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TWILIGHT ――黄昏に還る3

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 セイバーすら現界させるのも難しかった。
 そして、凛の協力がなければ勝ち残ることも、生き残ることすら難しかっただろう。
 昔のことを思い出し、ふ、と笑みが漏れる。
 目映い閃光に貫かれ、焼かれ、聖杯であったモノは蒸発するように消し飛んでいく。
(これで……)
 あの未来は来ない。
 あの、崩壊秒読みの世界は、来ない…………。
「跡形もなく霧散しました」
 セイバーが剣を下ろして静かに告げる。
「アーチャー、キャスター、ランサー、どうだ?」
「なぁんも、見えねえ」
「ええ、魔力反応はどこからも感じられないわ」
「同じく」
 最後にアーチャーが答えて、士郎は、ふう、と息を吐く。
「任務、完了…………だな」
 凛とサーヴァントたちがそれぞれに頷き、ぐ、と士郎は拳を握って、親指を立てた。



「お疲れ」
 衛宮邸に戻ると、少年が朝食を準備万端整えていた。
「……ありがたい」
 気が抜けたように、士郎は目尻を下げる。
「シロウ、いただきます!」
 ささっと、座卓につき、すでにセイバーは手を合わせている。
「セイバー、手を洗ってからだぞ」
 少年に言われ、慌ててセイバーは手を洗いに居間を出ていく。それを見送って少年はこちらを見上げた。
「あんたもだ。早く手を洗って来いよ」
「あ、ああ、うん……」
 おぼつかない足取りで、かつての我が家を歩く。
(ほんとに、これで、未来が変わったんだろうか……?)
 士郎に確かめる術はない。
「戻れば……、変わって……」
 いつものように、自身だけが覚えている過去の変更。
「未来は……」
 変わるのだろうか、と何度も心中で繰り返す。
 一応聖杯の破壊という任務は完遂した。ということは、士郎は必ず未来に連れ戻される。それで成功か失敗かがわかる。
「大丈夫だ、きっと……」
 未来は変わっているはずだ、と言い聞かせるように呟いた。
 手を洗い、ついでに顔も洗って、冷たい水ですっきりした。居間へと戻れば、すでに少年とセイバーが待ち遠しそうにしている。
「悪い、待たせたな」
「いや、待ってるのはセイバーだけだって」
「はは、そうだな」
「な、何を笑っているのですか、マスターもシロウも! さあ、早く食べましょう!」
「はいはい。それじゃ、いただきます」
 手を合わせて、士郎と少年とセイバーは約束通り、揃って朝食をいただいた。



◇◆◇Fourth Farewell◇◆◇

「あ、寝てる……」
 士郎が目を向ければ、箸と茶碗を持ったまま、青年は、こくり、こくり、と舟を漕いでいる。
「疲れてるんだよな……、顔色悪いし」
 士郎はその手の箸と茶碗をそっと取り、座布団を並べて青年の身体を横たえた。
「お疲れ……」
 側にたたまれてあったコートをかけ、フードの部分で頭部を覆い、いつ姉代わりが来てもいいようにその顔を隠しておく。
「ほんとは布団に寝かせてやりたいけど……」
 ぽつり、とこぼせば、
「運びましょうか?」
 セイバーが気を回してくれる。
「いや、いいよ。服、汚れてるし、布団に寝るんなら、風呂にも入ってほしいし」
 士郎は過労気味の青年に手厳しい。
 気を遣ったところで俺だから、という気持ちがどこかにあるのかもしれない。
 士郎は青年に、他人とは違う接し方をしてきた。自分でも驚くくらい青年に気を遣わなかった。
 衛宮士郎は、無意識下で、誰かのために生きなければ、と思っている。
 それが、あの災厄から生還した代償だとでもいうように。自分は生き残ったのだから、生きたかった人たちの分まで真っ当に、誰かのために……、と。
 ただ、この青年の衛宮士郎にだけは、そんな気持ちは全く湧かなかった。だから、気を遣うこともなかったし、言いたいこともするすると口をついて出ていた。
 けれど、口にできなかったことがいくつかある。必死に仕事に勤しんでいる青年を煩わせたくなくて、士郎は訊けずにいた。
(俺もいずれはこんなふうに命を懸けて、世界のためにと、堂々と言ってのけるような者になるんだろうか……?)
 士郎が青年に訊きたいことは、それに尽きる。
 青年の姿は、士郎には眩しい。自分自身を置き去りに、ただ、未来のためにと死力を尽くす青年が心底羨ましい。
(こんなふうに、俺は生きられるのか?)
 少しばかりの期待と不安が渦巻く。
 十年先の世界から来た衛宮士郎。
 未来を変えるために、一人で過去にやって来た、そして、その目的を果たした、衛宮士郎。
(俺にもいつか、こうやってすべてを懸けて何かと闘う日が来るんだろうか……)
 どこかでそれを望んでいる。
 士郎は口に出したことはないが、誰かのためであるならば、この身すらなげうってしまいそうな予感がある。
(目が覚めたら、いろいろ訊きたいこと、あるな……)
 青年の朝食は、ほとんど手が付けられていない。空腹よりも眠気の方が勝ったようだ。
「セイバー、起きたら食べるだろうから、これは食べちゃダメだぞ」
「う……、わ、私は、何も、」
「セイバーの分はちゃんとあるから、ほら、茶碗、貸して」
 空になったセイバーの茶碗を受け取り、士郎はおかわりをよそった。



「あれ?」
 台所に入ると、朝にはなかった調理器具がシンク横のカゴにふせられてある。
 はて? と首を傾げながら視線を移すと、コンロの上に大きめの両手鍋がある。朝、ここに置いた覚えがない。なぜここにあるかというと……。
 蓋を開ければ、玄関を入った時からその香りで予想していた通りの、たっぷりと作られたカレーが鎮座している。
「あいつ、作ってくれたんだ……」
 呟きながら視線を巡らせると、稼動を始めている炊飯器。
 学校から帰宅し、自室で制服を着替え、夕食を作ろうと台所に立ったのだが、ご飯が炊ければ、あとはよそって食べるだけ、という状態。
 だったらサラダでも、と思って冷蔵庫を開ければ、サラダもすでにできあがっている。
「…………ったく、ひと言言うか、なんかメモ残すか、してくれればいいのに……。朝も顔合わさなかったし、話す暇もなかったんだからさ……」
 青年は、昨日の朝食の途中で寝てしまい、その後、一度起きて、遅い朝ご飯と入浴を済ませば、また寝てしまった。
 別棟の洋室に陣取って、彼はほとんど一日寝て過ごし、今朝も起きてはこなかった。疲れているのだから寝かせておいてやろう、と士郎は起こさずに登校してしまったが、
「そろそろいいよな」
 いろいろ話もしてみたい。
「まだ寝てるのかなぁ……」
 洋室へ向かいながら、独り言ちる。
 けれど、丸々一日寝ていたのだから、もう起こしてもいいだろう、と洋室のドアを開けた。
「カレー、ありがとな。そろそろ起きて――」
 部屋は、もぬけの殻だった。
「……え?」
 バタバタと移動して、もう一つの洋室も確かめるべくドアを開けた。が、そこにも誰もいない。それどころか、どちらの部屋にも、誰かがいた形跡がない。ベッドも使う前と同じ状態で綺麗なままだ。
「ちょ……、な、なんだよ……」
 なんとなく、予感はしていた。
 出会いも突然なら、別れもきっと突然だと。
「っ……、セイバー!」
 声を上げたが返事はない。
「そ……っか、そ……だよな……」