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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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「結論から言う。あれは瘴気だ」
 何となく予感はしていたが、その一言は胸に重くのしかかった。しかしレヴィンの単刀直入な物言いは一切の否定も、反論の隙も与えない。
「瘴気の塊と言うべきか。その体組成は98.5%が瘴気、残りは第七音素が主だが第一から第六の音素も少々。そして炭素、水素、酸素その他重金属類が極少量ってとこだ」
「それが意思を持って動いている、ということですか」
 レヴィンが立ちあがり、部屋の隅に備えられた巨大な棚の扉を開けて何かを取り出した。真四角の人の頭程の大きさの箱だ。相当冷たいのか、箱には冷気が白いもやとなってまとわりついていた。
「知性については個体差が大きそうだ。だがどいつも一定の習性に従って動いているのは間違いない」
 レヴィンが語るうちに箱の表面についたくもりが消えていき、内容物が見えた。それはルーク達が苦労して捕獲したあの黒い影だった。
「冷凍したのか!?」
「サンプルは鮮度が命だからな」
 悪びれもせず答えるレヴィンは箱を揺らして見せた。透明な箱の中で揺らされる影は箱に当たってガツガツと硬質な音を立てる。それをデスクにおき、また別の四角い何かを手に取ってレヴィンは再び腰を下ろした。
「瘴気が第七音素と結合しやすいことは知っているか?」
 そう聞いて思い出したのは、もう会うことは叶わない緑の髪の少年。常に優しい微笑みをたたえていた彼は、ティアの体を蝕んでいた瘴気と共にプラネットストームへ還ったのだった。ルークは一度ティアと目を見合わせ、レヴィンに対してこくりと頷いた。
「先のお前達の戦闘を見返したところ、これも第七音素に反応して動きを変えていることがわかった」
 レヴィンが手元の「四角い何か」を操作してルークたちに向ける。小さな箱のように見えるそれには見覚えがあった。黒い魔物と戦った後、マークが操作していたものだ。向けられた箱の側面はガラス板が嵌められようにツルツルとしており、その奥ではルークが、ガイが、ティアが魔物たちと戦っていた。箱の中のルーク達が話し、叫び、魔物を倒す。
「なんだこれ…!」
「映像記録装置だよ。死神のラボに転がってたやつを拝借してる」
「ディストがこれを!?」
 やっぱりすごい奴だ…と感嘆するガイは誰よりも間近で映像を確認している。確かにその中では、数時間前に自分たちが体験した状況がそっくりそのまま再現されている。これが映像記録か、と不思議な気持ちで眺めていると丁度フィフィの体が発光し、魔物が狙いを変える場面になった。レヴィンが箱の脇に並ぶボタンの一つに触れると、映像はピタリと止まった。おお、とガイが声を漏らす。
「その毛玉は魔物の性質を知ってか知らずか、第七音素を集積させることで注意を引いていたようだな。魔物も知性はなくとも本能はある。増殖するために栄養分や日光を求めて動くバクテリアみたいなもんだ」
「つまり、第七音素を好んで食べる…?」
「そういうことだ」
 患者に第七音素保持者が多い理由もそれで説明がつくとレヴィンは言う。
「坊ちゃん。魔物は患者の体から抜け出てくると言っていたな」
「あ、ああ」
 坊ちゃんと呼ばれ、俺の事か、とルークは頷く。
「それはどんなタイミングだった?」
 改めて訊ねられ、今までのことを思い起こす。
「最初はティアが治癒しようとした時…その後は、フィフィが触れたり、術を発動した時だった」
「第七音素の集積があった時ですね」
 ジェイドが言葉を挟み、レヴィンも頷く。
「恐らくだが、こいつらは第七音素のある所を渡り歩きながら、行った先の第七音素を吸収してるんだ」
「だから第七音素を感じるとそちらへ移動しようとするってわけか」
 ガイがティアの方を見て言うと、レヴィンがまた一枚の紙を手にして話し出す。
「うちに集められた患者のデータを見たところ…まだ完全に割り出せたわけじゃないが、治癒術士(ヒーラー)が感染源となっていた可能性は高い」
「どういうことだ?」
 まだ仮説の範疇だけどな、とレヴィンはペンを取る。
「発生源は謎だが、まず一人の治癒術士が感染したとしよう」
 紙上に一人の棒人間が現れ、ぺたりと付箋が貼られる。どうやら付箋が魔物を表しているらしい。
「この治癒術士に第七音素保持者が治療を受ける。この時、もし体内の第七音素量に差があったら…魔物は餌が多い方へ移動する。感染だ」
 二人目の棒人間へ付箋が移動した。
「なるほど」
「ですが、それでは患者は増えないですね」
 頷いたルークの横から出たジェイドの台詞に、ルークは眉をひそめた。
「次々対象を移していったら、患者はずっと一人のままのはずでしょ」
 ティアの注釈で、ルークも合点がいった。だとすると、今患者がこんなに増えている説明がつかない。   
「だが、この魔物が分裂可能なのだとしたら?」
 レヴィンは付箋を再び剥がし、中央で引き裂いた。そして二人の棒人間の上にそれぞれ置いた。
「増えた」
「この魔物を抱えた治癒術士は気付かぬままに仕事をし続け、さらに感染者を増やす」
 治癒術士の周りにもう三人の棒人間が増え、付箋もちぎられ乗せられた。
「時間が経ち、症状が出ると何も知らない他の治癒術士は患者を治療しようとする」
 二番目に描かれた棒人間の隣に新たな棒人間。こちらも付箋が乗せられた。
「二次感染だ。その治癒術士はまた仕事にもどって他者を治療する……」
 紙面には多くの棒人間が描かれ、粉々になった付箋が散りばめられた。
「こうして患者は鼠算式に増えていくわけだ。ようは風邪と一緒だな」
 風邪、とルークが呟く。それにしては症状が重すぎるだろうという感想は空気を読んで飲み込んだ。
「風邪と違うのは第七音素を介した接触がないと感染しないことだな」
「空気感染しないのであれば予防策も取りやすくて助かりますね」
「あとは魔物の個体差か、患者の抵抗力の差なのか…症状の出方がまちまちなのが気になるところだが」
「発症時期のずれもですね。対策をとってもまだまだ患者が出てくる可能性がある」
 レヴィンとジェイドが難しい話を始めたのでルークはもう内容を聞くのをやめた。
 ふとレヴィンの後ろのデスクを見ると、先程冷凍庫から取り出された魔物が解凍されて見た目柔らかさが戻ってきていた。半解凍のゼリーみたいだな、と眺めていると魔物はピクリと震えた。
「!」
 ルークが皆に声をかけるより早く、フィフィがデスクに飛び乗り透明な箱にダンッと勢いよく足を掛ける。フィフィの威嚇に魔物はビクッと揺れた後小刻みに震えていた。怯えて、というより寒さのせいかもしれない。
「生きてたか」
 気づいたレヴィンが透明な箱を持ち上げ席を立つ。
「それどうすんだ?」
「もう一回冷やす」
「まじか」
 今は捕獲出来ているとはいえ、危険な存在であることに変わりはない。分解した方が良いのでは、と思いルークは尋ねてみたがレヴィンにその気はないらしい。
「凍らせても解凍すれば戻ることが今証明された。タフな研究資材はいいぞ、使い道がじっくり考えられる」
 ぱたりと閉じられた分厚い冷凍庫の扉の向こう、相手は瘴気だがその身に今後降りかかるであろう災難を考えると「頑張れ」と思わずにいられなかった。