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陰陽師本丸の物語

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小噺「聚楽第 謎の男の来訪」





薬研「お、山姥切。内番終わり————あんた誰だ?」

顔と体を布で覆った後ろ姿から山姥切かと一瞬見間違えた薬研だったが、その男から放たれる気から即座に山姥切ではないと判断し臨戦態勢に入る。声をかけられ振り返った男はフードを目深に被っており、彼の表情を読み取ることはできない。男は淡々とした口調で薬研に告げる。

謎の男「第12×××××本丸、初の鍛刀で顕現した薬研藤四郎だな。」
薬研「そうだ。」
謎の男「薬研藤四郎。お前たちの主の元へ案内せよ。」
薬研「得体の知れない野郎をやすやすと大将の元へ案内すると思うか?」
謎の男「これは政府からの正式な任務である。主の元へ案内せよ。」
薬研「……。」

薬研は刀に手をかけようとする。男はその様子をじっと見つめ——

謎の男「斬るか? だが、私の実体はここに在らず。お勧めしない。」

男は変わらず淡々と告げる。それを聞いた薬研は致し方ない、と刀から手を離し、

薬研「……分かった。ついて来な。主の部屋はこっちだ。」

と、謎の男を引き連れて歩き出す。しかし、数歩進んだところで——

謎の男「!」
長谷部「恨みはないが……死ね。」

長谷部が死角から謎の男に斬りかかる。その一太刀は男の首元を確実に捉えていた。謎の男はその場に倒れこむ。だが、長谷部はどこか腑に落ちない表情をしていた。

薬研「仕留めたか?」
長谷部「確かに斬った。しかし、斬った手答えが全くない。」
薬研「どういうことだ……?」

そのとき彼らの足元から、ふはははっと嘲笑う声が聞こえる。声の主を確認するとあの謎の男だ。男は何事もなかったように静かに立ち上がった。

謎の男「なるほど。私を案内すると欺き、一瞬できた油断を狙って死角に潜んでいたへし切長谷部が斬り込む。打ち合わせも無しにここまでの連携をとり、私に一太刀浴びせるとは——流石、同じ主人の元に集ったことがあるだけはある。とても良い連携だ。へし切長谷部の太刀筋も悪くない。しかし、先程も言ったように私の実体はここに在らず。斬ったところで意味はない。」

男の顔は相変わらず確認できないが、その口元はニヤリと笑っているように見えた。薬研と長谷部は、謎の男の底知れない不気味さに背筋を冷たいものが走る。

謎の男「私は政府へ今のあるがままを報告することができる。だが、今すぐに主の元へ案内すると言うのであれば、お前たちの失態には目を瞑ろう。」

男の言葉にこれはもう従うより他無いと判断した二振は「分かった、案内する。頼むから大将に危害は加えないでくれよ。」と謎の男を主の部屋へと案内することにした。

謎の男「それでいい。」

そして、主の部屋へと案内された謎の男は何の前置きもなく淡々と告げる。

謎の男「『放棄された世界。歴史改変された聚楽第への経路を一時的に開く』————。」




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作品名:陰陽師本丸の物語 作家名:香純草