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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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2 選択


「申し訳ございません!」
 セシルが膝をついて悲痛な叫びを上げる。
「私がそばにいながら…この責は如何様にも!」
「近くにいたのは俺も同じです、伯父上」
ルークもまたセシルの隣に立ち、同様に膝をついた。
「…すみませんでした」
「顔をあげなさいセシル将軍、ルーク。今は一刻も早くナタリアを見つけ出すことが先決だ」
 インゴベルトの言葉にゆるゆると体を起こす。セシルの苦しげに歪んだ表情は、彼女がそれほど口惜しく感じていることを物語っていた。
 王城内の会議室に作られた対策本部では、重役たちが顔を揃えていた。今、バチカルの街ではキムラスカ、マルクト問わず兵士達がナタリアの捜索を行っている。彼女が消えてからまだ数時間しか経っていないが、神託の盾(オラクル)騎士団の協力もあり、街の捜索は完了間近だ。逆に言えば、そうなっても街からナタリアは見つかっていない。
 見立てとしては何者かによる王女の誘拐、ということになったのですぐさま包囲網が敷かれた。そのため街の外には逃げられないはずだったのだが、どうやら雲行きが怪しくなってきた。
「捜索の手を郊外に延ばしましょう。既に犯人は何らかの方法で街から脱出している可能性が高い」
 対策班に参加していたジェイドから提案が上がる。
「我々の包囲網がザルだったとでも言うのかね!?」
 すぐさまゴールドバーグ将軍が噛み付く。インゴベルトがそれを制し、将軍は引き下がった。
「そうは言っていません。我々は姫を誘拐した犯人の姿すら見ていないのです。あの状況で誰にも見られることなく人を攫うなど人間業ではない。そんな相手ならば、包囲網をかいくぐり逃走することなど雑作ないでしょう」
 ぐぅ、とゴールドバーグが唸る。それを見て、マルクト帝国のピオニー皇帝がやれやれと首を振った。
「すみませんな、うちの犬は口が悪くて」
 インゴベルトの向かいに座るピオニーが、肩を竦めておどけてみせる。
「いえ、こちらの躾もなっておらず申し訳ない」
 ピオニーの冗談にインゴベルトも笑って返す。
「誰が誰の犬ですか」
「陛下もおよし下さい!」
 張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。だからだろうか、インゴベルトがため息と共に呟いた。 
「…こんな時に、預言(スコア)が使えればな」
「陛下、それは…!」
 諌めるゴールドバーグを「わかっている」とインゴベルトが手で制する。
「民衆の手本である王家が禁止された預言を使うわけにはいかぬ。それが例え王女の為であったとしてもな」
 かつて、このオールドラントで何より重視されてきた預言。第七音素(セブンスフォニム)を通じて星の記憶を詠み取ることで、未来を知ることができた。しかし世界はその預言によって滅びの道を進みかけ、反省した人々は自ら未来を選び生きていくために預言を捨てることにした。
「…さすがですな、インゴベルト陛下。あなたが言わなければ私が口にしていたところだ」
 ピオニーが心からの感嘆を漏らす。誰もが心のどこかで考えていたことを敢えて国王が口にしたことで、その場にいた全員の意思が定まった。この件で、預言にだけは決して頼るまい、と。
「しかし、相手の目的はなんなんだ?誘拐なのだとしたら普通は身代金なりなんなり、あちらから接触があるはずだろう」
「ええ、それは私も気になっていました。要求を伝えられない理由があるのか、そもそも誘拐ではないのか…」
「誘拐じゃない?」
「例えば、結婚が嫌になったナタリア姫が自ら逃げ出したとか」
「おいおいジェイド、新郎の前だぞ」
 ピオニーとジェイドがわざとらしくルークを見る。しかし飛んでくるはずの罵声が無く、二人とも拍子抜けした。
「ルーク?」
「…あ、ああ、悪い。何だった」
 歯切れの悪いルークの返事にジェイドが眼鏡の位置を直しながら尋ねる。
「上の空ですね。それほどナタリアが心配ですか」
「いや…ああ、そうだな」
 ナタリアの身が心配であることも本当だが、それよりもルークの気を削いでいたのはあの鳥のことだった。
 教会に現れ、ナタリアと同時に姿を消した怪鳥。間違いなくナタリアの失踪と関係しているはずなのだがルークはそれを言い出せずにいた。
(俺以外には見えないものを、どう信じてもらえばいい?)
 言ったところで自分にしか見えないのであれば捜索の手掛かりにすることもできない。むやみに現場を混乱させる要因を増やすのは得策ではないようにも思え、しかし隠し続けることも状況を悪くしていく気がする。
 ジェイドが言った包囲網の突破もあの鳥ならば容易だろう。こちらに接触してこないのも、相手が魔物ならば当然だ。言葉が通じるかどうかも怪しい。しかし、本当にあの鳥に攫われたのであればナタリアは無事なのか?禍々しさこそ感じなかったが、攫われた理由が分からない以上安心することはできない。
(せめて俺が動ければ…)
 ガイやティア、アニスに伝えて共に探しに行くことが出来たかもしれない。きっと彼らなら自分の言葉を信じてくれるだろう。ジェイドにだって通じるかもしれないが、彼は立場上不確かな要素で現場を動かすことはできないはずだ。ならばやはり下手なことは言わない方がいい。
 長考しているルークの様子を見てジェイドが口を開こうとした時、会議室の扉がノックされた。
「失礼します」
 扉を開けて顔を見せたのはトリトハイム大詠師だった。