逆行物語 真六部~ヴィルフリート~
新たな時を紡ぐ前に
半神は寿命を持たない。人間に擬態する事が必要だろう。それらは当たり前として、巻き戻りの時点は麗乃覚醒時に置かれ、その後、貴族側をどう行動するべきか、話し合われた。
「まずはヴェローニカ様と和解し、君を妻にしたい。」
「悪戯にライゼガングに権力は持たせられません。今にして思ったら、お父様が養父様の護衛なのが不思議なくらいです。」
「…6代目とお祖母様は元々エーレンフェストを1つにする為に動いていたからな…。その名残だろう。」
「ああ、あの頃の私は何も解っていなかった。ジルヴェスターを自分なしでは何も出来ない様にしてやりたいと…。全く愚かな真似をしたものだ。…ヴィルフリート、」
「過去は生かす為にあるのです。違う未来を作るのですから、止めましょう、叔父上。」
今更謝られても、歴史が無かった事になっても、私の記憶は消せぬ。感謝もあれど、それ以上に醜い感情を叔父上に向けている事実を消せぬ。
それを外に出さぬ様にするだけだ。
「具体的な事を話しましょう。麗乃は父上の実子として洗礼式を迎える。これでエーレンフェストの問題の殆どを解決出来るでしょう。
それから…、私は成人と同時にアウブを継ぎます。父上の美徳を2人が好むのは分かりますが、アウブとしては致命的です。産業を滞りなく進めるには、父上の側近を成長(洗脳だ)させる必要がありますが、父上自身が変われば美徳が失われる可能性もあります。私が継ぐまでの中継ぎ(傀儡)アウブが良いでしょう。」
「権力って…、悲しいものですよね。でも、兄様なら頼りになるアウブになれますね。」
「ああ。…エーレンフェスト内部は今はこれで良い。ゲオルギーネや王族、ランツェナーヴェをどうするか、だな。」
私は叔父上を見た。叔父上はどうしたいのか、聞く必要があるだろう。
「…王族は…、一代限りで属性が足りなくとも使えるグルトリスハイトを渡す。女神の振りでもしてな。権力の移り代わりは避けたいだろうから、後は放置でも構わぬだろう。
……ランツェナーヴェは、滅ぼすのは簡単だが…。」
関係無い平民達が巻き込まれる。そう言いたいのだろう。
「ランツェナーヴェにはローゼマイン式4段階魔力圧縮方法と、魔力操作技量を上げる方法を伝授すれば如何です? 向こうにも神はいますし、切っ掛けを与えれば、上手く統治するのでは無いでしょうか。」
上手く行っても、行かなくとも、ランツェナーヴェがユルゲンシュミットを侵略しないとは言い切れない。上手く行かなければ勿論、上手く行けば、ユルゲンシュミットに頼らず繁栄し、植民地化する為に攻めてくる可能性は否めないのだ。だがその時は半神の力を行使すれば良いのだ。人の目から隠匿する事等簡単だ。
叔父上は言語化しない部分にも気付いているのだろう。黙って頷いた。
「魔力操作技量…。つまりシュタープや魔術具無しに魔力を操る方法ですよね。考えてみたら、どうして今まで誰も出来なかったのでしょう。」
麗乃は首を傾げた。効率の良い魔力圧縮も、操作方法も知識を与えられたが、その背景が解らないのだろう。
「あくまで推測だが…、ユルゲンシュミットが世界の魔力塊だと言う事実のせいだろう。」
魔力塊は当然、魔力が流れにくい。その中で住まう者は魔力を扱いにくいのだ。一方でユルゲンシュミットの外は魔力が薄すぎて、魔力持ちは生まれない。恐らく魔力持ちの人間が生まれたばかりの頃は、身食いしかいなかった。
ユルゲンシュミットが出来る前で、その頃は誰もが魔力を自在に使っていた。しかしそれは神から見れば不便に映る程度で、だからこそユルゲンシュミットを作った(いらんことしい)のだろう。
だがそれが失策だったのだ。世界に魔力塊が出来た事で、人間の魔力の扱いが著しく落ちたのだ。
魔力塊の中では流れが停滞し、人間の身体はそれに順応出来なかった。
魔力塊の外は魔力が薄すぎて、ユルゲンシュミットから何とか魔力を流せる仕組みを作っても、その効果は著しく落ちる。恐らく魔力が薄ければ、魔力を外に逃がす事は出来た筈だが、効果が小さすぎて気が付かなかったのだろう。魔力を動かす事を学べないに等しいランツェナーヴェだから尚の事だ。ユルゲンシュミットから流れる知識を信じきっていたに違いない。
ユルゲンシュミットで同じ事をするには、想像力も精神力も一工夫いるだろう。最初は魔術具と併用して、慣らしていくしかない。
…それはともかく。魔力を増やす方法として効率的なのは、魔力を作り出す器官に栓をしない事、身体の中心に 魔力を集めない事だ。
良く水道の出口を指で押さえると勢い良く水が飛び出してくるから、意外に思うだろうが、魔力は栓をすれば余り魔力を増やそうとしない。末端まで魔力が行き渡っていない事に、身体が気付かない為だ。魔力を器官から離れた場所に集めて圧縮する事で、魔力が足りてないと身体を錯覚させる事で、魔力を作る器官が活発になるのだ。
具体的に言えば、足の指先に魔力を圧縮する様なイメージだ。難しければ、握った拳の爪先でも良いだろう。因みに身体の外に出してはならない。外に出せば、外の魔力と自身の魔力の区別が付かず、消費したと見なされないからだ(精神力の関係で扱える量が自分の出した魔力になるだけ)。
ランツェナーヴェに教えるのは操作方法とローゼマイン式4段階圧縮方法だけで、此方の方は教えない。
これはユルゲンシュミットの属国ではなくなるランツェナーヴェが、侵略してくる事を防ぐ為だ。尤も時代が進めば、誰かが気付くかも知れないが、そこまでは知った事でもないし、神に気に入られている麗乃が、半神としてどうにかすれば良い。
「…とにかくランツェナーヴェは問題ない。ゲオルギーネ様は…、暗殺する。」
「…私も、それに反対しません。あの人は養父様を…!」
叔母上の処遇はそれで良い。あの父上に対する歪んだ好意から来る、エーレンフェストへの執着を完全洗脳で無くせば、人格が崩壊する。病死に見せ掛ける事が一番楽だろう。
…こうして幾つかの方針を話し合った私達は、巻き戻された地に降り立った。これが終われば…、漸く麗乃と叔父上から解放される…。私は内心で薄笑いを浮かべていた。
作品名:逆行物語 真六部~ヴィルフリート~ 作家名:rakq72747