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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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6 瘴気集合体


 俺達はこの小僧を診ていくから先に行ってろ、と指定されたのは当初訪れる予定だった音素動態学研究室だった。場所はジェイドが知っていたため迷うことなくたどり着いた。
 部屋には見たことの無い音機関が所狭しと並び、オルフェの研究所とはまた違った乱雑さがあった。あちらは分厚い書籍特有の重厚感で満ちていたが、こちらは恐らく計測器と思しき音機関の間に散らばるレポート用紙が部屋をより雑然と見せている。一度目を通したらもう用済み、と言わんばかりに捨て置かれたそれらは部屋の主の粗雑さを感じさせた。
「ジェイドはレヴィンさんたちの事知ってたのか?」
 怪物を前にした時の二人のやり取りを思い出し、ルークが訊ねた。それに対しジェイドは、ええまあと軽く返した。
「彼らの研究に興味がありまして、何度かこちらへ立ち寄ったことがあるんですよ」
「確か瘴気に関する研究だったな」
 ガイが周囲の音機関を眺め(るというには近すぎる距離で凝視し)ながら言った。
「ええ。主に瘴気が人体に及ぼす影響、ひいては瘴気中毒の解毒法の研究です」
「でもどうして。瘴気はルークが浄化しただろ。瘴気発生の原因だったプラネットストームも停めた、なら今更必要ないじゃないか」
 素直な疑問を口にしたガイに対し、ジェイドは一瞥をくれた後眼鏡に触れながら言った。
「そうです。少なくとも、あの時点で発生していた瘴気は全て消えた。そして瘴気は今後生まれることはない。多くの者がそう考えていました」
 私もその内の一人です。そう言ったジェイドの表情は、いつもと変わらないはずなのに少し強ばって見えた。
「当然この研究室は潰すことになりました。しかし、部屋の撤去直前にレヴィンが瘴気発生を示唆するデータを出したんです」
「…そんな」
 ティアが思わず呟く。
「以前と比較すればわざわざ取り沙汰すのもアホらしいくらいの量です。ですが、重要なのは“瘴気が発生している”という事実。それを突きつけて彼は言いました。『これは未来のための研究だ。先人達が見て見ぬふりをしてきたツケを支払う時が今なのだ』と」
「へえ……」
 そんな殊勝なことを言うことようには見えなかったが、人は見かけによらないなとルークが感嘆を漏らすとティアと目が合った。なんだ?と軽く首を傾げると、
「…ショックじゃないの?命をかけて浄化した瘴気がまた発生しているなんて」
 ティアが暗い顔をしていた理由に合点がいき、ルークは一瞬考えたが直ぐに気を取り直した。
「そりゃ全くないとは言いきれねえけど。少なくともこれからどうしたらいいのか考える余裕は残ったんだろ?」
 ならやった意味はあったよ、と言うルークをティアは言葉もなく見つめる。
「…ルーク!」
「うわっ」
 ぐいっと右に引っ張られバランスを崩した。ガイが横から肩を組んできたせいで前のめりになった所を、ガイの空いた右手でわしゃわしゃと頭を撫で回された。
「なにすんだよやめろ!」
「そう言うな。お前の成長が嬉しいんだ、このくらいさせろよ」
 嫌がるルークをよーしよしと大型犬を可愛がる要領で撫で回し続けるガイ。それを見ていたティアが軽く笑ったことに気づき、ルークは恥ずかしくなってガイの腕から強引に抜け出した。
「ったく……」
 乱れた頭髪を手櫛で整えていると部屋の扉が開いた。
「待たせたな」
 レヴィンとマークだ。レヴィンは手に持っていた紙の束をデスクに投げ捨て、普段から座っているのだろう回転式の椅子にどかっと座り込んだ。対するマークはルーク達に「こちらのソファ使ってください」と着席を促し、会釈の後にそそくさと奥の部屋へ引っ込んだ。
「彼の容態は?」
 ティアがレヴィンに尋ねる。先程救出したリヴという少年のことだ。
「問題ない。そのうち目を覚ます」
 それを聞いてルークも胸を撫で下ろす。同時にリヴの容姿を思い出し、また違う意味で腹のあたりがそわつくのを感じた。
「あのガキはあんたが連れてきたんだったな」
 レヴィンが椅子に深々と身を沈めてジェイドに問いかける。ええ、と答えたジェイドにルークはまた驚く。
「セントビナーだったか」
「そうです。あそこでは何故か彼以外に罹患者は見つかりませんでした」
「なるほどな」
 何がなるほどなのか、完全に置いてけぼりになったルークは二人の顔を交互に見やる。レヴィンは腕を組み目を閉じて、一拍おいて「よし」と目を開けた。
「“あれ”の話をするぞ」
 レヴィンがデスク周りの資料を集め出すと丁度奥の部屋からマークがコーヒーを持って出てきた。ルーク達も来客用のソファに腰を据えて話を聞くことにした。