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「酔えねぇって言ったろ」
ユリウスがアレクセイを心配げに見つめる。他の二人よりあきらかに酒量が多いからだ。
「おまえ、まだ聞きたい事があるんじゃないか?」
「なんだよ」
「イワンとユリウスがなぜ親しいんだ?……とか」
ニヤリとズボフスキーが笑うと途端にアレクセイは慌て出す。
「ばっ、おれはそんなことっ!」
「そうか?ここに来たときから顔に書いてあったがなぁ」
「ぬかせ!」
「まったく、おれは素直だ!が聞いてあきれるな。ユリウス。この迷える子羊に教えてやってくれるか?」
面白そうに話すズボフスキーをアレクセイは睨みつける。
「ふん、酔ってるのはどっちだよ」
ユリウスはズボフスキーがニヤついている意味がまったくわかっていないようだった。そっとアレクセイに近寄り、小声で尋ねてきた。
「ズボフスキーは、何が面白くているの?」
「気にするな。あのおっさん酔っちまって、一人でうかれてるのさ」
ふうん…、とユリウスはズボフスキーを見た。確かに楽しそうに、自分の妻の耳元に何かを囁いて二人で笑っている。



「先生?」
「うん。時々書類を届けに来るイワンと話をするうちに、料理が上手だって事を聞いてね。 簡単で手早く美味しい料理を作るのが得意なんだって。そうしたらガリーナが覚えた方が役に立つわよって」
「……そうか。どうだ?美味い料理は作れる様になったのか?」



おまえはおれが故郷に連れて帰るのだから、料理なんて覚えなくていい。



アレクセイは、出かかった言葉を飲み込んだ。
「まだまだだよ。まだ料理なんて段階じゃないんだ。野菜を刻んだり、肉を切ったり。基本を教わり始めたばかりだから」
「そうだな。まだ発展途上だな。ほれ、ハムの厚さがまちまちだぞ」
アレクセイは皿の上に並べられたハムを1枚つまみ上げた。
「おまけに切り口が荒れてるぞ。ハムを丸太か何かと間違えたのか?」
「もうっ!ひどい言い様だね!まだ練習中なんだからしかたないだろうっ!」
頬を紅潮させムキになって言い返してくるユリウスに、思わず頬がゆるむ。
成熟した大人の女性になったからなのか。
または記憶を失ってしまった為か。

今のユリウスからは、すっかり昔の快活さは失われてしまった。
アレクセイの顔色を窺い、いつも不安そうな瞳。
綺麗なソプラノなのに、か細い声で話し、笑うときもそっと微笑むだけ。
本当にあのユリウスなのか、と疑ってしまうくらいだった。

そしてそんな様子を目の当たりにする程、自分がしてしまった事を突き付けられている様でたまらなかった。

けれどこうして会うほどに、話すほどに少しづつではあるが本来の自分を取り戻している様に感じる。

「そういえば、こんな風に向こうっ気が強かったな…、おまえは」

小声で言ったつもりが、ユリウスの耳には届いたらしい。
「えっ?」
「……いや、なんでもない」





交わることの無い二人だと解ってはいる。

解ってはいるのだが、こんな何気ない話をしながらユリウスが自分を取り戻していければ。やはり嬉しい。

そしてそんな彼女の傍らにいるのも悪くはない、と思ったりする。



そうだな。おれのエウリディケはこうでなくてはな!



今度は聞かれない様に、つまんだハムを口の中へと放り込んだ。
「うん、それでも味は良いぞ」
「もうっっ!!買ってきたハムだもん!味は良いに決まってるよ」
「そう思うだろう?ところが、同じハムでも切り方ひとつで味も変わるもんだぜ」
「そう……なの?」
ユリウスはイワンに確認を求める。
「う、うん。そうだよ。不思議とね」
「そうなんだ。ぼく何も知らなくて……。なんだか恥ずかしい」
アレクセイはユリウスの頭のてっぺんに手をやり、金色の髪をがしがしとかき回した。
「……!」
「気にするな。知らない事は覚えればいい。恥ずかしい事じゃない」
アレクセイの瞳は限りなく優しい。ユリウスは彼の手が触れた髪に自分の手をそっと当てた。
「前にも…こんな風にぼくの髪をかき回したこと、ある?」
「ああ、そうだな」
「……そう。そうなんだ」
ユリウスは、うっすらと頬を染めながら、愛しげに髪をもてあそぶ。

髪にまつわる自分とアレクセイの記憶をなんとか手繰り寄せようとしているようだった。
「イワン、すまんな。出来の悪い生徒かもしれんが、まぁ時々面倒みてやってくれ」
「…!出来の悪いは余計だよ!そりゃそのとおりだけど。アレクセイの意地悪!」
「意外な事を言う。おれほど心優しい男はそういないと思うんだが」
「心優しい人のわりには、初心者に手厳しいと思うんだけど」
「最初が肝心っていうだろ」
アレクセイとユリウスのやりとりに、イワンは言葉を失う。
「おいおい、二人とも。仲が良いことは結構だが、イワンが驚いてる。そのあたりにしておけよ」
仲が良い、という言葉に反応したユリウスは、顔を真っ赤にしてアレクセイを見つめ、下を向いてしまった。
「…ったく、おっさん!一言余計なんだよ」



作品名:その先へ・・・2 作家名:chibita