六年生の子守唄の段(立花・善法寺・食満ver)
「じゃ、お願いね」
「はい、わかりました」
家の奥さんがきり丸たち四人を残して出て行く。
きり丸はそれを見送ると、早速洗濯物を手にした。
「じゃあ、僕は洗濯してきますから、子供達のこと、よろしくお願いしまーす」
大きな洗濯籠をもって、学園を出る前に私服に着替えてきていた六年の三人に向かって言った。
「…あ。くれぐれも、子供達を危険な目に合わせないでくださいね」
不安で、つい言い残す。
「大丈夫だって。何をそんなに心配してるんだ?」
善法寺が腰に手をやって首をかしげた。
「だって…、この間、七松先輩・中在家先輩・潮江先輩にも同じようにお願いしたんですけれど…」
きり丸は、つい先日の悲惨な子守を三人に話した。
「…それは…」
「まず、人選が悪いだろう…;」
立花と食満が気の毒そうにきり丸を見た。
「そう思うのなら、協力してくださいね」
すっかり六年生に対して不信感を抱いているきり丸は口を尖らせた。
「よし…、じゃあ。伊作」
きり丸が行ってしまった後、立花が善法寺を見た。
「後は頼んだ」
「ええ!?仙蔵!ちょっと待って、どこに行くつもりなんだ!」
善法寺は慌てて去ろうとする立花を止める。
「言っただろう。私は子供は苦手だ」
「…じゃあ何でついてきたのさ」
「………」
立花は言葉に詰まる。
「…こっちが嫌だったらしんべヱと喜三太の方に行ってやればよかったのに…」
食満が不満そうに唸った。
それの言葉に、立花の動きが一瞬ぴきっと止まる。
「そうだ、留三郎…。私はお前に一言、言っておきたかったんだ」
引きつった笑顔で食満の方を見た。
「お前、自分の委員の下級生のしつけをしっかりしておけ。…特にあのしめりけコンビ」
「「しめりけ??」」
「そうだ。あいつらさえいなければ…」
何かを思い出したのか、立花はプルプルと振るえ、イライラしだした。
「あの二人がどうかしたか?…あいつらは手はかかるが、ちゃんと仕事をする良い子達だぞ」
「お前は、あの二人の悪魔の本性を見たことがないんだ…」
「悪魔だなんて、そこまで言うことはなかろう。あいつらはあいつらなりにがんばってるんだぞ」
食満は、立花のあまりの言いように眉間にしわを寄せる。
「それなら、そのがんばりを実のなるようにして欲しいものだ。本当に、いつも迷惑をかけられて…」
頭を抱える立花。
それに善法寺は真剣に心配した。
「仙蔵大丈夫?なんだか疲れてない?」
「いや…、別に疲れてはないが…」
「でもすごくストレスが溜まってる感じがする。何かあったのか?」
「…じつは…」
はーっとため息をつく立花。
誰にも話したことのない悩みだが、何故か保健委員の善法寺に言われると言葉が滑り出そうになる。
が、しかし…
「ちょっと、先輩達――…!!!」
焦った様子のきり丸が、川の方から走ってきた。
「先輩達、立ち話して何やってんスかー!子供達が、ホラ、あっちこっちに散らばっちゃってるじゃないっスか!」
はっと、気がつけば、六人の子供達が自由気ままにあっちいったりこっちいったりしていた。
きり丸は急いでどこかへ行こうとしてしまう子供達を回収して回る。
「あ、ああ。すまない」
「これはいかんな」
ワタワタと三人も子供達を集めにかかった。
「――ほら、そっち行くな!危ないから」
食満が、子供二人の首根っこを掴んで引き止める。そして、そのまま両手に抱っこした。
「――ねー、お兄ちゃん、あそこの木の実とって来てー!」
「お願いー!!」
「え?ああ、わかったよ。…じゃあ木の下でおとなしく待っててね」
子供達に頼まれて木に登る善法寺。
「――お兄ちゃん…髪の毛きれいねぇ」
「え゛!?」
「触っていーい?」
「あ、ああ。別にいいが…」
「「わぁーい!」」
小さな女の子二人に挟まれて、髪の毛で遊ばれる立花。
「――まったく…、やっぱり善法寺先輩も食満先輩も立花先輩も、六年生は不安だよ…」
きり丸は、大きくため息をついた。
作品名:六年生の子守唄の段(立花・善法寺・食満ver) 作家名:祐樹