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TWILIGHT ――黄昏に還る3

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(それが、聖杯戦争だというのだろうか……?)
 この衛宮士郎が経験した聖杯戦争とは、いったいどんなものだったのか。気にはなるが、それを訊ねることなど、アーチャーにはできない。
(どのみち、消すのだ……)
 そう思いながら、聞いてみたいとも思う。衛宮士郎が戦った聖杯戦争の顛末を。
 アーチャーにはもう彼方に霞んでしまって、おぼろげにしか見ることのできない遠い記憶と、どう違うのか。
 ただ、金糸を揺らしてともに戦った騎士の面影は、今も微かに残っている。そして、その彼女に気を遣わせ、心配をさせている青年が許せなくもある。
(はっ! 何を私は、子供じみたことを思っているのか……)
 自身を嗤い、遠目に見える武家屋敷に、少しだけ感慨めいた気持ちが浮かぶ。
(思い出探しなど、馬鹿らしい……)
 冷たい空気に吐いたため息は白く濁り、すぐに薄れて消えていった。



***

 衛宮邸に戻った一行は、キャスターが自身の拠点に戻り、ランサーが周囲の警戒をかって出て、居間には士郎とセイバー、凛とアーチャーの四名だけになった。
「マスター、英雄王の行き先は……、その……」
 台所で茶の用意をする士郎を手伝いながら、おずおずとセイバーは訊く。
「柳洞寺だろう。あそこの霊脈は、聖杯を使う、には……っ……」
「マスターっ?」
 突然、片膝をついた士郎をセイバーも膝をついて窺う。手の甲で口元を押さえる士郎の顔色は真っ青だった。
「ちょ……、ちょっと、顔、洗ってくる」
 士郎は明らかに憔悴していた。居間を出ていく背を見送る落ち着かない様子のセイバーは、士郎のあとを引き継いで、来客に茶を淹れるどころではない。
「アーチャー、続きやってあげて」
 見かねた凛がアーチャーに頼み、居間の戸口で立ち尽くすセイバーを座卓に促す。
「大丈夫なの? 彼は」
 凛が優しくセイバーに訊ねる。
「ええ、はい、少し、疲れが……、出たのだと、思います」
 セイバーは沈んだ声で答えた。
「そう。病気とかではないのね」
 安心したわ、と凛が言うが、セイバーは俯いたままだ。口先だけで励ますこともできず、何を言えばいいかと凛は迷いながら口を開く。
「びっくりしたわ。私、衛宮くんって、あんなふうに怒ったりしないと思ってた」
「そう、なのですか……?」
 少しセイバーは顔を上げた。
「うーん……。未来の衛宮くんだからなのかしら? ここにいる衛宮くんを、私はよく知っているわけじゃないし、友達ってわけじゃないし、顔見知り程度なんだけど……、なんだか、衛宮くんって、変わっててね。他人の頼みは断らないっていうか……、八方美人ってわけでもないんだけれど……、どこか、うん、なんだか、ここに生きてない感じがするなぁって、思ったりもしたことがあるの」
「ここに、生きて……」
 ぼんやりとセイバーは繰り返す。
「普通に高校生なのよ。でも、なんだか、どこか遠くを見ている気がしてね」
 凛の言いたいことがなんとなくわかる気がして、セイバーは頷く。
「マスターは、未来を変えることしか、頭にないように見えます……。けれども、それだけではなく…………。あの、協力を求めるときに、そういうことを言いきっていたのは、事実なのですが……、本当は違うのです」
 士郎が未来を変えるためならば、何もかもを捨て去っているというのは、真実の姿ではないとセイバーはともに過ごしているうちに気づいた。たどたどしい物言いだが、それをセイバーは説明しようと、とにかく、マスターのことを理解してほしいと、素直に言葉にする。
「バーサーカーのマスターの、イリヤスフィールのことを、ずっと気にかけていたのです……。救いたかったのだと思います。マスターは必死になって、どうにかして彼女が生き残ることができるようにと願っていたのかもしれません」
「そう……」
「ですが、それもできず……」
「そうね……」
「聖杯を破壊するなどと意気込む奴が、今さら何を甘ったれているのやら」
 不意に投げかけられたアーチャーの呆れ声に、セイバーはキッと視線を向けた。
「マスターには、マスターの事情があるのです!」
 茶を淹れて居間に戻りながら厭味をこぼすアーチャーに、セイバーは声を荒げる。
「救いたくても救えない者を、手を差し伸べることなく見過ごさなければならない事柄を、マスターは堪えているのです! アーチャー、あなたはそんな状況でも平気でいられるというのですか? そんな機械じみたことを、平気で成すことがあなたにはできると?」
「ああ、できる」
「な……」
 平然と言い切るアーチャーに、セイバーは言葉に詰まった。
「ちょっと、アーチャー、やめなさいよ……」
「守護者というものは、そういうものだからな。奴もそれを知っているという口振りだったと思うが? それに、今回のことも、わかっていてアレはやっているのだ。そんな者に同情など、する価値もないぞセイバー」
「……そう、ですか。私は……、貴方がエミヤシロウだということが、いまだに信じられません! あまりにも、違いすぎている……。その物言い、守護者というものである貴方なら、きっとマスターの成そうとしていることも、眉一つ動かさずにやってのけるのでしょうね! そういう道を選んだ貴方には、マスターの苦しみなど、欠片もわかるはずがありません!」
「君のマスターが不甲斐ないからといって、私に八つ当たりはよしてくれないか」
 心のままにアーチャーを蔑んだものの、皮肉たっぷりに返され、セイバーは、ぐぬぬ、と押し黙る。
「もう、アーチャーも、やめなさいよぉ……」
 凛は呆れかえって嘆息し、額を押さえてため息をこぼした。

「悪い、ちょっと、頭冷やして……、って、なに、どうした、この空気……」
 居間へ戻ってきた士郎は、悔しげにアーチャーを睨むセイバーと、涼しい顔で腕を組んだままのアーチャー、そして、疲れ切った凛に、困惑気味にこぼした。
「仲間割れなんかしてる暇ねーぞー」
 士郎が居間に入るのをためらっていると、その後ろからランサーが現れた。
「見回りご苦労さん」
 振り返った士郎は、ランサーを労う。
「おう。特に問題はなかったぞ。ただ、山の上はやばそうだけどな」
「ああ……、うん、そうだろうな……」
 士郎が目を伏せて頷けば、ぽす、と頭に載ったランサーの手がそのまま撫でてくる。
「なに?」
 やや不機嫌に訊けば、
「んー、なんとなく?」
 ランサーは小首を傾げて曖昧な返事をする。その間も、士郎の頭を撫で続けている。
「あのさ……俺、子供じゃないんですけど……」
 士郎が目を据わらせれば、ランサーは、呵々、と笑う。
「なーんか、お前の頭、撫でやすそうでよー」
「なんだよ、それ……」
 憮然としながらランサーの手から逃れ、士郎が座卓につけば、ランサーも角を挟んだ隣に腰を下ろした。
「それで? 遠坂、何があったんだ?」
 士郎はセイバーがアーチャーに牙を剥いている理由を訊ねる。
「ちょっと、うーん、口喧嘩っていうか……」
 凛がどう言えばいいものか、と迷いながら説明しようとしているが、士郎にはさっぱりわからない。