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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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「あやうく蛇ごと木っ端微塵にするところでしたね」
「だっ……笑い事じゃねえだろ!」
 気付かず超振動を起こしていたらと想像しかけてぞっとする。そもそも初撃で傷つけなくて済んだのも奇跡だろう。下手したら胴体を真っ二つにしていた可能性だってある。
「ルークの時みたいに旦那の術でなんとかならないのか?」
「ルークには味方識別(マーキング)がありましたから多少手荒くいけましたが…」
 味方識別とは広範囲の攻撃術を放った際、味方にダメージを与えないように予め対象のフォンスロットへ打ち込んでおく識別信号のことだ。今度の救出対象はそれがない為ジェイドの術の威力をもろに受けることになる。
「しかもあのサイズですからね。あれを蹴散らそうと思うと相応のものを用意させて頂きますよ」
「……無事に、とは行かないだろうな」
 どんな素性の者であれ、マルクト帝国が誇る死霊使いの譜術を手加減なしで食らって無傷でいられるわけが無い。
「とはいえ超振動で原子レベルに分解されるよりはマシでしょう。ティア」
「はい」
 ジェイドとレヴィンからいくつか指示を受け、ティアが頷く。少し下がって息を吸い、詠唱に入ったのを見てルークとガイも蛇に向かい合った。
「壮麗たる天使の歌声────」
 そして九音。またピクリと蛇の体が揺れた。じっと食い入るように紅い双眸がティアを見つめる。だがそれ以上は何も無く、ティアが歌い終えると譜歌の加護が場を包んだ。聖なる風で澱んでいた空気が澄んでいく。加護により力を高めたジェイドが詠唱を始めた。
「無罪の剣よ…」
「女神の慈悲たる癒しの旋律────」
 ティアは休みなく次の術を準備する。救出した患者をすぐさま手当するための回復術だ。敢えて通常の回復術ではなく譜歌を選んだのは、第七音素を使わないようにというレヴィンの指示があったからだ。ティアの詠唱が終わるのを見計らって、ジェイドも音素のコントロールを錬磨から放出に向けて切り替える。
「────七光の輝きをもちて降り注げ」

 ……さ………
 
「…なんだ?」
 何かが聞こえた、とルークが思った刹那。ずっと大人しくしていたフィフィが飛び出し蛇の胴体目掛けて跳躍した。
「な────!?」
「プリズムソード!」
 止める間も無く、ジェイドの譜術が発動した。蛇の頭上に生じた強い光が部屋中を照らす。いくつもの白剣が蛇に降り注ぎ、体を貫いた。蛇は悲鳴ひとつ上げず、剣が刺さった部分から融けるように崩れ落ちていく。その中からずるりと一際大きな塊が抜け落ちたのを見てルークとガイは駆け出した。
 辛うじて視認できた腕らしきものを掴み、泥のようになった影の中から引きずり出す。ティアの目の前まで下がって救出した人物を横たえると、それは細身の少年だった。目立った外傷はないが意識もない。細く白い腕はだらんと投げ出され、触ると冷たかった。
「生きてるか!?」
「ティア、頼む!」
 ティアが瞬きだけで応じ、譜歌を発動させる。ほのかな涼しさと清浄な光が辺りに満ち、少年が僅かに身動ぎした。すると少年の胸元に光の粒子が集まり出し、だんだんと浮かび上がるようにフィフィの姿が現れた。
「フィフィ!お前何して────」
 ルークの非難には一切耳を貸さず、フィフィは少年の胸から降りると床に飛び散った怪物の欠片を前脚で叩きながらルークの目を見つめる。
 次はあなたがはたらく番。
「〜〜〜っ…!」
 そう言わんばかりのフィフィの態度に、腹から湧き上がる感情を抑え込んでルークは歯噛みし立ち上がった。
「わーったよ!」
 少年のことはティアとガイに任せることにして振り返ってみれば、散り散りになった怪物の欠片はそれぞれ蠢いているものの、先程のようにすぐに集まり出す様子はない。一番近くに転がる影から手を付けようと思っているとジェイドが声をかけてきた。
「ルーク。あなたは中央の一番大きな物からお願いします。周りの細かいのは我々が」
「我々?」
「説明は後で」
 わかった、と頷いて元々蛇が鎮座していた場所で蠢く不定形の塊にローレライの鍵を突き立てる。
(消えろ────!)
 ルークの思いに応じるように超振動は紫色の塊を易々と消失させた。目標の処理を終えてルークが一息つくと、周囲の塊がルークにゆっくりにじり寄ってきた。
「げっ!?」
 足を取られないよう鍵を振って散らすが四方八方から集まってくる影達を全てあしらう事はできない。このままではジリ貧だと焦っていると、
「セイントバブル!」
 ルークを中心にジェイドの譜術が展開した。術が落ち着くと、ルークに近寄っていた影はほとんど消えていた。
「この程度なら我々でもいけるということですね」
 ジェイドの言葉を不思議に思い、見ればガイやティアも剣撃や攻撃術で周囲の小さな魔物を消滅させていた。
「ただ少し大きくなると消しきれないようです。そこは頼みましたよ、ルーク」
 ひらひらと手を振るジェイド。周りを見れば残りは「少し大きい」魔物が若干数残っているだけだ。あとは任せたと言うことだろう、ジェイドは手をポケットに突っ込み静観の姿勢に入った。
(もう動く気ねえじゃん…)
 とはいえ文句を言える立場でもないので黙って鍵を振るう。その後は順調で、最後の一匹を片付けるとティア達の会話が耳に入ってきた。
「大丈夫、体に違和感はない?」
「…平気…です」
 鍵を鞘に納めながら皆が集まっている方へ近づくとティアに支えられて少年が上体を起こしていた。何度か目を瞬かせ、首を巡らせると茶色の瞳がルークを捉えた。整った目鼻立ちは一見少女のようにも見えるが、長い手足についた無駄のない筋肉は少年のものだ。その容貌を見て、ルークは冷たい水を飲み下した時のように胸がすっと冷えるのを感じた。
 瞬時に、今浮かんだ考えは口にしてはいけないものだと感じてぎゅっと口を引き結ぶ。
「名前は言える?」
「名前……」
 まだ焦点の定まらない視線をティアに送り、少年はティアの言葉を繰り返す。
「………リヴ…」
 短く発されたそれが彼の名前だとルークが気付くより早く、リヴは目を閉じ寝息をたて始めた。何気ない動作でレヴィンが脈を確認し、ふ、と息をついて立ち上がる。
「床に寝かせておくわけにもいかん。ベッドに運んでやれ」
 ほら、と顎で指示を出すレヴィンに対し、半ば諦めたように「はいはい」と動いたのはガイだ。何故かこういう役回りはいつも俺なんだよな、と慣れた手つきで少年を抱えてベッドに運ぶ。
「さてと」
 首を右手で押さえながらレヴィンがルーク達に向き直る。
「お互いに色々話すことがあるはずだ。場所を移すぞ」