六年生の子守唄の段(立花・善法寺・食満ver)
「ふ―― …、早く洗濯物終わらせてしまおう…。先輩達が何かやらかす前に…」
きり丸は汗をぬぐいながら、任された家から少し離れた川で洗濯物を洗っていた。
着物やら手ぬぐいやらを石にこすり付けて汚れを落としていく。子供六人の家族のものなので、その量は半端ない。
…だが、案の定、それは子供達の叫び声によって遮られた。
「「うわ―― っ!!」」
「うっ、わあああ!!!毛虫の大群―― !」
それには善法寺の声も混じっていた。
「な、何なんスかぁ―― !?」
きり丸はダッシュで悲鳴の上がった木の下へ向かった。
「「うわ――――んっ!!」」
木の下では子供達が大泣きしている。その周りには…
「うっ…。何だ、この毛虫…」
きり丸は思わず一歩引いてしまった。
そこには、うじゃうじゃと毛虫が落ちており、その中で子供達が泣いていた。
「す、すすすすまない!!…ごめんね、大丈夫かい?」
スタッと木の上から降りてきた善法寺が、慌てて子供達から毛虫を取り払う。
「採った木の実の裏に沢山の毛虫がついてて…。びっくりしてのけぞったら、木が揺れて、他にも潜んでた毛虫が落ちてしまったんだ…」
オロオロときり丸に説明した。
「あああ、泣かないで…大丈夫、この種類の毛虫には毒はないから…」
「うわ―― ん!」
「このお兄ちゃんいや―― !!」
大泣きした子供が、きり丸の方に走り寄ってきた。
「い、嫌……」
それにショックを受けた善法寺。
「…やっぱり不運ですね」
きり丸はつぶやいた。
一方、こちらは立花。
女の子二人に髪をいじられて続けている。
「わぁ、サラサラ!」
女の子達は立花の髪を触ったり、三つ編みにしたりして遊んでいる。
そんな、されたい放題の状態で、立花はあえて何も言わずに大人しくしていた。
(無駄に相手するよりも、勝手に遊んでいてくれればいい…)
…そう思っていたのだが。
「あれ…?またあったよ」
「あー、本当だぁ。…ねぇ、お兄ちゃん…」
「…なんだ」
声をかけられて、立花がしぶしぶといった風に返事をした。
「こんなにきれいでまっすぐの髪なのに、どうして時々、くるんってなった髪の毛が混じってるの?」
不思議そうに言う子供達。
手にしているのは、何か焼けてしまったようにくるりと巻いている髪の毛数本だった。
それを聞いて、立花は驚く。
(なっ…、まさか、あのときの爆発でアフロになったのが残って…?)
一気にいやな記憶が蘇った。
「ほらぁ、ここにも。どうして?」
そう言って、女の子は次々とアフロの残り香を摘み上げていく。
「ど、どれだ。見せてくれ…」
「こんなにあるよー?」
立花が言うと、女の子がグイッと引っ張った。
「い゛っ………!!」
思い切り引っ張られて、首がグキッと嫌な音を立てた。
「~~~~~~っ…!!」
しかし、女の子達はそれに気がついた様子はない。
「ね?見えた?」
「すごいくるくるでしょー?」
しかし、痛みで立花が返事できないでいると、今度は別のものに気をとられたらしい。
「あれ、お兄ちゃん、懐に入れてるものなぁに?」
立花の懐に入っている焙烙火矢に興味を示した。
「…~っ、これは、焙烙火矢といって…」
恐らく、後ろから覗いて見えたのであろう。
あまり子供に見せるべき物ではないが、見られたからには少しぐらい見せていいだろう……というか、それでごねられたら困る、と立花はひとつ取り出した。
「あっ!私、知ってる!!」
女の子が顔を輝かせて手を叩いた。
「それ、お手玉でしょう?私できるよ。貸して!」
「あっ、こら…!?」
そう言って立花の懐に手を突っ込み、焙烙火矢を三つ取り出す。
「上手にできるか見ててね!」
そう言って、悠々とお手玉をし出した。
「いや、待て。それはお手玉じゃない。あ、危ないから返して…」
「立花先輩―― !!子供達に何を持たせてんスかぁ!!」
そこに、きり丸が涙目で走ってきた。
「焙烙火矢は一歩間違ったら爆発するんスよ?どうしてそんな危険なもの…」
「わかっている!…取られてしまったんだ…。ほら!危ないから返すんだ」
きり丸にまで言われて、立花は少し語調を強める。
しかし、子供達はきょとんとして顔を見合わせた。
「大丈夫だよ」
「だって、私達、この間来たお兄ちゃんにお手玉の仕方教えてもらったもん」
「お手玉にして遊んでもらったしね」
「ねー」
ニコニコとして、笑う。
「……『お手玉にして遊んでもらった』……?」
その言葉に怪訝そうな顔をする立花。
「……それ、七松先輩です……」
きり丸は苦笑いをしながら答えた。
作品名:六年生の子守唄の段(立花・善法寺・食満ver) 作家名:祐樹