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梅嶺小噺 1 の二

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林殊の両手を優しく握って、満面の笑みで、蒙摯が言うのだ。
これ以上駄々を捏ねたら、子供扱いされると思い、林殊は観念した。
「良いか?、小殊、痛くないように、ちょっとずつかけるぞ。」
「え、、いいよ、思いっきりいって。じわじわ痛いのヤダ。」
遠慮なく景琰が傷口に、瓶の中の酒をかける。
林殊の体が痛みに、背中を丸めて固くなる。
「、、、っあああああああ!!!、。」
叫んだのは蒙摯だった。
「小殊──っ!、手っ、、手ぇぇ、、。」
体の割に怪力の怪童林殊から、蒙摯は思いっきり手を握られたのだ。そして蒙摯の絶叫も耳に入らぬのか、いつまでも手を握ったまま離さない。
「小──殊──っ、、、。」
蒙摯は必死で林殊の手から、自分の手を抜き取った。
「蒙哥哥、、、、。」
顔を上げた林殊の目が潤んでいて、涙が溢れそうなのだ。
林殊はこんなに我慢して耐えていたのかと、蒙摯は自分の痛みが、一瞬で何処かに行ってしまったのだった。
「、、、、そりゃな、、小殊が痛いのに比べたら、私の手なんかどうってことないさ、、、、、。が、、頑張ったな、、小殊、、。」
だが、痛みが飛んだと思ったのは、蒙摯の気のせいで、重い扉にでも挟まれたが如く、指がひりつき、感覚が戻らない。暫く、掌を握ったり開いたりして、必死に戻そうとしていた。
靖王が顔を背けて、笑いを堪えていた。

靖王は林殊の治療を続け、血止めの薬剤をかけ、しっかりと林殊の体を包帯で包んだ。
夕陽のせいか、林殊の顔色も随分と良くなったように見える。
痛みが直後よりも引いて来たのだろう。
林殊の食欲が、回復している証だった。
さすがの林殊でも、そんなには食べられないと、靖王も蒙摯も思っていたが、とんでもない。靖王や蒙摯の分も取られそうな勢いだったのだ。
明日、林殊を金陵まで連れて帰れるだろうか、と、二人心配していたのだが、この調子ならば、問題は無さそうだと安堵ししていた。

「あ〜〜、食った食った。」
蒙摯は安心したのか、大きく伸びをして、欠伸をする。
「殿下、お先に失礼します。」
そう言うと、蒙摯は靖王に拱手をして、横になってしまった。
まさか、本当に寝たりはするまいと、靖王も林殊も思っていたが、あっという間に、蒙摯は寝息をかいていた。
蒙摯は今日、誰より動いていた。
猪との捕物も、二人は見ていないが、蒙摯の自慢の剣を持っていかれるほどの、激闘だったのかも知れない。そして麓の村まで二往復。疲れていて当然だろう。

「私が火を見ている。小殊も休むといい。」
靖王が言った。
山の夜は冷え込むから、と、自分の外套を使って欲しい、と、蒙摯の外套は靖王の側に置いてあった。
靖王は蒙摯の外套を持って立ち上がり、広げて蒙摯の体に掛けてやった。
「大活躍だったからな、、。さすがの蒙摯も疲労困憊だろう。」
「うん。そうだな。」
「蒙摯がいなければ、私も小殊も、死んでいたかも知れない、、。」
「そうなの??!!。」
「ああ、そうだ、、。」
林殊が寝ている間、雉鳥を焼きながら、靖王は蒙摯から、事のあらましを聞いていたのだ。

あの時、魅入られた様に靖王は、大猪が自分に向かっているのに、妖術にかけられたかのように、身動きひとつ出来なかったのだ。
そこまでは靖王も覚えていた。
林殊は危険を顧みず、横っ飛びに飛んで、猪が目前に迫っている靖王を突き飛ばしたのだという。
林殊は靖王の命を救ったのだ。
靖王が動けないとは思わず、幾らか判断が遅れたからか、林殊は猪を避けることが出来ず、大猪にそのまま突っ込まれて、林殊は猪に跳ね飛ばされた。
林殊の負傷は、猪の牙が背中を引き裂いたからだろう。
林殊の体は、地に叩き付けられた。
並の者なら、命を落とす程の重症だったかも知れぬが、何故か蒙摯は林殊ならば大丈夫だ、という確信めいたものがあった。
林殊の状態よりも、大猪を仕留めることに神経を集中した。
猪をそのままにしておいたら、また、靖王や林殊に向かってくるかも知れないと思ったのだ。
結果、仕留める事は出来なかったが、猪に相当な痛手を負わせたという、手応えがあったのだ。しかし、猪は、悠々と去ってゆき、蒙摯は自分の非力さに落胆していた。
そして、自分もまた疲れを感じて、このまま更に追っても、猪の反撃をかわし切れぬと、靖王と林殊の元に戻ったのだ。
戻れば林殊も靖王も、青ざめていた。疲れてはいたが、可愛い弟分の為ならば、疲れも吹き飛び、麓の村に医者を探しに行けたのだ。

「蒙哥哥、、あんな馬鹿デカイ猪を追っ払えるし、、凄いな、、強いな、、流石だな、、、。」
普段はどこか抜けた所があるが、武術は抜きに出ていたのた。
林燮が、林殊達に蒙摯を付けたのも、蒙摯の腕を見込んでだった。
「小殊、、ありがとう、、。」
「あ?、何が??。」
「私を、助けてくれた。」
「、、、良く覚えてないんだよな、、、、危ないとは思った気がするんだけど、、。」
「怪我まで負わせた、、、。すまない。」
「わはは、その辺は全然覚えてないや。」
靖王が危ない、と、何も考えずに、林殊の体が勝手に動いたのだ。
ほんの一瞬の事だったのだ。自分の身が危ないなど、二の次だった。
靖王が無事で、何より良かったと、心から思っている。
「ん?、私は景琰を救ったのだよな。怪我までして。」
「そうだ、感謝している。私は小殊にも蒙摯にも、こうして謝意を述べる事しか出来ぬのが、申し訳ないのだが、、。」
「ん?、、、、んふふふふ、、、。」
林殊が何か企む顔をしている。
「小殊?何を考えてるんだ?、、また、、悪い事でも、、、。」
「何も何も、、、別に別に、、、気にするな、、んふふふ、。」
こんな顔をする林殊は、また、ろくでもない事を思いついたに違いない、、靖王はそう確信する。

「あいつはちゃんと、やっつけないとな!。まさか、あんなデカイ奴だとは思わなかった。景琰もやるだろ?。」
「ああ、もちろんだ。良く作戦を練り直さないとな。」
「だけど、蒙哥哥の剣が刺さってるんだ。弱ってひっそり死んだりしてないかな??。」
「そうだな、だが、生きていてまた悪さをするのなら、退治せねば。大猪を探す所から始めないとな。きっとねぐらを変えるだろう。
あれだけの大猪だ、探さなくても悪さをしたら、聞こえてくるだろう。」
「そりゃ、そうだな。、、でも、蒙哥哥、どうやってアイツに剣を刺したんだろう。聞きたいなぁ、、どうやったのかなぁ、、起きたら聞かなきゃ、、。」

「もう、休んだ方が良い」という、靖王の言葉も、林殊の耳には入らない。林殊はずっと眠っていたのだ、中々眠気はこなかった。
ずっとその後は、他愛ない話しをしていたが、いつの間にか、靖王が木にもたれたまま、眠ってしまって、林殊の言葉に応じなくなっていた。
靖王も今日は疲れたのだ。
「ちぇ、、。」
もう起きないと分かると、林殊も諦めて眠ることにしたようだった。
林殊は眠れなくなる質では無い。
たちまち、林殊の呼吸は規則的になり、眠りに落ちていった。

二人が眠ると、横になっていた蒙摯がむくりと起き出した。
火が消えかけていた。
枯葉と小枝を焼べるてやると、たちまち炎が立ち上がる。
そして太めの枝を足してやると、また焚き火が生き返る。
作品名:梅嶺小噺 1 の二 作家名:古槍ノ標