二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

梅嶺小噺 1 の二

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

どの位、時が経ったのか、蒙摯が帰ってくる。
「くそ、なんてバケモノだ!。剣を一振、持っていかれた。」
蒙摯は言葉を吐き捨てる。
相当悔しいようだった。
「蒙摯、、、。医者を連れてきてくれ。、、、、小殊が、、。」
「小殊?、どうしましたか?。」
急いで蒙摯は林殊の様子を見に来る。
衣服の背中に滲む、林殊の血を見て、只事では無いと分かった。
「殿下、むしろ山を降りて、見てもらった方が、、。」
「いや、ダメだ。小殊は頭を打っている。動かせない。」
「ならば、大急ぎで連れてきます!。」
蒙摯は、ばっと踵を返し、斜面を駆け下りて行った。
近くまで馬で来たが、猪に勘づかれてはマズいと、下の山道に置いてきたのだ。
幾らかすると、馬の蹄の音が聞こえ、蹄の音はどんどんと遠ざかっていき、消えてしまった。

どの位抑えていたか、出血はおさまった様だった。
「小殊、痛みは?、頭は?。」
「痛い、、。頭は、、、回ってる、、、。」
「小殊、、傷を診る。血止めをしておこう。この傷以外に痛い所はないか?。」
「、、分かんない、、、ん、無い、、かな。」
靖王がゆっくり上衣を脱がせると、生々しい、裂かれた傷が現れた。
傷は一尺程もあり、その半分は深い。
まだ完全に血が止まった訳ではなく、衣服を剥がしたせいで、また噴き出している部分もある。
「以外と大きいぞ、、。」
靖王は腰の袋の中から、皮の袋を取り出す。
城外に林殊と出かける時、必ず持ち歩いていた。薬袋だった。
皇宮で暮らしていた時、林殊と遠駆けをすると言うと、必ず母親の静嬪から持たされた。
靖王が使う事もあったが、その大半は林殊の治療の為に使われていた。
傷に血止めの粉をかける。傷の大きさに、粉はほとんど無くなった。
そして靖王は、自分の下着を割いて、傷に当て、包帯代わりに巻いてやる。
「血を止めねばならぬから、強く巻くが、苦しかったら言うんだぞ。」
林殊は静かに頷く。
「これを飲んでおけ。」
傷が膿まぬようにと、静嬪が拵えた丸薬だった。
抱き起こして、水と共に、林殊に飲ませてやった。
ようやく靖王も一息つき、林殊の側に座り直した。

「一体、、何がどうなったのだ?、小殊。、、私は、、、私はよく覚えていないのだ。」
「、、、そうか。」
少し考えて、林殊が答えた。
「うー、、ん。、、、実は私もよく覚えていないんだ。」
ふふ、と、二人で笑い合う。
何があったのか、蒙摯が帰ってくれば分かるだろう。
「余り喋らず、休んだ方がいい。小殊は頭も打っている様だから。蒙摯がここに医者を連れて来る。」
「、、、ん。」
逆らわずに、林殊は言われた通りに目を瞑る。
余りに素直で、靖王はふと心配になり、林殊の額に手を当てて、熱が無いか確認をする。大きな怪我をすると、発熱する事があるのだと言う。
右手で前髪をよけて、熱を看るが、熱は無いようだった。
靖王は、ほぅっ、と、安堵した。
「上げるなよ、髪。」
怒ったように、林殊は上げられた前髪を、右手で戻した。
林殊は、格好が悪いからと、額を出すのが嫌なのだ。
「ぷっ、この状態で額を気にするのか?。その元気なら、大丈夫だな。」
眉間に皺は寄ったままだったが、靖王に笑顔が戻った。

大分たった頃、蒙摯が戻ってくる。
麓の医者を連れてきたのだ。
蒙摯は、相当急いで馬を馳せて来たようで、蒙摯の後ろに掴まって乗っていた医者が「酷い目に遭った」と怒っていた。
それ程、蒙摯は急いていたのだろう。
蒙摯ですら息が切れ切れだ。医者が怒るのも無理はない。

医者は、林殊の傷を診る。
「医術の心得がお有りで?。」
医者が靖王に聞く。
「いや、、見よう見まねで、、、。この者の具合はどうだ?。」
「治療が適切です。大丈夫でしょう。しかし頭を打ったのなら、動かさぬ方が良い。一晩、様子を見た方が、、。」
「そうか、、、なら、夜営になるな。」
夜営の準備はしていなかったが、三人とも経験がない訳では無い。
と言うより、それぞれ夜営には慣れていた。
蒙摯は赤焔軍の調練で、林殊と靖王は、度々とんでもない遠駆けをして、帰るのが面倒だと、そのまま帰らず、夜営してしまうのだ。
この面子では初めてであった。

いつも野駆けの時は、夜営になっても困らぬような、最低限の用意はしていたのだ。
蒙摯には、医者を送り届けるついでに、林殊の治療に必要な物を頼む


バケモノ猪は、蒙摯が仕留めるつもりで追って行ったが、振り切られたと、、、もうこのネグラには戻らぬだろう、と蒙摯が言った。
靖王と林殊も、そんな気がしていた。
猪の体には、蒙摯の剣が、刺さったままだという。
平然と駆け去ったというが、痛い思いはしただろう。
痛い場所には戻るまい。

靖王が、馬を取りに行き、念のためにと持ってきた外套が役に立つ。
外套は林殊に掛けられる。湿気が体に障るだろうと、林殊の物は林殊の体の下に敷かれた。

林殊は初秋の暖かな日差しに、ウトウトとまどろんでいた。

目が覚めた時には、目の前に火が焚かれていた。
そして、蒙摯がここに戻る途中に捕まえた、鳥が焼かれていた。丸々、太った雉鳥だった。林殊は、その匂いで目が覚めたのだ。
どの位眠ってしまったのか、夕暮れに近かった。もっとも秋の陽は短いのだが、、。
「起きたか?。気分はどうだ?。まだ目眩はするか?。」
矢継ぎ早に靖王が尋ねる。
「おぉー!、鳥!!!、美味そう!!!、早く食おう!。」
「小殊の頭は、大丈夫なようですね。」
蒙摯が笑っている。
林殊は、がばっと起きて、焼いている鳥に手が伸びる。
「待て小殊、その前に傷の治療をする。」
「腹が減った〜〜〜。」
不満を言いつつ、傷が膿むのも恐ろしい。素直に靖王の言うことを聞く。
以前林殊は、少々の傷の痛みを我慢して、放っておいて、傷が膿んで酷い目に遭った事もあるのだ。
それは懲り懲りだった。
「景琰、もう、大丈夫だろう?。」
林殊は座ったまま、靖王に背中を向け、衣服を解き傷を見せる。
包帯代わりにした、布を取り、傷を診た。
血はほとんど止まっていたが、深い傷だっただけに、やはり腫れていた。
傷の付近に触れると、熱も持っている。
「痛くはないか?。」
「んー、、、思ったよりは。」
「強いな、小殊は。」
景琰は笑っている。
「時間が経ってしまって、上手く効くか分からぬが、蒙摯が医者から、強い酒を傷口にかけると腫れにくいと聞いて、買ってきている。せっかくだし、、。綺麗な包帯もある。取り替えよう。」
「え、、酒??。嫌だ。」
「した事があるのか??。」
「、、、、、、、。」
靖王の問いに、口をつぐんだまま、答えなかった。
「した事があるようだな。ならば話は早い。しておいた方が良い。」
「嫌だよ、痛いんだよ、すごく。絶対嫌だ。」
「なんだ、小殊。猪には向かって行く勇気があるのに、こんな事くらいで、怖気るのか?。」
蒙摯が笑いながら言う。
「なら、蒙哥哥はあるの??。」
「あるさ〜〜、私は平気だったぞ。酒治療に、こんな意味があるのは知らなかったがな。」
「うっ、、、、。」
林殊は何も言えなくなってしまった。
「ほら、な、蒙哥哥がこうして手を握っていてやる。覚悟を決めろ。叫んでも良いぞ、『痛い』って。私が受け止めてやるからな。」
作品名:梅嶺小噺 1 の二 作家名:古槍ノ標