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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 宿泊している部屋に備わったバルコニーに出て、辺りに響かないようにそっとガラス戸を閉める。手すりに寄りかかり、僅かに雲が流れる星空を見上げるとシャワーを浴びて火照った頬に冷たい夜風が当たった。
「ルーク?」
 聞こえたのはティアの声だ。左隣、ティアとノエルが泊まっている部屋の方向から聞こえてきた。部屋のバルコニーはそれぞれ独立し、間には衝立が存在するが手すりから少し身を乗り出せば互いの顔が見えた。
「…ティア」
 ルークが外に出てきた事に気づいたということは、ティアはそれより前からそこにいたのだろう。どの位そうしていたのかは分からないが、ティアの顔に朱い色は見てとれなかった。
「……考え事?」
「ああ…うん」
 そう訊ねるということはティア自身もそうだったのだろうか。ルークが疑問を素直に口にする前にティアが続けた。
「ルーク、まだ髪濡れてるじゃない。風邪引くわよ」
 ルークは咄嗟にまだ湿っている自分の頭を触り、バツが悪そうに口を尖らせた。
「…そういうティアだって、ずっとそこにいたんじゃねーの」
 少し驚いたらしいティアは僅かに目を見開いた。彼女は基本ポーカーフェイスだが、実は完全に無表情というわけではない。最初に比べると、その微妙な変化にも大分気付けるようになってきた。
「私は……」
 別に、と言って口を噤むティア。明らかに何か抱えているのに、こうなるとなかなか口を割らないのだ。その度に、自分は相談相手にすらならないのかと不満に思う。ルーク自身は彼女に対してはなんでも話したいと思っているから尚更だった。
「そうかよ」
 子供っぽい卑屈さは出さないように精一杯隠したつもりだったが、語気が強くなってしまった。嫌味っぽく聞こえただろうか。横目でティアの様子を盗み見てみるが、横髪で隠れてその表情は見えなかった。
「えっと…なんかさ、大変な事になってきたよな」
 なんとかティアの機嫌を取り持とうとルークは慌てて話題をひねり出した。ティアが顔を自分に向ける気配を感じながら、ルークは続く言葉を考える。
「最初はただアッシュを探して、ナタリアを起こすためだったのにさ。また意識集合体とか、変な病気とか瘴気とかも出てきて…」
「────ルークは」
 話を遮るように入ってきたティアの声に、ルークは思わず顔を上げた。
「ルークは、これからどうするの?」
「…どう…って」
 ティアの質問の意図が分からず、困惑するルーク。眉をひそめてティアの瞳を見つめていると、ティアが首を振った。
「あ…違うの、私…ごめんなさい。なんて言えばいいのか……」
 半分独り言のように呟き、しばらく間を置いた後、またぽつりぽつりと話し出した。
「私はアッシュやナタリアの手がかりを探すために、まずはアスカのことを探りたいと思ってて」
「うん…そうだな」
 ルークが頷くとティアは首を傾げ、また斜め下に目線を外した。
「でも瘴気の問題も浮かんできてる」
「瘴気のことはこれからレヴィンさん達が研究してくんだろ?」
「とはいえ、病に罹って昏睡状態になっている人達はこれからもここに送られてくるはずよ」
 なんとなく、ティアが言わんとしていることがわかり始めた。ティアの目線はどんどん下がり、ルークから離れていく。
「瘴気集合体に関しては、今のところ貴方の超振動しか決定打がないでしょう。…だったら、貴方はここに残った方がいいのかもしれないって」
「…それは」
 どこかで自分も考えていたことだった。ナタリアやアッシュの手がかりを探るために、光る鳥…意識集合体アスカについて知る必要がある。そうなると次の目的地はダアトのはずだった。しかし、ルークに今のベルケンドを離れることは許されるのだろうか。
「ルークがここに残るとしても、調査には私が行くから安心して。ただ護衛が減るのはまずいから、神託の盾(オラクル)の支部に掛け合って見ようと思う」
 ガイには貴方についててもらわなきゃね、と少し早口になりながら言うティア。最早ここでルーク達と別行動を取るつもりでいるようだった。
「ティア─────」
 まだ自分は何も言っていないのに。幾分空回っているティアの思考を止めるためにルークが口を開いた。
「…いっくしゅ!」
 それはどんな言葉よりも効果的だったようで、はっとティアが顔を上げた。ルークがずずっと鼻をすするとティアは眉尻を吊り上げて言った。
「…だから言ったじゃない!本当に風邪引くわよ!」
「う、うるせえな!今のはちげえよ!」
 何が違うのか知らないが、考えるより先にルークは反論する。首にかかるタオルで口元を押さえ、恥ずかしさで赤くなっているだろう顔を隠す。
「早く部屋に入った方がいいわ、引き留めてしまってごめんなさい」
 声音と表情から本気で心配していることがわかる。まだ言いたいことはあったはずだが、そんな彼女にまで強く出ることが出来ず、ルークは渋々引き下がった。
「…おう」
「おやすみなさい」
 おやすみ、と返すとティアが緩く微笑み衝立の向こうに消えた。カラカラとガラス戸が動く音が聞こえ、ルークもまた戸に手を掛けて室内に戻った。
 鍵をかけ、しっかり閉まったことを確認して振り返るとまたくしゃみが出た。このまま本当に風邪を引いては格好がつかない。首のタオルを頭にかけ、がしがしと髪の水分を飛ばす。手を動かしながら自分のベッドに腰掛けると、隣のガイのベッドの上にフィフィとミュウが寝そべっているのが目に入った。ガイに風呂に入れてもらったばかりの二匹の毛並みはふかふかだ。
(あーめんどくせえ)
 なんとか早く乾かないかと乱暴に手を動かす。髪が長くなってから、洗髪の手間はかなり増した。一度短くした経験が染み付いているルークにとって、今の腰まで届く長髪は少し煩わしかった。
 いっそ切ってしまおうかと何度も考えたが、アッシュのことがちらつくと今後どう転んでもいいように、という意識が働いてしまって踏み切れずにいた。あまり気にしない方がいいことは解っていても、まだ心のどこかでアッシュに遠慮しているのだ。
 頭に浮かんだもやつきをぶつけるように自身の長い髪と格闘しているとシャワールームからガイが出てきた。
「ふー」
 ガイは冷蔵庫から水を取り出してソファに座った。頭にかけたタオルを外すと、風呂から上がったばかりにも関わらず短いガイの髪はルークよりも余程乾いていた。
「…ずりぃ」
「は?なんだ、どうした?」
「なんでもねーよ!」
 ルークが不貞腐れる理由が分からないガイは謂れのない暴言に首を傾げるばかりだった。