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MIDNIGHT ――闇黒にもがく1

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 一年のタイムラグ。そして、この世界には、衛宮士郎が存在している。十一年前に聖杯戦争に参加しなかった、衛宮士郎が……。
(何かしらの歪みが生じているのか……?)
 この世界には衛宮士郎がいる。
 では、自分はなんなのか?
(俺だって衛宮士郎だ)
 何をどう訊かれてもそう答えるしかない。それに、
「人類悪……?」
 自身の手を見つめ、裏表と返してみる。
「俺、何したんだ?」
 身に覚えのない罪を着せられている気がして憤る。
 だが、これが過去を変えた結果だというのなら、士郎は受け入れなければならない。何しろ、あんな未来は要らないと、大口を叩いたのだから。
「それに、アイツに顔向けできないじゃないか……」
 瞼を下ろせば、立ち尽くす英霊との別れを思い出す。
 ひたすら謝ることしかできなかった。その上、何を考えていたのか、義眼を渡し、追ってこいなどと言い……。
「渡すんなら、ペンダントの方だろう……」
 自分に呆れて、笑いがこみ上げる。凛と桜とともに籠めた記憶。あの時渡せなかったのは、こんなことをしても無駄だと思ってしまったからだ。
「ごめんな、アーチャー……」
 頭を抱えれば、手枷がジャラと音を立てる。
「こんなのなくても、何も、できないんだけどな……」
 自分が相当危険な奴だと思われているようだ、と士郎は苦笑いを浮かべた。
(世界は、変わった……)
 士郎は、眼下の街をぼんやりと見下ろして思う。
 そうして顔を上げ、ガラス越しの青い空を眺める。
 おそらくもう、こういうふうにしか見られない空は、青く澄んで、白い雲はもくもくと湧き出て、陽光に輝いている。
(あんな未来は、要らないもんな……)
 ガスに覆われた曇天のような空、廃墟と化した街、荒野と変わらぬ生まれ育った町。
 たとえ今、こんなふうに自由がなくても、あんな世界でなくなったのならそれでいいと士郎は思う。
「エミヤシロウ」
 呼ばれて振り向く。
(たとえ、友人が……、赤の他人になっていても……)
 胸がちくちくと痛む。
(たとえ俺を……、罪人だと思っていても……)
 食いしばった奥歯が、ぎり、と小さな音を立てた。
「仕事を任せたいのだが、いいか?」
「え……?」
 思いもかけない言葉に、士郎はすぐに返事ができない。
「向かいがてら、話そう。頼んだものの、君に断る術はないからな……」
 来い、と示唆したワグナーに、士郎は枷を引きずりながらついていく。
 エレベーターにはワグナーと常に士郎に張り付いている警備の者が二名、そして士郎。計四名が乗り込み、階下へと下りていく。
「今、地下で、問題が起こっている」
 ワグナーは静かに話しはじめる。士郎は口を挟まずに聞いていた。
 一階でエレベーターを乗り換えて、地下三階まで下り、また乗り換えて地下五階にまで下りた。
 そこは、士郎が卵型のポッドから出てきたフロアで、士郎が夜になると戻る牢獄よりも三つ下層になる。士郎の記憶では、ポッドはこのフロアの一番大きな部屋にあったが、今、ドアの開け放たれたままのその部屋の前を通っても、ポッドらしきものは見当たらなかった。
 廊下の突き当たりまで来て、鉄の扉を開けた警備の者が先導する。扉を抜けると、ゴツゴツとした岩肌に覆われたトンネルになっていた。
 そこから下へ下りるエレベーターはなく、階段はコンクリートなどで造られたものではなく、岩や土を削って細工しただけのものだ。
 じゃらじゃらと、枷の鎖がデコボコした地面に引っ掛かり、歩き難さに士郎が眉根を寄せると、気づいたワグナーが足枷を外してやれと命じた。
「支部長?」
「構わない。責任は僕が担うよ」
 静かだが、有無を言わせない迫力がその声にはあった。おとなしく従った警備の者は、士郎の足枷を取り去る。
「ありがとな」
「……いや、時間がかかるのは、こちらとしても本意ではない。それだけだ」
 ワグナーは、素っ気なかった。かつての友人が、もう知り合いでもないことに、士郎は少なからずショックを受けていた。
「そうだな……」
 士郎は頷く。
 どんな未来でも受け入れると息巻いていた気持ちが、グラついてしまいそうになる。
「っ……」
 どうしても落ちてしまう視線を、必死に上げようと努力した。



 所々に設置されたLEDライトを頼りに、トンネルを抜け、足場の悪い階段を下りていくと、不意に視界が開ける。
「ぇ……」
 小さく驚きの声を上げる士郎を気にも留めず、ワグナーは階段を下りていく。
 最下層は空洞になっていた。
 ぽっかりと何もない空間が眼下に広がっている。このまま岩壁に添うように削られた階段を下りていけば底に着くが、ここからゆうに三十メートル以上はある。
 真円ではないが、ほぼ丸くなって広がる半球の空洞は、直径にして百メートルはあると思われる。
 地上五十階近くの高層ビルの下が空洞だなんて大丈夫なのか、と士郎は思わず耐震性の心配をしてしまった。
「あれだ」
 ワグナーの指し示す指先を追って、士郎はその空洞の底の中心あたりを見遣る。
 ポツポツとライトが地に転がっている。その不確かな明かりが照らすもののシルエットは、どう見ても人の形をしている。
「……人?」
「ああ、おそらく、予言にあった者、だ」
「予言?」
「2015年に必ず現れると予言した、……エミヤシロウ」
「え?」
 驚きのままワグナーを振り向く。
「予言されたのが君なのか、アレなのか、どちらかはわからない。ただ、あれは、殺戮の権化だ。倒さなければならない」
「殺戮の……権化……」
「多くの文献に残っている。黒い身体に赤を纏い、悪鬼の如く人を殺し尽くす、と……」
「黒い……身体…………赤を……」
 赤と黒で、士郎の脳裡に浮かぶのは、たった一人。
 再び、空洞の底へ目を向ける。暗くてよくは見えないが、何らかの魔術で押さえつけられているようで、ソレは片膝を地面についていた。
「ここを上がって外に出ようとしたので、とにかく押し戻し、緊縛した。……が、いくらももたないだろう。戒めの魔術はもう切れそうだ。あそこにいる三人が最後の砦となっている」
 ワグナーが、示した魔術師は、暗がりの中、必死に呪文を唱えているようだ。だが、時折声が掠れ、ふらついているのが見て取れる。
「あの詠唱、どのくらい続けているんだ?」
「半日ほどだ。はじめは倍の数がいたのだが、途中で倒れてしまった」
 難しい表情でだが、ワグナーは正直に答えてくれた。
(…………なんで……こんな……)
 理由などわからない。ただ、士郎にはやらなければならない、という想いだけが湧き上がる。
「ワグナー、受信機、あるか?」
「な、じゅ、受信……? ま、魔力の、か?」
 名を呼ばれたことに驚きながら、ワグナーは訊き返した。
「そうだ。俺の受信機は没収しただろ? 代わりの物でいい。貸してくれ」
「…………」
 ワグナーは、返事をためらった。
 “それを渡せば、こちらに牙を剥くかもしれない”
 警備の者もワグナーも、その考えが拭いきれない。
「アイツを止めるんだろう? 今は術で動きを止めてるけど、あといくらももたなさそうだ。準備をさせてくれ」
 突然饒舌になった士郎にワグナーは戸惑いを隠せない。