スライムの衝撃1~友の声~
「こんなんで泣くのかよ。おまえ、バカじゃねえの?」
パパズの下卑た笑い声も、見下した視線も、もはやダニエルの意識の外にあった。踏みにじられた偽物のホクロだけが、ダニエルの心を捉えていた。距離があり、はっきりとホクロの状態は知れなかった。しかし、無残な死に様は容易に想像できた。頭に浮かんだあまりにも痛ましい姿に、やりきれない思いがダニエルの心を満たした。
呆然としたダニエルの顔を、パパズが全身を使って殴りつけてきた。間髪入れず、何度もダニエルの体を蹴り上げる。ダニエルの体は中空に浮き上がり、猛烈な速度で地面に叩きつけられた。
「ダニエルー!!」
レベッカの悲鳴は、ダニエルの耳に届いていなかった。ダニエルは悲しみに囚われ、偽物のホクロを救えなかった自分を許せずにいた。肉体に打ち込まれる痛みは自分への罰だと、すべてを受け入れる気でいた。
とどめとばかりに、パパズが跳び上がったとき、何かがダニエルの前に立ちはだかった。
「もう十分でしょう!」
パパズの体の底で、エラ姉が押しつぶされたかと思うと、次の瞬間には中空に浮き上がり、勢いよくふっ飛ばされていた。パパズが思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
木の幹に背中を打ちつけ、横たわるエラ姉に、サマンサが泣きながら駆け寄った。
ダニエルの瞳に生気が戻った。驚愕に目を見開き、いましがた眼前で起きたことが理解できないでいた。
なぜ体を張ってまで助けてくれるんだ。運が悪ければ死んでいたかもしれないのに。
地面に這いつくばって顔を上げると、パパズの背後で、かつての仲間たちがそろって残虐な笑みを浮かべていた。
「そんなやつに負けたら許さないぞ!」
サマンサの悲痛な叫びに、ダニエルの胸が震え立つ。
決めた。
ベスとして生きていこう。
作品名:スライムの衝撃1~友の声~ 作家名:清水一二