る路の行く末で、影達の目的地であることが予想された。
「フィフィ!?」
「あのバカ、何やってんだ!」
 ひとつひとつ潰して歩こうと思っていたが、その暇は無くなったようだ。足元にまとわりつく影をローレライの鍵で薙ぎ払い、時には蹴り飛ばしながら廊下を進み、ルーク達もその部屋へ駆け込む。
 開け放たれた扉を越えて真っ先に目に飛び込んできたのはフィフィの後ろ姿。そして、その前に鎮座する、天井まで届く高さの暗紫色の怪物だった。