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TWILIGHT ――黄昏に還る2

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 そんな、不器用な姉妹たちを士郎は、羨ましいと言って笑った。それから、できる限り一緒に夕食を食べた。夕食は、いつも衛宮邸だったが、二人並んで帰宅していく姿を見送るのは、悪くないと思っていた。
 懐かしさに胸が温かくなる。もう士郎の生きる世界にあの武家屋敷は存在しない。同様に、凛の家も、桜の家も、瓦礫に埋もれてしまっている。
(この家も、あの家も……)
 今ここで、士郎の瞳に映る住宅街は、自分の生きる場所ではすでに失われている。
「妹……。では、ライダーのマスターは、その慎二、という者ではなく妹の?」
 思い出に逃げそうになっていた士郎は、セイバーの声に引き戻された。
「いや、慎二だ」
 きっぱりと言い切れば、セイバーはそれ以上の詮索はしない。
 事細かく説明をしていると、士郎は仕事のことを忘れてしまいそうになる。このままセイバーと普通に聖杯戦争を続けてしまいそうになる。だから、あえて士郎は必要以上を語らないようにした。イリヤスフィールのときのように、感情に流されまいと、士郎は自身を固く律した。
(きっと、いろいろ腑に落ちないだろうけど……)
 沈みそうになる気分を、士郎は顔を上げて歩くことで紛らわせた。

 学校から帰宅する間桐慎二を待ち伏せる予定で洋風の家々が立ち並ぶ住宅街へと向かう。セイバーには念のために霊体になってもらった。
 交差点から、ちょうど衛宮邸と反対側へ同じくらいの距離を歩けば遠坂凛の家があり、少し離れたところには間桐慎二とその義妹・桜の邸宅がある。どちらも洋風の立派な佇まいだ。
「遠坂ん家の近くで待つのはアレだし……、慎二の家の前にしておくか」
 独り言ちて緩やかな坂を上がる。遠坂邸の前をいくらか通り過ぎたとき、背後で門扉の開閉する音がした。
 振り返れば、赤いコートを着た少女がじっとこちらを見ている。訝しげに彼女が首を傾けた瞬間、
 ――マスター!
 セイバーの思念が頭に響く。
 ざ、と後退れば、士郎が立っていたアスファルトに矢が突き立っていた。
「なーんか、おかしいと思ったのよ……」
 凛の細い指の間に宝石が挟まっている。どう見てもやる気満々だ。学校はどうした、とここで訊くのもおかしいが、なぜ、平日昼間、家にいる? と士郎は訊きたくなる。
(セイバー、動くなよ?)
 ――ですが!
(順序が狂ったけど、ここで持ちかけてみる)
 ――わ、わかりました。
(アーチャーの気配、わかるか?)
 ――はい。屋根の上です。ちょうど、マスターを射抜けるところに。
(だろうな……)
 苦笑いを浮かべて、士郎は身構えを解いた。
「な、何よ?」
 棒立ちの士郎にも凛は警戒を怠らない。何もしないと態度で示しながらも、コソコソ魔力を練る魔術師だと疑われているのだろう。だからといって、彼女を責めるつもりはない。それが普通の魔術師の反応だと、今の士郎にはわかる。
「話を聞いてくれるか?」
 できるだけ穏やかな声を作る。
「話? な、なんの話よ?」
「頼みたいことがある」
「頼み? み、見ず知らずの奴に、しかも魔術師でしょ、あんた! それに、マスターでしょ! だったら敵でしょ!」
「うん、そうなんだけどな……」
 どう言おうかと士郎は迷った。
 凛にはキャスターのような脅しなど通用しない。何しろ彼女のサーヴァントはアーチャーだ。絶対にこちらの提案に反対するに決まっているし、今も爛々としてこちらの隙を狙っている。まともな話し合いになる可能性は低い。
「と、とにかく、俺は、聖杯を破壊したい。そのために協力を呼びかけてる」
「はあ? 聖杯を壊す? なに言ってるのよ、これは聖杯戦争でしょ? 聖杯は手に入れるもので、壊すものじゃないでしょう!」
 思った通りの反応に士郎は小さくため息をつく。事情を知らない凛が目くじら立てて言い返すのも仕方がない。
「壊れてるんだ、聖杯が。だから、」
「問答無用よ! アーチャー!」
 凛が構えると同時、士郎に向けて矢の雨が降る。
「っくそ、聞く耳も持たないのかよ!」
 セイバーが矢を防ぐとともに実体化した。
「マスター、交渉は決裂ですかッ?」
「い、いや……」
「どう見てもうまくいっているようには思えませんッ!」
「そ、そうなんだけどさ!」
 矢の雨を躱しながら後退する。
 まだ交渉は失敗とは言い切れないと、セイバーを納得させる暇がない。今は、身を守るだけに集中することにした。
(そろそろだ……)
 両手に魔力を溜めて、どこから来るか、と身構える。
「「トレース……」」
 士郎の声に重なる声。
「「オン!」」
 振り向きざま、剣で防ぐ。
 ガッ、キィンッ!
「ちっ」
「相変わらず、不意打ちがうまいな」
 アーチャーの剣を士郎は自身の双剣で受け止めている。
「マスター!」
「こいつの相手は、セイバーじゃ分が悪い、退路、作ってくれ!」
「はい!」
 答えるとともにセイバーは一直線に凛の方へ駆ける。目前に迫るセイバーに、凛はまともな防御体勢も取れていない。
「凛!」
 アーチャーが士郎から目を離した瞬間、すでに、準備万端の血製魔術(ブラッドオーダー)を発動する。
「爆(フレア)っ!」
「っぐ!」
 アーチャーが怯んだ隙に、駆け戻ってきたセイバーに士郎は手を伸ばした。アーチャーが体勢を立て直して士郎に振り下ろした剣を寸でで躱し、セイバーは駆け抜ける。
「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」
 セイバーに半ば抱えられながら、追いかけてくる矢を盾で防ぎ、住宅街の奥へと逃げ込んだ。


(追ってくるか?)
 荒い息を殺しながら周囲を窺う。弓兵のサーヴァントは目が良い。身を隠したところで、安全とは言えない。
 しばらく路地に潜んで様子を窺ったが、それらしい人影も気配もない。
(セイバー、どうだ?)
 ――気配はありません。追って来ないようですね。
 確認を取り、士郎は大きく息をついて脱力した。
「まったく……。昼中に仕掛けるか、普通……」
 安堵の息をつき、士郎は民家の塀にもたれたまましゃがみ込んだ。
「マスター、訊いてもいいですか?」
「へ? あ、なに?」
 わざわざ断ってまでセイバーは何を聞きたいのだろうか、と士郎は傍らに立つセイバーを見上げる。
「マスター、さっきの術は、その……」
「あ、ああ、これ? 義眼なんだ。こっちだけ、色が違うだろ?」
 左目を指し、士郎はセイバーに説明する。
「義眼……」
「そ。そんでもって、魔力を通して、さっきみたいな攻撃もできる」
「魔力を、通して?」
「魔力っていうか、……実際は血液だ」
「血、ですか?」
「うん。血なんて魔力の塊みたいなもんだからな。それを媒介に小規模な爆発を起こす。日に一回か二回が限度だけど、不意を突くにはちょうどいい。まあ、もう、アーチャーには使えないだろうな。二回も目の前でやっちまったから……」
「血を使って……、そうですね、二番煎じは、どんな攻撃も…………、い、いや、マスター、二回とは、どういうことです?」
「え? あ、言わなかったかな? 俺がこの時空に着いた場所、アーチャーとランサーがやり合ってるところだったからさ」
「では、その時に?」