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TWILIGHT ――黄昏に還る3

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「さあ、そろそろ、本物の善さが身に染みたことだろう。今なら尻尾を巻いて逃げようとも追わずにおいてやるぞ?」
「気遣いなど無用だ」
「逃げる機会を与えてやろうというものを、貴様は阿呆よな」
 くつくつ、と嗤うギルガメッシュを冷めた瞳で見ているが、アーチャーが依然劣勢であることは端で見ている士郎にもわかった。
「……キャスター」
 休息のため、境内の片隅の木に身体を預けているキャスターを振り向く。
 魔女とも謳われた彼女の魔力とて無尽蔵ではない。契約したランサーにも魔力を取られているため、万全とは言えない状態だ。
「悪いな、無理させて」
「ふふふ……、本当にあなた、面白いわね」
 薄く笑みの形に動いた唇が整わない呼吸を繰り返している。
 これ以上キャスターが戦うのは無理だと士郎は判断した。
「自分の身は、守れるよな?」
「ええ、もちろんよ」
 疲れの色を見せているが、キャスターははっきりと答える。
「あんたの安全を確保したいところだけど、俺も手一杯でさ。アイツのケツも叩かなきゃなんないから……」
「ふふ……。私のことを気にすることはないわ。旗色が悪くなれば、いつでも逃げるつもりよ」
 ローブに隠れた顔が笑みを刻んでいることを認め、士郎も小さく笑い返す。
「助かったよキャスター。えっと、これきりになるとあれだから、なんていうか……、お幸せに」
「はい? なッ、ちょ、ちょっとっ?」
「はは! あんたは、そうやってワタワタしてるのがいいかも!」
 笑いながら士郎は歩き出す。アーチャーが宝具の雨を浴びる、境内の中心へと。
 その背を見つめてキャスターは、少し熱くなった頬を、知らず、緩めていた。

「アーチャー」
 真っ直ぐにアーチャーの許へ、ツカツカと歩み寄った。途中、ギルガメッシュの放った剣が身体を掠めたが、気にも留めない、顎を伝った汗を拳で拭ったアーチャーがこちらに気づき、口を開く前にその胸ぐらを掴む。
「しっかりしろ!」
 ごっ、とけっこうな音を立てて、頭突きをかませば、ギルガメッシュも虚を突かれたのか、武器の雨がやんだ。
「っ……」
「真偽なんか、どうでもいい。精巧な偽物が本物に劣らないってことを、見せつけてやればいい!」
「な……に、を……」
「真贋なんざ、関係ない! 偽物が劣っているなんて、そんなの誰が決めたんだ!」
「ほざくな雑種。所詮、贋作者の作るものなど本物には及ばぬものだ」
 高慢に言ってのけるギルガメッシュの背後には、見せつけるように、ずらりと宝具と呼ばれる武器が並んでいる。
「るせえっ! ちょっと黙ってろ!」
 ギルガメッシュは片眉を上げ、今にも射出しようとしていた武器を引っ込めた。腰に片手を当てたまま、面白いものでも見つけたように二人を観察することにしたようだ。
「いいか、アーチャー。俺にできて、お前にできないはずがない。ここで引けば、未来どころか、遠坂すら守れない。そうして残るのは、後悔と、最悪の未来だけだ! 俺はいい、死んで終わりだからな。けどお前は、この先も英霊として在り続けるんだろう! なのに、そんなのでいいのか! お前はずっと、後悔したままで、いいのかよ!」
「……………………勝手ばかりを言って……、我々を振り回して……」
 す、と深呼吸をしたアーチャーが士郎を真っ直ぐに見据える。
「ずいぶんな口をきくものだ。私の何を知っているのか知らんが、貴様に指図される謂れはない! 貴様に言われずともやってやる。貴様の言う通り、真贋など強さには関係ないのだからな!」
「最初(ハナ)っから、その意気でやってくれりゃ、いいんだよ!」
 士郎の苦言に、アーチャーは、フン、と鼻を鳴らして答えた。
「んじゃ、一つ、提案」
 耳を貸せと士郎が示唆すれば、アーチャーは渋い顔をしながらも従い、顔を寄せた。
「固有結界に持ち込んでもいい、あいつにあの宝具さえ出させなければ、俺たちにも勝機はある」
「……同感だ。だが、どうやってそれを防ぐ。お前は剣製ができるのか?」
「いや、できない」
「…………」
 アーチャーの顔に、だんだんと厭味な笑みが湛えられていく。
「フン、貴様、剣製もできないくせに私に大口を叩いたのか」
 明らかに小馬鹿にして言うアーチャーに、士郎はムッとする。
「今の今まで、ぶっ倒れそうだった奴に言われたかねーな!」
「む」
「とにかく!」
 アーチャーの肩をさらに引き寄せ、耳打ちする。
「――――――、いいな?」
「……了解だ。だが、お前の身を守るつもりも、私の剣を避けるつもりもないぞ、後で文句を言うなよ」
「わかってる」
 士郎が拳を持ち上げれば、アーチャーがそれに軽く拳を当てる。
「行くぞ、英雄王」
 ギルガメッシュを見据えて言いながら、アーチャーは剣製をはじめる。
「武器の貯蔵は十分か?」
 かつてと同じ台詞を不敵に吐いて、士郎は双剣を手に身構えた。

 アーチャーとギルガメッシュの剣製対決とでも言えばいいのか、士郎はそのただ中で、アーチャーに向かってくる武器を防ぐ。
「ちょこまかと、よく動く盾よのう」
 ギルガメッシュの言う通り、士郎はアーチャーの盾となって、武器を弾いているのだ。
「っぐ!」
 士郎の脇腹から血飛沫が舞った。
「おい!」
「ち。俺に照準が合ってるってことは、アーチャー、お前、ナめられてるぞ!」
 肩で呼吸をしながら士郎は揶揄する。
「足手まといになるつもりなら、すっこんでいろ!」
 剣と剣がぶつかり合い、砕けていく音が、ひっきりなしに境内に響く。
「いいんだな? ほんとに」
「二言はないっ!」
 アーチャーは苛立ちを含めて答える。
「そんじゃ、休憩させてもらうとするか」
「さっさと行け!」
「い、って!」
 アーチャーに背中を蹴られて、ギルガメッシュの剣から逃れつつ、士郎は木立に退いた。
「所詮、雑種は雑種。逃げ足の早いことよ」
 ギルガメッシュは笑っている。まだまだ余裕がありそうだ、と士郎は苦々しく思う。
「アーチャー! 手ぇ抜いてるんじゃないだろうな!」
「やかましい!」
 すぐさま反論が返ってきた。
「は! 余裕、あるんじゃないか……」
 呟きつつ、脇腹に手を当て、傷を塞ぐ。
 回復はできないが、出血だけは止めておかなければ、魔力を失うどころか、貧血で倒れてしまう可能性もある。セイバーへ送る魔力も考慮すれば、これ以上の投影と出血は回避したい。
 息が上がっている。何度深く呼吸をしても、息苦しさが拭えない。
「血製魔術が一回分と残り二本の剣……。これが限界だな……」
 セイバーに宝具を打たせる余力も残さなければならない。受信機で大源(マナ)を収集しているとはいえ、際限がないわけではない。士郎の蓄えを大幅に超える魔力は溜めることができないのだ。失う分の魔力は補われるとはいえ、多少のタイムラグがある。したがって、ギルガメッシュを相手に全魔力を使い切るわけにはいかない。
 自身の状態を把握し、木の幹に身を隠して様子を窺う。今は、アーチャーが押しているように見える。ギルガメッシュの表情に余裕はあるものの、徐々に武器の数が減ってきている。