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Blue Eyes【番外編】

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「ええ、今のところその兆候はありませんが念の為こちらについても調べていこうと思います」
「そうね。よろしくお願いします」


ドクターからの説明が終わり、セイラとカイはソファに向かい合わせで座り、重い溜め息を吐く。
「兄は…本当にアムロを大切にしていてくれたのね…」
「そのようですね。俺にはシャアの心境はよく分かりませんがね」
「そうね…当時殺し合いをした相手に対してどうして…と思うけど…なんとなく兄の気持ちもわかる気がするの」
セイラの言葉にカイが怪訝な顔をする。
「私もどう言葉にしたらいいか分からないのだけど、二人には何か強い繋がりを感じるのよ」
「ニュータイプの勘って奴ですか?」
「そんなんじゃないわ。…そうね、強いて言うなら女の勘って感じかしら?」
「それじゃ俺に理解出来ないのも無理はありませんね」
カイが降参とばかりに両手を上げて小さく溜め息を吐く。そして、真剣な顔でセイラを見つめる。
「…アイツは…来ますかね?」
カイの問いにセイラはコクリと頷く。
「そうね、これも女の勘だけど、兄は来ると思うわ」
セイラの答えに複雑な表情を浮かべながらもカイは小さく頷いて席を立つ。
「まぁ、男の俺にはよく分かりませんが。その時は連絡下さい」
「わかったわ」
そう言って、カイはセイラの元を後にした。
窓からカイの後ろ姿を見送りながらセイラが呟く。
「だってね、カイ。アムロが言うのよ。“大佐は絶対に来る”って。彼の勘が外れた事があって?」

こうしてセイラの元で療養を続けながら、アムロは徐々に回復していった。

◇◇◇


アムロがセイラの元に来てから一年が経とうとしていた。その頃には随分アムロの身体は回復していたが、まだ記憶は戻らず、二、三日に一度くらいの頻度で元の自我が現れるという状態だった。

「アムロさん!もうっこんなに散らかして!ガラクタはちゃんと片付けて下さい!」
ファがアムロの部屋に入るなり仁王立ちになってアムロを叱りつける。
「ごめん、ファ!今片付けようと思ってたんだよ…」
「そんなこと言って昨日もそのままだったでしょう!」
〈ファ!ソンナニオコルト シワガ フエルゾ〉
「ハロ!」
アムロが改造したハロがファの周りを飛び跳ねて回る。
「ほら!アムロさん片付けの手が止まってます!」
「は、はい!」
その様子をカミーユがクスクス笑いながら見守る。
「もう!カミーユも笑ってないで手伝って!」
「ごめんごめん」
カミーユもアムロと一緒になってごった返したアムロの部屋の片付けを手伝う。
ふと、部屋の片隅にいくつもの紙飛行機を見つける。
「アムロさん、これ…」
「あ、えっと。それを外に飛ばしたらカミーユが来てくれたみたいに大佐が来てくれるかなって思って…」
少し寂しそうに語るアムロに胸が締め付けられる。
「そうですね…」
そんなアムロの頭を優しく撫ぜていると、ファがこちらを覗き込んで来て微笑む。
「ふふ、それじゃそれを外に飛ばします?その紙飛行機、物凄く長く飛ぶからもしかしたら大尉のところまで届くかも」
ファがそう提案すると、アムロは嬉しそうに微笑んだ。
「うん!」
二人に付き添われ、アムロは別荘の最上階から、いくつも折った紙飛行機に願いを込め空に向かって飛ばす。
紙飛行機は風に乗ってシャアの瞳のように真っ青な空をゆっくりと飛んで行った。
「大佐の所に届くかな?」
「ええ、きっと届きますよ」
「うん。ありがとう!ファ」
その笑顔にファの胸がキュンとする。
思わずファはアムロの頭を胸に抱き締めた。
「大丈夫ですよ!アムロさんの願いはきっと届きます!」
母性本能をくすぐられたファはまるで母親のようにアムロを抱きしめる。
アムロもまた、そんなファの胸に顔を埋めてホッとしたように微笑んだ。
そんな二人を、カミーユが複雑な表情を浮かべて見つめていた事には気付かずに…。

その夜、子供のアムロが寝入った頃に、アムロの部屋を訪れたカミーユが、元の自我に戻っているアムロに向かって少し不機嫌な視線を向ける。
「どうしたんだ?カミーユ」
アムロがカミーユの顔を不思議そうに覗き込む。
「いえ、子供のアムロさんに悪気が無いことは分かっているんです。でもちょっとモヤモヤして」
「あ…もしかして昼間のアレ?」
思い当たる節のあるアムロが気まずそうにカミーユの不機嫌の理由を尋ねる。
「自我が子供だからってアムロさんの身体は大人なのにファの奴!」
「あはは、なんかごめんな」
「ファがやった事ですからアムロさんが謝る必要はありませんよ」
そう言いながらまだ機嫌は治らない。
カミーユにはすまないと思いつつも、ファの柔らかな胸の感触を思い出してアムロの顔が緩む。
「アムロさん、今ファの胸の感触思い出してたでしょ」
「なんで分かった!?」
「その顔見たら分かります!」
ニヤけた顔を両手で押さえながら、アムロが小さく溜め息を吐く。
「そうなんだよな。心は子供なんだけど身体は大人だからさ、色々複雑なんだよ」
「そういえば、“ああ言うの”ってどうしてるんです?」
「ああ言うのって…性的な?」
「ええ」
「…うーん。実はさ、シャアにしてもらってた」
「は?」
「えっと…だからシャアとセッ…」
「はぁぁぁぁ!?」
カミーユの雄叫びが部屋に響く。
「しぃー!カミーユ!声が大きい!」
「だって大尉とってええ!?」
「いや、だからさ。前にシャアのトコにいた時にさ、どうにも心と身体のバランスが取れなくなって凄く不安定になった時期があるんだ。何せ身体は成人の男だからさ。色々溜まって来るって言うか…。でも心は子供だろ?自分でも何が何だか分からなくてパニックになっちゃったんだ」
「…それで?」
「えっと、その時にアイツに抜いて貰って…気が付いたらそのままその先もしてて…子供の俺はその味を知っちゃったっていうか…。で、子供だから抑止力も無くてついつい自分からアイツを求めちゃったりもしてたんだよね」
つまりは一度や二度では無いという事だ。
「ちなみにその時の事って、今の大人の自我になった時も覚えてるんですよね?」
「ん…まぁ…そうだね。っていうか…大人の自我を取り戻したのは多分、それがきっかけだったと思う」
「え?」
「だからアイツとのその…セ…セックスが引き金になったと思う」
顔を真っ赤にして話すアムロに思わずカミーユの顔も赤くなる。
「なんていうかアレって凄く強烈に脳に刺激を与えるだろ?その刺激がなんか良かったみたいで…」
確かに、脳に刺激を与えることで脳の再生が促されるとセイラは言っていた。
しかし、よもやそんな事があろうとは思っていなかった。
そしてふと、アーガマで月を眺めていたクワトロに話しかけた時の事を思い出す。
あの時クワトロに、アムロの事を恋人の様に思っているようだ言ったら「あながち間違ってはいない」とあの男は答えた。
恋人同士と言うのならば当然そういう関係であっても不思議はない。
「そういえば、クワトロ大尉はアムロさんがこうして元の人格に時々戻っている事を知っているんですか?」
「…いや、知らないと思う。シャアやキグナンの前では戻った事がないんだ」
「?不思議ですね。俺の前では何度か戻っているのに」
作品名:Blue Eyes【番外編】 作家名:koyuho