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　大きな鳥は、ガラスが割れた窓をくぐって侵入し、悠然と翼をはためかせて中空に留まっている。体躯は黄金に輝き、両翼の風切羽や尾の飾り羽は虹色に光る、未だかつて見たことがない姿をした鳥だった。
(魔物！？こんな所にどうして…！)
　即座に、ステンドグラスを割ったのはこの鳥だと直感した。ナタリアを背にかばい、左腰に手を向ける。
(…しまった、武器が…！)
　つい癖で腰の剣を探ったが、今は婚儀の最中だ。新郎のルークは帯刀していない。
｢ルーク様！ナタリア殿下！｣
　セシルがキムラスカ兵と共に駆け寄ってくる。
｢お怪我はございませんか？｣
｢あ、ああ｣
｢私も大丈夫です…ルークが庇ってくださいましたので｣
｢よかった。お二人共、お足元のガラス片にご注意を。少しお下がりください｣
　セシルはナタリアの手を引いて後退を促す。ルークもまた、別の兵士に下がるよう言われた。
　さすがにおかしいと気付いた。観衆も突然の出来事にざわついてはいるが、その場から動いたり逃げようとする者はいない。すぐ背後に魔物がいるトリトハイムも、兵士に促されてようやく主祭壇から降りて歩き出した。
(まさか、あれも俺にしか見えてないのか…？)
　来賓席にいるティアやジェイド達を見ても、少し腰を浮かしてはいるが慌てている様子はない。振り返り、鳥のいる方向を見やると、その真っ赤な目がルークを捉えた。
｢！｣
　ぎくり、と身を引く。次の瞬間、鳥は大きく首を反らし、
────キュイイイイイイイイイ！！────
　甲高い鳴き声と共に眩い光を放つ。場にいた全員が視界を真っ白に奪われ、咄嗟に目を瞑る。
｢くっ…！？｣
　発光は数秒間続いたように思う。その間に、何かが横を駆け抜けるような気配を感じた。光がやみ、数度瞬きをして周囲を確認する。
｢殿下！？｣
　背後から上がったセシルの声に叩かれたように振り返ると、そこにあるはずの姿が見当たらなかった。
｢ナタリア…！？｣
　つい先程まで自分の横にいた、己の妻となるはずの人物が、忽然と姿を消したのだった。