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TWILIGHT ――黄昏に還る3

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 撃ち込まれる武器に剣をぶつけるだけだったアーチャーの剣製が本堂の瓦屋根を貫き、対するギルガメッシュは足場の悪い屋根の上だというのに軽々とその剣を避けている。が、次々に足下を狙われ、足場の悪さから、とうとうギルガメッシュが地に下りてきた。
「ふん。我の足に土を付けるとは……」
 皮肉な笑みに顔を歪めるギルガメッシュは、口角を吊り上げた。
「偽物も、それなりにやるではないか」
 認めてやろう、とギルガメッシュは武器の放射を止めた。
「……だが、こいつは、真似できまい?」
 くく、と喉を鳴らして、ギルガメッシュは右手で柄を掴む。
「あれは……」
 アーチャーがその柄を見て戦慄した。
「わかっておるぞ、贋作者。これは見抜けぬのであろう?」
 くつくつと笑うギルガメッシュに、アーチャーが苦々しげにして盾を繰り広げるための詠唱をはじめる。
「ふ……。そんなもので、防げるものか見ものよのう、贋作者?」
 答える義理はないとばかりに、アーチャーは守りの準備を固めるに留まる。先ほど見せつけられた威力は、アーチャー自身、防ぎきれるとは思えない。それでもアーチャーは退くわけにはいかないのだ。
「その身をもって、存分に味わえ、本物の威力というやつをな!」
 吠えたと同時、その右腕を掴もうとする気配にハッとしたギルガメッシュは、すぐさま剣を撃つ。
「ぅ、わっ!」
 振り返るギルガメッシュに、士郎は苦笑いを返した。
「はは、やっぱ、気づかれたか」
「貴さっ、」
「それは、なしにしてくれよ」
「な、ん……」
 背後を取られたことに面食らっているのか、ギルガメッシュは言葉を失っている。だが、すぐにその口角が上がった。
「馬鹿め」
 冷たく嗤うギルガメッシュに、む、と顔をしかめる。
「知ってるよ、そんなこと」
「ここまでだな、雑種。我の後ろを取ったまではいいが、その後が続かぬのなら、失策だ。贋作者も我の剣を受け流すのみで精一杯。所詮、雑種どもがどう足掻こうとも、ここまでの話よ」
 ギルガメッシュがエアではなく、中空に浮かぶ剣を手に取る。士郎一人など取るに足らないということなのだろう。
 どこかの国の、何れかの時の宝剣が、この世の財のすべてが我が物だと宣う王のその手に握られている。
 振り上げられた剣が夜でさえ輝く。
 宝剣だからか、英雄王・ギルガメッシュが持つからか、理由など定かではないが、士郎にはその剣が美しいものということだけがわかった。
 ブン!
 風を切る音とともに右へ避ける。
「それで躱したつもりか? 雑種」
 刃を避けるのならば、距離を空けなければならない。だというのに、士郎は距離を取るどころか、先よりも間合いを詰めている。
「充填完了、…………血製(ブラッド)魔術(オーダー)、」
「なッ?」
「爆(フレア)っ!」
「ぐッ!」
 まともに衝撃を顔面に喰らったギルガメッシュは、空いた腕で顔を押さえた。
「き、貴様、」
「アーチャーだけに気を取られてただろ?」
 一瞬立ち込めた爆煙が薄れ、赤い瞳が士郎を睨む。
「この……っ、雑種、ごときがっ!」
「遅いよ、英雄王」
 士郎の手が、ギルガメッシュの腕を掴む。
 かしん……。
 微かな音に、ギルガメッシュは目を向けた。
「何を……し、」
 問う前に、状況を判断し、ギルガメッシュはさらに眉根を寄せた。
「魔力は押さえさせてもらった。あんたに邪魔されるのは困るんだ」
 魔力を封印するブレスレットをギルガメッシュに嵌めた士郎は淡々と告げる。ギルガメッシュは、ち、と舌を打って、あらぬ方へ顔を向けた。
「……好きにしろ」
 士郎の手を払い除け、ギルガメッシュは、興が醒めた、とばかりに本堂の石段に向かい、そこへ腰を下ろした。
 呆気なく戦いは幕切れとなった。
 アーチャーの本物を凌ぐ剣製と、士郎の不意討ちの連携によって、この世の財を持つという英雄王の慢心を突いた、彼が雑種と呼ぶ者たちにしかできない策は見事に功を奏した。
「聖杯を破壊すると言ったか、雑種よ。……やってみるがいい。あれを、壊せるものならばな」
 負け惜しみとも取れなくはないが、ギルガメッシュはそんな小物じみたことはしないと士郎は知っている。
「やってやるよ。そこで指咥えて見てろ」
 士郎は負けじと言い返す。
 面白くなさそうにして片脚に頬杖をついたギルガメッシュは、フン、と鼻を鳴らした。
「終わりにするぞ」
 士郎と並び、アーチャーは静かに告げる。
「ああ、そうだな。キャスター、行こう」
 木立で休んでいたキャスターに声をかけ、士郎は踏み出す。
「奴を仕留めておかないのか?」
 アーチャーがやや不満げに問うが、
「ああ、それは俺の仕事じゃない」
 きっぱりと言って、本堂の脇へと向かう。
「……その甘さが命取りになるぞ」
「……その時は、その時だ。それよりも、」
 聖杯の破壊だ、と言おうとして、身体がふらついた。
「っ……」
 目の前が暗くなり、片手で目元を押さえる。
 がしり、と腕を引き上げるように持たれ、目を向ければアーチャーがこちらを冷めた目で見下ろしていた。
「あ、わり……」
 頭を振れば、視界がはっきりしてくる。
「隙を見せるなら、殺すぞ」
「あー……はは……、まだ、勘弁……」
 踏み出した士郎の足はまだ頼りないが、一歩一歩進むうちに確かなものに戻っていく。池の前に着くころには、士郎はしゃんとして歩いていた。
「あとは、こいつだな」
 池に陣取った聖杯は、凛とランサーとセイバーを隙あらば取り込もうとしている。
「お待たせ」
 片手を上げれば、セイバーたちに少し喜色が戻る。
「アーチャー、準備はいいか?」
 傍らのアーチャーに訊けば、
「ああ、いつでも、いける」
 当然、とばかりに即答された。
「じゃあ早速。キャスター、そっちはどうだ?」
 振り返れば、後ろについてきていたキャスターが頷く。
「そんじゃ、頼む」
 士郎の答えを待たずして、アーチャーの詠唱が聞こえ、やがて、あたりは一面剣の突き立つ荒野へと取って代わった。
「キャスター、結界を外に展開してくれたよな?」
「ええ、ぬかりはないわ」
 アーチャーの固有結界の外に、キャスターに結界を張ってもらう。その二重構造で、聖杯の欠片も逃がさないという算段だ。はじめはアーチャーの固有結界だけの予定だったが、予想外にキャスターが骨を折ってくれたため、ここにいるならばついでだ、とばかりに士郎は頼んだ。魔力も厳しい状態に無理をさせると謝りながら。
「あとは壊すだけですね」
 セイバーが、きりり、と唇を引き結ぶ。
「ああ。思いきり、やってくれ。遠坂、巻き添え喰わないように、こっち。ランサーも下がってくれ!」
 凛に手招きし、ランサーに声をかける間に、セイバーは魔力を溜めていく。
 吸い出されていくように自身の魔力がセイバーへと向かっていることに少しほっとする。
(昔は、全然だったからなあ……)
 魔力の乏しい、サーヴァントを繋ぎ止めることすら難しい、そんな自分が聖杯戦争の覇者の一人になるとは到底思えなかった。
 あの時は、ただ、がむしゃらに戦うしかなかっただけだ。決して己だけの力で勝てたとは士郎自身、思っていない。
(俺一人じゃ……)