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BYAKUYA-the Withered Lilac-

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 大きめの弁当をすぐに平らげたがもの足りず、四つほど買ってきたパンも食べるもののやはり今一つ満たされず、スナック菓子にも手を出した。
 大食い、早食いの大会にでも出たら、他を圧倒するであろう食事量であった。
 二リットルのジュースも飲み干したところで、買ってきた食料は全て無くなってしまった。
「ふう……全部食べちゃった。でもなんでだろう? 昔の僕ならとても食べきれないくらい食べたのに。まだ半分ぐらいな感じだ。まさか。この能力のせいなのか?」
 ビャクヤは、捕食者(プレデター)の名を持つ能力を得ている。もしも字の通りの能力ならば、食欲がものすごいことになっていても不思議はない。
 しかし、だとすれば厄介だともビャクヤは思う。
 毎日これだけの食事をしていれば、当然食費はかさむ。自炊したところで大差はないだろうし、そもそも作るのが面倒であった。
「まったく……お前のせいで僕はいつも腹ペコじゃないか。どうしてくれるんだよ」
 ビャクヤは、背中に顕現する鉤爪に口を尖らせる。しかし、いくら鉤爪に文句を言ったところで事態は変わらないものだと思い、仕方なくビャクヤは立ち上がる。
「もう一回買い物してこようか……」
 ビャクヤは、満たされない腹を満たすべくもう一度食料を買いに出掛けた。
 同じ店に行くのは気が引けたため、ビャクヤは街に近い、二十四時間営業のスーパーマーケットに行くことにした。コンビニよりも遠いが、品数が多い上、安上がりで済むからだ。
 そのスーパーマーケットは、姉さんともよく通っていた所でもあった。川沿いの広場を歩いて十分ほどの場所に位置している。
 川沿いの広場はまた、ビャクヤらにとっては通学路でもあった。
 毎日姉さんと一緒に登校し、帰りは川に面したベンチで待ち合わせをしあったものだった。
 事故があった日も、ビャクヤは、静かな川のせせらぎを聞きながら姉さんの帰りを待っていた。あの時は、その日で姉さんとの今生の別れをすることになろうとは夢にも思わなかったが。
 あの日以来、ここを通る度にビャクヤは後悔の念に駈られてしまっていたため、できるだけこの広場には近寄らないようにしていたが、今はもうなんともない。
 あの日の姉さんを忘れてしまったわけではないが、やはり昨日の出来事以来、心に余裕がある。
――……まったく。お前には感謝すればいいのか。文句を言うべきなのか。分からないや。姉さんへの後悔を忘れさせる代わりにこの腹ペコを与えているのかい? もどかしいったらない……――
 背後に浮かぶ鉤爪に一瞥をくれながら歩いていると、ビャクヤは顔に不意の衝撃を受けた。
「あいたっ! ……ったく。虫かな? この辺藪はあるし。街灯も明るいから蛾が飛んでるんだよな。まったく。都市開発する前に誘蛾灯でも設置しろって話……」
 ビャクヤは、ぶつぶつ文句を言っていると、妙な違和感を感じた。
 時間を考えれば、人通りが少ないのは当たり前だが、街に近い以上、人はそれなりに歩いているはずである。
 それがどういうわけか、人の気配がまるで感じられない。更に気が付くと、さっきまで遠くに聞こえていた街の喧騒が全く聞こえなくなっていた。
 まるで人間の存在しない、異世界に来てしまったかのようだった。
 違和感はそれだけに止まらなかった。
 人の気配は全くしない代わりに、『なにか』の気配は辺り一面に広がっていた。
「これは……どういうことなんだろうね? さっきとはまるで違う。辺りが旨そうな匂いでいっぱいだ」
 じゅるっ、と思わずビャクヤは涎をこぼしかけてしまった。それほどまでに、辺りはビャクヤ食欲を誘う匂いに包まれていた。
 ビャクヤは、食欲という本能が赴くままに、背中に四対八本の鉤爪を顕現させた。
「そこの藪にいるね。旨そうだ。出てきなよ!」
 藪にいる『なにか』は、ガサガサと草を揺らし、ビャクヤめがけて飛び出してきた。
 それはこの世のものとはかけ離れた異形のものだった。真っ黒な球体に、口だけがあり、長い舌を伸ばしてビャクヤに襲いかかる。
「よっ!」
 ビャクヤはものともせず、鉤爪を一本突き出して、異形のものを刺し貫いた。
 ギイイ、という耳障りな断末魔の叫びのような声を発するも、異形のものはすぐに動かなくなった。いや、動けなくなった。
 ビャクヤは、鉤爪を突き刺すのと同時に、例の糸を出して異形のものを縛り付けていた。
「……いっただきまーす!」
 ビャクヤは、鉤爪に刺さった異形のものを、鉤爪ごと口元に引き寄せた。すると異形のものは、跡形もなく霧散した。
「これは旨い……!」
 直に肉を噛んでいるわけではないが、ビャクヤの舌には旨味が広がっていた。それも、これまでに味わったことのない、この世に存在するどのような美味よりも凄まじい旨味である。
 お代わりを要求するまでもなく、異形のものは次々とビャクヤに向かってくる。その度に鉤爪で仕留め、糸を絡めて口元へ運ぶ。
「一匹一匹仕留めるのも面倒になってきたな……。そうだ。コイツを使えば……」
 ビャクヤは、手の中で糸をこね回し、それを空中に放った。
「この辺に仕込んでおこうかな?」
 糸は放射状に広がる、まさに蜘蛛の巣になって空間へとどまった。
 ピアノ線のように細く、鋭い糸は、闇夜の中では視認が難しく、時おり街灯の光を僅かに反射してギラリと輝いている。
 もとより眼の無い異形のものは、ビャクヤの張った罠に気が着くはずもなく、次々と罠に嵌まっていった。
「引っ掛かったね!」
 鋭い糸は、獲物たる異形のものを受け止めると、絶対に逃がすことはなかった。いくら逃れようとしても、ピアノ線のような強度を誇る糸は、獲物の体をズタズタにする。
 ビャクヤはまさしく蜘蛛のように、巣網にかかった獲物に素早く迫り、巣網そのもので、獲物を包み込み、そして喰らった。
「……あーあ。まだ食べ足りないけど。小物には飽きてきたなぁ……」
 先に張った罠で、小物の気配はほとんどしなくなっていた。
「ここらの雑魚は喰い尽くしてしまったのかな? 場所を変えなきゃダメかなぁ……」
 ビャクヤは、しぶしぶ移動しようかと思ったが、不意に足を止めた。
――これは。この気配。この旨そうな匂い。さっきの雑魚どもとは大違いだ……――
 ビャクヤは、気配と匂いのする方向を向く。
 大型犬のような姿をした異形の存在が、ビャクヤに向かって牙を剥き、低い唸り声を上げていた。
 ビャクヤはそれを見て歓喜する。
「あははは……! こいつは物凄く旨そうだ。メインディッシュに相応しいよ!」
 ビャクヤが、最高の食材が出現して喜んでいるところに、野犬のような影はビャクヤに飛びかかってきた。
「ダメだねぇ。食材がそんなに暴れちゃあね」
 ビャクヤは、伸縮自在の鉤爪を前に出し、自らの体を包むように、鉤爪を盾にして攻撃を防いだ。
「この辺に……」
 ビャクヤは、網状にした糸を影に向かって放った。
 どれほど相手が大きくとも、蜘蛛の巣のような糸はどこまでも伸びて相手を包み込み、一切の身動きを奪った。
「あーあ。掛かっちゃった」
 影は必死に網から逃れようと暴れるが、力を入れれば入れるほどに糸は食い込み、影の体を切り裂いていった。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac- 作家名:綾田宗