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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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「魔物魔物と呼んできたが、そろそろ固有名称があった方がいいだろう」
 椅子に戻ったレヴィンがコーヒーを手にしながら言った。
「奇病の感染源…ということなら“瘴気集合体(コンタギウム)”は如何ですか」
「ほぉ…なるほど。まあいいんじゃないか」
 ジェイドとレヴィンによって魔物は「瘴気集合体」と名付けられた。ルークが、コンタギウムってどういう意味なんだ?と周りに小声で聞くと「伝染病原体という意味ですね」とマークが教えてくれた。
「少し相手の正体が見えてきたな」
 ガイの言葉にルークも頷く。
「あいつら、瘴気だったから俺が消せたんだな」
「理論的には超振動でなくても消せるはずだ」
 ジェイドと話していたはずのレヴィンがルークの台詞に食いついた。
(頭いい奴ってみんな地獄耳なのか?)
 恐えな、とジェイドの顔を盗み見るとにっこり微笑まれた。
「超振動…俺は専門外だが、要は第七音素の振動数を増幅して対象─────今回でいうと瘴気の音素乖離を促進して分解してるってことだろ」
「そしてその力を彼が持つローレライの鍵で補助している」
 レヴィンは再び映像記録装置を操作して、一時停止されていた映像を再生する。映像では一際大きくなった瘴気集合体をルークが超振動で完全に消失させていた。その後、レヴィン達の会話が数秒入って映像は終わる。レヴィンは真っ暗になった箱をデスクに戻しながら話し始めた。
「瘴気に関しては発生条件や組成等、まだ解ってないことが多々あるが…ひとつ言えるのは、大きな力をかければ分解可能だということだ」
「大きな力…」
 リヴを救出したときのレヴィンの言葉を思い出した。
「瘴気集合体に対しても、強力な音素振動を与えれば分解できる…そう仰っていましたね」
 ティアがルークの考えを引き継ぐように口にした。そういえば、とガイが懐を探り小さなボタンのようなものを取り出した。
「これも関係してるんですか?」
 それを見てティアも同様、同じような形の物体を掌に出した。レヴィンが二人からそれを受け取り、手の上で観察しながら答えた。
「そうだ。これは周囲の音素振動数を検知し、同じ波長の振動を起こすことで譜術や物理攻撃の威力を増幅させる超小型……あーこりゃイカれてんな」
 壊れていることがわかると、レヴィンはその装置をデスクに投げ捨てた。
「ああ!先生、それサフィール博士にお返ししなきゃいけないやつですよ!」
「もうぶっ壊れてんだからいいだろ」
「そうもいきませんよ…」
 資料やサンプルが積み重なり魔窟と化したデスクに転がり込んだ小さな装置を回収すべく、マークは資料を掻き分けだした。
「…とまあ、あんな具合の装置があれば、対象によっちゃあ誰でも分解できるわけだ」
 大蛇との戦いの終盤、今まで威嚇程度しかできなかったティアやガイも瘴気集合体を消滅させられたのはそのおかげだったらしい。
「超振動とローレライの鍵には到底適わないようですがね」
「人智を超えた聖遺物と比べてやるなよ」
 ジェイドも手の内に出した丸い装置をマークに手渡した。他のふたりのものに較べて、明らかに黒く焼き焦げているのが遠目にもわかった。
「わ…発火寸前でしたね」
「次はもっと耐久性を上げておくよう伝えてください」
「まあ、次を作ったところで相手が見えなきゃ意味が無い訳だが」
 レヴィンの視線がガイの肩に向けられる。
「この瘴気集合体との戦い、残る鍵は奴らの可視化になる」
「…フィフィか」
 レヴィンの視線の意図を察して、ルークが訊ねる。ガイの肩上ではフィフィが毛繕いをしていた。
「あんたもだ、ルーク坊ちゃん」
「俺も?」
「確かに毛玉は瘴気集合体を俺たちに見えるようにできるが、あんたはそれでなくても奴らが見えるんだろう」
「…まあ」
 そうだけど、と小さく答える。自分が他と違う存在なのだと肯定するようで、あまりいい気分ではなかった。
「理屈がわかれば再現できるかもしれないが、まさか解剖する訳にもいかないからな」
「冗談でもやめてくれ」
 顔の中心に皺を寄せて首を振るルークに、つまらんやつめ、とレヴィンは肩をすくめる。そしてちら、とルークの時より幾分真剣味を帯びた眼差しがフィフィに向けられるとガイが掌を見せ、はっきり拒否の意を示す。不穏な気配を察知したのかフィフィは隠れるようにガイの背中にへばりついた。
「しかし、気になるのは確かですね」
 いつの間にかガイの背後に回っていたジェイドがフィフィの身体を両手で掴み胸元に引き寄せる。
「一体どういった原理で奴らを見えるようにしているのか…接触が不可欠であることは判りますが」
 瞳を覗き込んだり喉元を撫でたり、フィフィの身を検分するジェイド。その間フィフィは不自然なポーズのまま体を硬直させ、瞬きひとつしない。その姿はさながら天敵の前で死んだフリをする被食者のようだった。
「瘴気集合体の可視化だけではない。救出時、少年がほぼ無傷だったのもこれの仕業でしょう」
「そうだったのか?」
 ジェイドがルークに気を取られた隙をついてフィフィがその手から抜け出した。おや、とジェイドが呟く間にフィフィはティアの胸まで逃げた。
「嫌われたもんだな」
「本能ってすげえ」
「皆さん酷いですね、こんな人畜無害な紳士をつかまえて」
「マークー。人畜無害と紳士って辞書で引いて音読してやれー」
 マークは苦笑いで返し、ティアは腕の中のフィフィの背中を撫でてやる。余程怖かったのか、フィフィの尻尾は今まで見たことがないほどくるくるに丸まっていた。
「で、リヴが無傷だった理由っていうのは?」
 フィフィの姿を見て頬を緩ませたままガイがジェイドに問う。
「味方識別(マーキング)を利用したんでしょう。譜術が発動する直前、リヴにコンタミネーションして彼を味方識別させた訳です」
 リヴが救出された直後、その体から光の粒子が抜け出てフィフィの姿が現れたことを思い出した。
「……そんなこと出来るのか」
「全て推測ですがね」 
 ジェイドはフィフィの背中に視線を寄越す。その眼差しに一瞬嫌が宿ったことには誰も気付かなかった。
「そうでなければあの坊主が無事であった説明がつかんわな」
「そういうことです」
 ジェイドは憶測で物を話す事を嫌う男だ。それがわざわざ口にしたということは殆ど確信しているのだろう。フィフィが自ら語らない限り、答え合わせは出来ないが。
「どうしました、ティア」
「いえ…」
 じっとフィフィを見つめ、その背を撫でるティアにジェイドが敢えて声をかけた。 
「この子の知能が高いことは想像していましたが、ただの魔物がそこまで考え付くものなのか、と…」
「いくらなんでも賢すぎる?」
「…はい」
 それはここまで幾度も感じてきた違和感だった。人の言葉を理解しているようであり、第七音素までも使いこなす。それに加えて誰も成し得ない瘴気集合体の可視化、コンタミネーション現象を利用した対象の救出…ここまで来ると、もうただの魔物とは評し難い。
「今後はフィフィの口を割ることが最重要課題になりそうですね」
 何をする気なんだ、と場にいた全員が思ったが誰もそれを口にはしなかった。