六年生の子守唄の段(立花・善法寺・食満ver)
毛虫にまみれてしまって、大泣きした子供達だが、やっと泣き止んだ。
「ほら、こっちおいで。お兄ちゃんと遊ぼう?」
「「………」」
「もうさっきみたいなことはないから。ね?」
「「………」」
善法寺が必死に呼びかけるが、惨事があった後なので、子供達は警戒して近寄らない。
「う~ん…、まいったなぁ。すっかり嫌われてしまったようだ…」
すっかり困り果てて善法寺は頭をかいた。
「う~ん…。…あっ、そうだ!!」
そこでいいことを思いつく。善法寺は急いでそれを探した。
「「………?」」
子供達が見守っているところで、善法寺はあっちにいったりこっちに行ったりで何かを集めている。
「よし!これでいいぞ」
そんな声が聞こえてくるのと、いい香りがしてくるのは同時だった。
「ほら、おいで。いい匂いがするだろう?」
善法寺がもう一度、子供達を呼ぶ。
子供達はまだちょっと不安だったが、香りへの興味に、恐る恐る近寄った。
「…これ、何の匂い?」
「とってもいい香り」
香りの効果で、すっかり強張った表情を緩めた子供達が善法寺に尋ねた。
「これはね…、ほら」
善法寺が取り出したのは。
「葉っぱ?」
普通の葉っぱだった。
「そうだよ。見た目はこんな何の変哲もない葉だけど…こうやって、焚いてやると…」
「「わあっ!!」」
善法寺が火をつけてやると、葉からいい香りが漂った。
「すごーい!!」
「ふふふ、だろう?」
子供達は感動したようで、その葉っぱを手に取り、裏返したりしてみる。
「僕も焚きたい!」
「私も!」
「そうかい?じゃあ、ここに沢山あるから…」
そう言って、善法寺は山盛りになった葉を指す。
子供達は、さっきまでは善法寺に「大嫌い!」と言ったのを忘れて、夢中になってしまった。
「ほら、返しなさい!危ないから」
「それはお手玉にして遊ぶものじゃないんだ」
きり丸と立花が必死に子供達を説得する。
「えー。もうちょっとー」
「ねぇ、私達上手でしょう?あのお兄ちゃんが帰ってから、一生懸命練習したんだから」
子供達はそう言って焙烙火矢を放さない。
「…~っ、これだから子供は嫌いなんだ」
言うことを聞かない子供達に、イライライライラと、立花が剣呑な顔になって行く。
「せ、先輩。子供のすることなんだから、そんな怖い顔しないで…」
きり丸がツーッと汗を一筋垂らしながら言った。
「あっ!こら、一気にそんなに焚いたらダメだろう…!」
「だってぇ~、いっぱいいい匂いにしたかったんだもん…」
「ね~」
善法寺がちょっと目を放した隙に、子供達が山になっていた葉の全部に火をつけてしまった。
葉は、ちょっとした焚き火状態になり、濃厚な香りが辺りを包む。
「う~ん…ちょっとこれはまずいかなぁ」
まいったな、と頬をかき、ちらりときり丸の様子を見る。
監視役のきり丸は今、立花の方で手一杯のようだ。
「…今の内に消しておこう…」
そうつぶやいて、子供二人を引き連れて川に水を汲みに行った。
「ほら、いい加減に返すんだ」
「「え~~~」」
いくら言っても聞かない子供達に、立花のイライラが頂点に達してきた。
「先輩、怖い顔をしたら子供たち泣いちゃいますから…。それで前回は中在家先輩が困っちゃったんです。笑顔です、笑顔!」
明らかに不機嫌になってきた立花に、きり丸はワタワタしてしまう。
「あのね、それは『焙烙火矢』っていって、火薬がいっぱい詰まってるから危ないんだ。だから早く先輩に返し―― 」
とにかく何とか説得しようとしたとき。
「あっ」
女の子がお手玉していた焙烙火矢が、指にはじかれてまったく別の方向へ飛んでいってしまった。
「「~っあああああああ!!」」
驚いて、きり丸と立花が叫ぶ。
その火矢が飛んでいった方向には…
「ちょっ…!」
「待て…!!」
「「何でそこに焚き火があるんだ―― !!!」」
顔を真っ青にして叫ぶきり丸。
焙烙火矢は、間違いなく焚き火の方向に飛んでいっている。
立花は咄嗟に体が反応して、駆け出していた。
「―― っああああああああああ!?」
と、別のところから悲鳴が聞こえて立花がその方向を見ると、善法寺が川の方向から帰ってきたところだった。
「何で焙烙火矢を火に向かって投げてんの!!??」
驚いた善法寺も、それを阻止しようと走り出す。
「なっ…!!ちょっ…伊作、こっちに来るな…!!」
「え、仙ぞ…!?」
しかし、二人の向かうところは同じで。
奇しくも、善法寺は焙烙火矢と焚き火にしか目に入っておらず。
…そして立花は、突然横から入ってきた善法寺を避け切れなかった。
ゴ~ン!!
「「~~~~~~っ!!!」」
…二人は見事に頭から衝突してしまった。
そして、焙烙火矢は…
…ポトッ!!
「「ああぁあぁあ―― !!」」
ドッカ~ン!!!
見事、焚き火の中に落ちた焙烙火矢が、立花と善法寺を巻き込んで大爆発した。
「立花先輩!善法寺先輩―!!?」
「「「「わあ~!!すごーい!!!」」」」
まさかの大爆発に叫ぶきり丸と、それを見て喜ぶ子供達。
―― …真っ黒な煙が、もくもくと立ち上った。
作品名:六年生の子守唄の段(立花・善法寺・食満ver) 作家名:祐樹