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同じ頃。アレクセイは混沌とした迷いの森をさまよっていた。

メンシェビキに残るか、ボリシェビキに走るか。
何が正しく、何が悪なのか。
誰が味方で、誰が敵か。
どっちを向いて戦っていけば良いのか。


自分は何を成すべきなのか?


レーニンに会えば、何か道が開けるかもしれないと出かけたあの日。
憲兵に追われ、腕を負傷し、逃げ込んだ廃屋でユリウスと再会したのだ。



……そして、アレクセイはユリウスを置き去りにする。

すがりつく手を振り払ってしまったのだ。

ミハイルとは状況も相手も違うので簡単に比べられるものではない。
しかし、人として、男として、自分とミハイルの度量の違いに打ちのめされた。


もしミハイルではなくおれだったら?
差し伸べられた小さな手をおれは握り締めたろうか?
年端もいかない子供たちの世話をしてやれたろうか?


もしおれではなくミハイルだったら?
差し伸べられたほっそりした手をあいつは振り払ったろうか?
すがりつく恋人に残酷な言葉を投げつけ、置き去りにしたろうか?


アレクセイはショットグラスの中身を一気にあおった。


「その後兄さんは厳しい仕事に就いた様だったので、今までの様には一緒に過ごせなくなりました。ぼくらは、ぼくらで出来る恩返しをしたくて、その時に料理を覚えたんです。たまに帰ってきた兄さんは、まだ料理とすら言えないようなものでも 美味い美味いと……」
それまで我慢していた涙がとめどなくあふれ出し、イワンは声を上げて泣き出してしまった。
ズボフスキーが、自分も両目をぬぐいながらイワンの肩を優しく抱いてやった。
「あいつ、自分が受けた恩をそういう形で返したいと思ったんだろうな」
アレクセイの瞳からも、涙が溢れていた。
「……」
アレクセイは無言のまま、ミハイルのためのグラスに自分のグラスをカチリとぶつけ、ウオッカをあおった。



作品名:その先へ・・・2 作家名:chibita