陰陽師本丸の物語
童子切「なれば汝もたまに“陰陽師”と呼んでやれば良い。きっと喜ぶ。」
そのとき、主(あるじ)の部屋のあたりから童子切を呼ぶ声が聞こえる。声の主は加州だろうか。どうやら諸用とやらが終わったようだ。
鶴丸「なんだ、もうお開きの時間か。」
童子切「そのようだ。」
童子切はスッと立ち上がり、その場で身なりを軽く整える。
童子切「暇につきあわせて悪かったな。燭台切に茶菓子、美味かったと礼を伝えておいてくれ。」
鶴丸「分かった。伝えておく。」
童子切「ああ、それと――。」
と、童子切は懐からあるものを取り出し、俺に手渡す。手の平にすっぽり収まるそれは、精巧に造られた鶴のガラス細工だ。
鶴丸「これを俺にくれるのかい?」
童子切「加州に頼まれたものを買いに寄った店の店主に、景物だと渡されてな。暇につきあわせた礼だ。汝にやる。」
鶴丸「いらないからって、俺に押し付けてるだけじゃないだろうな?」
童子切「それもあるが、それは鶴の名を冠する汝が持つに相応しい。」
鶴丸「(押し付けてるのは認めるんだな…。)」
童子切「それに――。」
鶴丸「?」
童子切「たまには誰かとこうして話すのも悪くないと思ったのだ。素直に受け取っておけ。」
鶴丸「…そうかい。そういう事なら、受け取っておくとするか。」
「ではな」と言い残し、童子切は主(あるじ)の元へ向かった。俺は童子切を見送った後、手にしている鶴のガラス細工へと目を移す。
鶴丸「俺が持つに相応しい…か。」
“童子切の方が鶴らしい”と考えてた事を見破られでもしたのだろうか。まったく、一筋縄ではいかない相手だ。だが、童子切と同じく俺もまた今日のように話をするのも悪くないと感じていた。
鶴丸「あんなに苦手だったんだがなぁ。ま、こういう驚きもたまには良い。」
次に会うときは盛大に驚かせてやろうと密かに心に決め、俺も自室へと戻ろうと、その場を後にした。
END
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