スライムの衝撃1~友の声~
もう色なんか関係ない。そもそも、そんなもので軽蔑することが間違いだった。しかし、とダニエルは思う。レベッカは賛成してくれるだろうか。
ちらりとレベッカに視線を向けた。
レベッカは、地面に横たわるママズの腹部に馬乗りになっていた。頭頂部の先端を鞭のようにしならせ、ママズから黄色いリボンを弾き飛ばした。
「わたしのリボンが一番って言え!」
「あ、あんた、の……」
「ああん? 聞こえないんだよ!!」
腹の上で、何度も飛び跳ねる。そのたびに、ママズが苦しそうな呻き声を上げた。
「あんたの、リボン、が、いちばん……だ」
「でしょうね! だってこれはリリーの形見だか――」
熱い視線を感じて、レベッカは顔を上げた。横を向くと、そこにはダニエルの真剣な眼差しがあった。ダニエルのことは、ほとんど記憶していた。戦闘に余裕があるときは、ちらりと彼の様子を確かめていたからだ。
もしものときは、ダニエルに加勢しようと思っていた。オスのプライドを傷つけるかもしれないが、レベッカには彼の命のほうが大事だった。そのため、ダニエルの深刻そうな視線の意味がすぐに理解できた。
憎悪に燃えた目をかつての仲間にくれ、それからすぐにダニエルにうなずいた。
どうやら心は同じらしい、とダニエルは思った。
地面に這いつくばったままのダニエルから、パパズが助走をつけるべく後ずさる。上向くダニエルの顔面を、とどめとばかりに蹴り上げるつもりだろう。
急速に迫りくるパパズの体を、ダニエルは地面を転がって避けた。標的が消えた地面に向かい、パパズが蹴りを放つ。ダニエルが、パパズの背後に回り、全力で体当たりした。
体勢を崩したパパズは顔面を地面に打ちつけ、悲鳴を上げた。すかさずダニエルが、倒れたパパズの横っ腹を蹴り飛ばす。
パパズが後方にふっ飛ばされて、近くにいたかつての仲間たちが駆け寄った。
「何やってんだよ、おまえ! ……このまま負けるわけにはいかない」
全員が顔を見合わせ、次々に地面を蹴り、幾つもの小さな体が段状に積み上がっていく。合体する気だ。
させるものか! おまえたちの嫌いな橙色にしてやる!
全身で思いを迸らせ、ダニエルは、なんとか立ち上がろうとするパパズを押しのけた。レベッカは、ママズから飛び下りた。二匹は彼らのもとへ疾走した。作り上げられた段が崩される前に二匹は飛び上がり、かつての段の定位置に体をぴたりと乗せると、たちまち巨体のキングスライムに変化した。いや、キングスライムベスだ。
作品名:スライムの衝撃1~友の声~ 作家名:清水一二