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TWILIGHT ――黄昏に還る2

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「ただし、今じゃない」
「え? い、今じゃ、ない?」
 予想もしない答えが返ってきて凛はさぐさま訊き返す。
「十年後。二十七になる衛宮士郎だ」
「な……ん……、ですって! ど、どういうことなのよ! ちゃ、ちゃんと、せ、せつ、説明、しなさいよ!」
 十年後だなんてありえない、と凛はハナから疑ってかかっている。協力を打診され、さらにその正体をうやむやにされ、ここまで担がれるわけにはいかない。
 バカにするんじゃないわよ、と半ば怒りながら、さらに混乱している凛に、青年は目を据わらせた。
「だから嫌だったんだよー……、こうなるってわかってたからさぁ」
 セイバーに助けを求めた青年は、心底困り果てている。
「仕方がありません。もうこれしかないと姿を見せたのは、マスターです。自業自得というやつです」
「せいばぁ……」
「知りません」
 つれないセイバーに、青年はほとほと困り果て、
「早く、説明しなさいよ!」
 苛立ってせっつく凛に、青年は掻い摘んで説明をはじめた。

 アーチャーの淹れた紅茶を凛とセイバーがそれぞれ口に運び、ようやく落ち着いた凛が口を開く。
「それで、聖杯を壊す手助けをしてほしい、ってことね?」
「ああ、そうだ。…………っていうか、俺に紅茶はないのかよ?」
「あるわけがなかろう」
 ふい、とそっぽを向くアーチャーに、青年はあらぬ方へ舌打ちをこぼす。
「仲良くしなさいよー。あんたたち、結局は同じ人間なんでしょ?」
 青年の話とともにアーチャーの真名を知った凛は二人を指し、呆れ口調で注意する。
「同じじゃない」
「こんな愚か者と一緒にしないでくれ、凛」
 同時に反論して、青年もアーチャーも冗談じゃない、と同一人物説を否定する。
「なんでよー? アーチャーは衛宮士郎の未来なんでしょ? 衛宮くんは、今ここにいる衛宮くんの未来。ってことは、同一人物じゃない」
 そんな単純な話ではないと、どう説明すればいいのか、と二人とも言葉がない。
「あ! アーチャー、あんた、嘘ついてたのね! 記憶がないだなんて、適当なこと言って!」
 不意に思い出したのか、凛は、今さらアーチャーを責める。アーチャーからは、記憶がないから真名がわからないと聞かされていたからだ。
 どういう作用か、凛のうっかり属性は、散々な状況でアーチャーの召喚を果たしたのだ。リビングは荒れ放題で、アーチャーは記憶の混濁を起こしていた。
「記憶の混乱があったのは事実だ。何しろあんな召喚をされるとは思っていなかったのでね」
「う……、うぐぐ……」
 アーチャーは涼しい顔で凛を黙らせる。
「あんな召喚って……、遠坂、いったい何やらかしたんだ?」
 思わず青年が乗り出して訊いてくる。
「う……、うるさーい! アーチャー、口外したら、ガンド百倍増しだから!」
「……承知した」
「それで? なんだったかしら、えっと、」
 目を据わらせる青年とセイバーを尻目に、凛は強引に話を変えた。
「あ、そうそう聖杯戦争に監督役の言峰が参加しているのね。……あのエセ神父、ほんっと、胡散臭いんだから!」
 凛は、アーチャーの召喚のことを忘れさせたくて必死なようだ。それを知ってか知らずか、拳を握って力説する凛に青年は苦笑している。
「う……、なによぉ……」
 むす、として青年に訊けば、
「いや、遠坂は、遠坂だなぁって……」
 自身と十年先にいる自分を青年が比べているのだとわかって、凛は真っ赤になった。
「か、勝手に、比べないでよね!」
「ご、ごめん」
 小さな笑いを漏らす青年に、凛は、フン、と鼻を鳴らした。
 少しバツが悪くて、目のやり場に困り、ふと、凛が自身のサーヴァントを見上げれば、じっと青年を観察している。いったいどんな気分だろう、と思いながら青年へ目を向ければ、俯き、目を伏せているからか、その表情は何やら昏いものに見えた。
「……ランサーのマスターは言峰だから、ランサーに話を持ちかけるとすべてが筒抜けになってしまう。だから、ランサーは後回しにした。ランサーの人となりは知っているし、うまくやればこちら側に引き込めるかもしれないけど、最悪、ランサーともやり合うことになる。そのつもりでいてくれ」
「わかったわ。それで? 作戦はどうするの?」
「大まかな筋は立ててあるけど、明後日、顔合わせをしようと思う。まあ、全員が来るかどうかはわからないけど、一応声はかけた。衛宮邸に夜十時。それでいいだろ?」
「衛宮くんの家? そういえば、あなたじゃない衛宮くんは、どこに……?」
「ああ、あの家、ちょうどいいから乗っ取ったんだ。あいつには、学校に行く以外、眠ってもらってる。話に入られても困るからな。あいつはなんにも知らないよ」
「過去の自分だからって、けっこう、無茶をするのね、あなた……」
「背に腹は代えられないからな。で? いいんだな、遠坂。それから、アーチャーも。協力してくれるんだな?」
「ええ。そういうことなら、協力は惜しまないわ」
「お前は?」
「マスターが了解したのであれば。……私はマスターに従うだけだ」
「……そうか、じゃあ、よろしくな」
 口ではそう言いながら、アーチャーと青年はかち合った視線をぶつけ合っている。
「そこ……、火花飛ばさないで……。あんたたち、同じエミヤシロウなんでしょ?」
「「む……」」
 不機嫌な顔×2を向けられて、凛は思わず、きょとん、としてしまう。そして、
「ぶふっ!」
 吹き出した。
「凛……」
「遠坂……」
 ひーひーと腹を抱えて笑いだした凛に、アーチャーと青年は目を据わらせる。
「だ、だって、だって! お、おんなじ、顔で、っ、こ、こっち、み、見ないでっ、」
 ソファに転げて笑いのおさまらない凛に肩を竦め、
「じゃあ、よろしく! 明後日、忘れるなよ、遠坂!」
「ひー、ひー、わ、わかっ……、わか、った……」
 このまま彼女は笑い死にするのではないかと思いながら、青年はセイバーとともに遠坂邸を後にした。



「十年先の衛宮士郎……」
 遠坂邸の屋根の上で、朝の気配が滲みはじめる中、セイバーと並んで歩いていく姿を見下ろす。
「おかしなことになったな……」
 アーチャーは顎に手を当てて思案する。
「どちらを消せば……?」
 青年の衛宮士郎は、この時空の衛宮士郎の家を乗っ取ったと言った。
 であれば、正規にセイバーを召喚したのは、自身も確認した通り、少年の方の衛宮士郎だろう。
「それを、どうにかして掠め取ったのだろうが……」
 ふ、と吐いた息は、白く濁った。
「まあ、両方、消せばいい話だな」
 自問自答に納得したアーチャーは、ひとり頷く。
 いい案だ、と、夜明け前の空を見上げれば星が瞬いている。
 宿願を叶えた後、こうして見上げる空は、今とどう変わるのだろうかと夢想して、口角が上がるのを抑えられなかった。



◇◆◇Third Fidget◇◆◇

「シロウ、朝食の準備ですか?」
「おはよ、セイバー。そ、ブリの照り焼きと、根菜のみそ汁と、あと、適当にいくつか……、セイバー?」
 士郎が首を傾げると、セイバーはハッとしたように口元を拳で拭った。
「つ、つい、よ、涎が……」
「はは! セイバーは、ほんと、食べるの好きだよなー」