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TWILIGHT ――黄昏に還る2

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 後悔が胸を、ずくん、と押し潰す。痛むような気がして、知らず、胸元を拳で押さえた。
「え……? シロウ? シロウが、二人?」
 どこか嬉々として言ったイリヤスフィールに頷く。
「イリヤ、話を聞いてやってくれないかな」
 少年が言うと、
「どうしよっかなー……」
 銀の髪を揺らし、愛らしい仕草で考えに耽るフリをするイリヤスフィールに、士郎は歩み寄る。
「頼む。協力してくれ」
 目の前で膝をついて見上げれば、イリヤスフィールは、ぱちくり、と瞬く。
「聖杯を完全に破壊したい」
「聖杯を、破壊?」
「ああ。あれはもう壊れているんだ。前回、いや、その前からだったかもしれない、あれはもう、願望機なんてものじゃない。この先の未来に悪成す、災厄の根源だ」
「…………」
 イリヤスフィールは、数度瞬いて、
「ふーん……」
 まるで他人事のようにこぼした。
「イリヤスフィ――」
「だったら、なあに?」
「え?」
「未来がどうなろうと、私の知ったことではないでしょ?」
「そう……だけど……」
「シロウは、大きくなっても、バカなのね」
 薄く笑った少女の顔が揺らぐ。
「な……っ……?」
 声を出そうとすれば喉が詰まった。そっと頬に触れた細い指先は氷のように冷たい。
「ねえ、シロウ。そんなことよりも、私と一緒に、」
「そこまでだ!」
 ぐい、と肩を引かれ、瞬く。
「イリヤスフィール、マスターに術をかけようとしたな!」
 セイバーの凛とした声が耳に響き、ようやく士郎は自身が何かしらの催眠状態に陥りかけていたことに気づく。
「ふふふ。だって、あんまりにも無防備なんだもの」
「マスター、平気ですか!」
 大きく頭を振って、靄のかかったような視界を振り払う。
「わ、悪い、セイバー」
「いえ。問題がないのなら、かまいません」
 セイバーがイリヤスフィールとの間に立ち、士郎を背後に庇う。
「もう、つまんない! せっかくおにいちゃんとお買い物する予定だったのにぃ!」
 ぷう、とふくれっ面をして、イリヤスフィールは背を向ける。
「イリヤ?」
「おにいちゃん、またね。また今度、お買い物しましょ」
 手を振るイリヤスフィールは少年に別れを告げる。
「イリヤスフィール!」
 たまらず士郎は声を上げた。
 交渉は失敗だ。だが、彼女には言っておかなければならないことがある。
「なあに? シロウのお願いなんて、きかないんだからー」
 無邪気に笑う少女を、縋る思いで見つめた。
「気を、つけろ!」
「何を?」
(どうか、もう……)
 あんな目に遭う彼女を見たくない。できることなら、違う結果を望みたい。
 だが、過去を変えてはならない。士郎は最小限の修正だけを試みなければならないのだ。既にもう、いくつも過去が変わっている。このままではどんどんと未来は変わってしまうだろう。
(俺に、そんな権利はない……)
 過去を変えてしまう権利など、誰にもないのだ。まして、ここは、自身の生きた、もう過ぎ去った過去の日々。当事者と言えば当事者だ。手前勝手が許されるわけがない、だが……、
「君の心臓を、狙っている奴がいる!」
 忠告せずにはいられなかった。
「…………何を言っているのシロウ。私のサーヴァントはバーサーカーなのよ? 誰にも負けない。誰にも……。セイバーにも、アーチゃーにも、ランサーにも! 私のバーサーカーは、一番強いんだから!」
「けどっ、」
「いいかげんにして!」
 イリヤスフィールが声を荒げた。赤い瞳が、きら、と輝く。
「ここに、バーサーカーを呼んでもいいのよ?」
 低く、脅すように言ったイリヤスフィールに、士郎はそれでも食い下がった。
「そいつが現れたら戦うな! 逃げろ! いいな!」
「しつこいわよ、シロウ」
 ふい、と背を向けたイリヤスフィールは、軽やかな足取りで駆けていってしまった。
「イリヤスフィール…………」
 膝立ちだった士郎はそのまま腰を落とす。
「マスター、まだ、術が?」
「いや……」
 項垂れたままの士郎にセイバーは首を捻っている。
「何か……、言いたげだな、セイバー……」
「ええ、はい。マスターは彼女の心臓が聖杯の核になると言っていました。聖杯は彼女の心臓がなければ我々が破壊できるものにならないのではないのですか? だとすれば、このまま彼女に聖杯の核になってもらった方が――」
「セイバーっ!」
 声を荒げた士郎に、セイバーは口を閉ざした。
「よくも、そんなことが言えるな……」
 あの時、何もできなかった憤りは今も士郎の胸にわだかまっている。だから、せめて、と思った。たとえ、今回の仕事に支障を来すとしても、彼女をあんな目に遭わせたくないと思ってしまった。
(これは、俺のエゴか……)
 握った拳の落としどころが見つからず、士郎はさらに項垂れる。
「悪い……。そうだな、そう考えるのが、妥当だ……」
「マスター……」
 立ち上がった士郎は、一つ大きく深呼吸をする。
「俺の仕事は、聖杯の完全な破壊……。セイバー、悪かった。もう、くだらないこと言わないから……」
 気持ちを切り替える。
 イリヤスフィールのことは、もう考えることを放棄した。
「次に行こう」
「は……、はい……」
 セイバーは静かに答えた。
「あ、ちょ、ちょっと!」
 少年に呼び止められ、振り向く。
「これ!」
 自身の首に巻いていたマフラーを士郎の首に巻き、口元までを覆い、
「これで、少しは隠せるだろ?」
 見上げてくる琥珀色の瞳は真っ直ぐだった。
(ああ、お前が……)
 アイツに気づかせてくれるはずだったのに、と後悔が滲む。
「さんきゅ。気をつけて帰れよ」
「ああ。あんたもな」
「俺は仕事だ。ミッションクリアのためなら、多少の無茶もする」
「む……。晩ご飯、用意しとくからな! 帰ってきて、ちゃんと食えよ!」
「はい!」
 返事はセイバーが受け持った。



◇◆◇Second Notice◇◆◇

(泣くのかと思った……)
 士郎は夕食の材料を手に、少し重い足取りで公園からの帰路を歩く。イリヤスフィールを見送る青年は、必死に訴えていた。
 気をつけろ、と。
 心臓を狙う奴から逃げろ、と。
 過去に青年が経験した聖杯戦争というものの詳細は聞かされていない。ただ、結果的に聖杯を壊しきれず、災厄の種が残ってしまったのだと、そういう説明だけだった。
 誰がどうなったかや、誰がマスターでどんなサーヴァントがいたのか……、最後に残ったのが、遠坂凛とセイバーとアーチャーと自分自身だということ以外、詳しいことを士郎は知らない。
「きっと、あいつ……」
 未来の自分が抱えているものは、任務遂行という責任と、未来を変えるという願望と、そして、できることならば救いたいという想い。
 大幅な未来の変更をしないためには、極力過去をそのままにしておくことが求められる。
 したがって、青年がイリヤスフィールにした忠告は、過去を変えてしまう一助になる。それがわかっていても、青年はイリヤスフィールに伝えたかったのだ、気をつけろ、と。
「は……」
 やるせなさにため息をこぼす。