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TWILIGHT ――黄昏に還る1

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 この、沈没寸前のオンボロ船のような世界が、今、風前の灯火のような状況で、打開策を見出した。
 そして、士郎に宛がわれた任務、“第五次聖杯戦争における、聖杯の完全な破壊” が実行に移されることになった。
 これまで士郎は近々の過去の修正、凛は現在の事象の収拾に従事してきた。二人だけではない、魔術協会に所属するほとんどの魔術師がその任に就き、対処に当たっていた。
 だが、指定されるその時々の災厄を防いでいても、次々と湧いて出る災厄にイタチごっこになるのは明白。大元を叩かねば、と誰もが考え、魔術協会はその大元に、ようやく辿り着いたのだ。
「それが、あの聖杯戦争とはな……」
 士郎は複雑な表情でため息をつく。
「そうね……。でも、私なら、断っちゃうかもしれないわ、絶対無理って。だって、自分の昔の姿なんて、見てらんないわよー」
 エミヤシロウは、得意かもしれないけど、と凛が揶揄すれば、士郎は、やめてくれ、と心底嫌そうな顔をする。そんな士郎を凛は、変な顔、と言って笑う。
「他人事だと思って、気楽なもんだよな、遠坂は。断れる状況じゃないことくらい知ってるだろー?」
「まあ、そうよね」
「別に俺も昔の自分に会いたいわけじゃないけどさ……、未熟な自分の姿でも拝んでくるよ」
 しようがない、と士郎も笑って立ち上がる。
「衛宮くん」
 先ほどまでの笑顔を消した凛に呼ばわれる。
「一人で大丈夫?」
「そうです、先輩一人だなんて、」
 凛と桜が心配そうに言うが、
「何言ってんだよ、時空超えができるのは、もう俺だけだろ。俺が行くしかない」
「そうだけど……」
「遠坂は、こっちのこと、頼むぞ」
「わかってるわよ」
「桜も、遠坂のバックアップよろしくな」
「はい、もちろんです」
「ちょっとー、なんで、衛宮くんに心配されなきゃダメなのよー」
「いやー、遠坂はほら、なんていうか……、な? 桜」
「え? ちょ、ちょっと、先輩、私に振らないでください!」
「何よ、桜!」
 凛が桜に照準を変えたのをいいことに、士郎はさっさと扉へ向かう。
「じゃ、俺は先に帰るなー」
「も、もう! 先輩!」
 ひらひらと手を振り、同僚と後輩に笑顔を見せて退散した。



***

『こちらのモニターに異常はない。いつでもいいぞ』
 スピーカーからワグナーの声が聞こえる。
「こっちもオッケー。義眼の方も問題ない」
『了解。その義眼が君の座標になる。失くすなよ?』
「重々承知してますって。……何回目だと思ってるんだよ、ワグナー」
『ああ、すまない。一応、これ、マニュアルなんだ』
「そ。相変わらず、杓子定規なことだな」
『ハハ、決まりだよ、堪えてくれ』
 上司であるワグナーにずいぶんな口をきく士郎だが、ワグナーは士郎とは同窓生だ。
 歳も地位も魔術師としての家柄もワグナーの方が上ではあるが、研修という扱いでワグナーは時計塔で学んだ時期があった。ちょうど士郎が高校を出て学んでいた時と重なり、世間知らずのワグナーに士郎の知る限りの世俗を教えたことが、仲良くなるきっかけだった。
 年齢も生まれ育った環境も全く重ならない二人だが、妙に馬が合い、一年に渡り、ともに学んだ日々は懐かしい思い出となっている。
『……では、最終確認だ。事象管理部 補正課 修正係 実行班 衛宮士郎。今回の任務で、第五次聖杯戦争における聖杯の完全なる破壊を命じる』
「了解」
『衛宮、……本当ならば一人で行かせるような案件じゃない。すまない、人員の補充は間に合わなかった……』
「なに言ってるんだワグナー。そんなの、今にはじまったことじゃないだろ」
 苦笑いをこぼせば、スピーカーの向こうでもやはり苦笑している気配がする。
『まあ、そうだな、今さらだな。では、改めて、健闘を祈る。…………無事に帰ってこいよ、衛宮』
 ワグナーの声が少し詰まったように聞こえた。
「もちろん、そのつもりだ。きっちり修正して明るい未来を見るまでは、死んでも死にきれないからな! それまで俺の左目、大事に取っといてくれよ?」
 明るく言っても、スピーカーの向こうでは小さなため息が聞こえる。
『……ああ、了解した』
 沈んだ声に、士郎は苦笑いを禁じ得ない。
「それじゃ、ワグナー、送ってくれ。……衛宮士郎、これより、任務に向かいます」
 マニュアル通りに、士郎も明確に自身の名を告げる。
 時空を超えるために使用されるのは、卵形のポッドだ。
 今、士郎が乗り込み、蓋が閉じた状態のポッドは、確かに人間が入った卵と言ってもおかしくはない。電力と魔力を総動員させ、魔術協会の技術力を集結させて作られた、“時間跳躍(タイムリープ)のための乗り物”。
 ただ、このポッド自体が浮いたり飛んだりするわけではなく、中にいる者だけを、指定した年月日と場所に送ることができる、という代物だ。
『成功を祈る』
 スピーカーの向こうの声がはっきりと紡がれるとともに、ポッドの電力と魔力のゲージが上がっていく。
 稼働音とともにポッドの中が緑光で満ちた。
 眩しさに瞼を下ろしても、光に焼かれたように目が眩む。
(慣れないな、いつまで経っても……)
 そんな自分を、士郎は少し笑った。



 時空を超えるというのは、いわゆるタイムリープやタイムスリップ、タイムトラベルなどと言われるものだ。科学だけでは確立されていない技術だが、科学に魔術を組み合わせれば話は違ってくる。魔力を糧に、神秘に近い事象を引き起こすことができる。
 今、士郎が所属するのは、事象管理部 補正課 修正係。士郎は、実行班として時空を超えることを仕事としている。修正係の本部は、極東支部にあり、ワグナーは支部長を務めている。
 また、凛は同じ管理部の補正課ではあるが、修正係ではなく、収拾係だ。なので時空を超えない。
 彼女は今現在に起きる事象について動く実行班で、そこは、魔術協会の内外からも認められる花形の部署でもある。収拾係の本部はロンドンであり、協会のお膝元だ。
 修正も収拾も、同じような内容の仕事ではあるのだが、何しろ修正係が修正を行うと未来が変わってしまい、その実績は残らない。したがって、なかなか功績が認められないのが実のところだ。一応の報告書は提出するものの、それがどこまで信用されているかは、修正係の扱いに表れている。
 そこのところを重々承知している修正係の者は、半分諦めも入っているが、少しでもこの世界を変えるため、という理想の下に任務に従事している。最近では報告書を提出する意味もないという意見もあってか、知っているのは修正をした本人たちだけ、ということも珍しくはない。
 そういう協会内の雰囲気もあり、修正係は、収拾係よりも報酬は高いが、扱いは雲泥の差となっている。
 この世界は、魔術協会が未来を変えてしまうというリスクを犯してまで事態の収拾に努めなければならない状況に陥っている。だが、過去への介入は未来を大幅に変えてしまう危険を孕んでおり、修正に従事する者の人選は非常に煩雑になっている。