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MIDNIGHT ――闇黒にもがく1

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「それは……、君が使っていたものに比べると……」
「ハイスペック、だろ? なんとなくわかるよ」
 ワグナーの言葉を待たずに答える。ドアノブに手をかけた士郎を追ってきたワグナーは、少し手前で立ち尽くしていた。
「…………そうだ。君の身体に負担が大きく圧し掛かる。血製弾(ブラッドボム)は、よくて二回。くれぐれも無駄撃ちはするな」
「リミットは何発だ?」
「そんなことを聞いてどうする」
「自分の限界を知らなければ、戦えないからな」
「二……、いや、三発だろう。だが、そんなことをすれば、」
「わかった」
「おい! 聞いていたのか? 限度を超えれば――」
「ワグナー」
 静かに呼ばれ、ワグナーは身体を硬直させた。なぜか、彼にそう呼ばれることは、馴染んだ感覚だった。
「行ってくるよ」
 片手を上げて岩壁のトンネルへと出ていく背中に、ワグナーは何を言えばいいかわからない。唇が動こうとするが、何も言葉が浮かばない。
「…………生きて……………………、生きて戻れ!」
 どうしてか、そんな言葉が口をついて出ていった。
 ハッとして振り返った士郎の顔は、驚きから一変、困ったような笑顔へと……。
「衛宮…………」
 なぜ、そんなふうに呼んだのかワグナーにはわからない。
 ただ、口が勝手に動いた、それだけだった。



 ゴツゴツとした岩肌のトンネルを抜ければ、ぽっかりと開いた空洞が見えてくる。
「ぅわ……」
 思わず声に出てしまった。
 見ているだけでもぞっとするような感覚を覚える。
 遠目であっても、その怨嗟が皮膚に届いてくる気がして、士郎は身震いした。
「なんだってあんな姿に……」
 思わず呟いてしまう。
「俺が、戻った後に、いったい何があったんだ……」
 士郎には知る由もない、十年、この世界にとっては十一年前の聖杯戦争の後、あの時空でいったい何が起こっていたのか、など。
「まさか、聖杯の欠片が……?」
 アーチャーの固有結界に聖杯の欠片が残ってしまい、影響を与えたとも考えられる。
「とにかく、訊いてみないことには、わからないな」
 話ができるかどうかは、ここからではわからないが、何があったかくらいは訊いてみてもいいだろう。
 一つ深呼吸をして、士郎は岩壁に沿った階段を駆け下りた。



◇◆◇Fifth Solicitude◇◆◇

 聖杯を破壊し、帰宅してから朝食の途中で眠ってしまった青年は、昼前に目覚め、遅い朝食を済ませた。
 その後、入浴し、別棟の洋室で再び寝ると家主の士郎に伝え、夕刻まで睡眠を取ったが、衛宮邸に来客がいる頃に目覚め、部屋を清掃して身支度を整えた。
 もう、ここにいることはできない。……が、やることがまだある。
 夕食はどうするのかと、呼びに来た士郎に答えることもせず、深夜まで部屋に籠って士郎が寝静まるのを待った。
「セイバー、頼みがあるんだ」
「……何を改まっているのですか? マスター」
 真夜中に彼女が瞑想する衛宮邸の道場に来て、青年は静かに話す。
 セイバーは、衛宮邸にいる間は、食事のとき以外を道場で過ごしている。屋敷には部屋が余るほどあるのだから一部屋くらい用意できる、と言った青年と士郎に、彼女は頑なに固辞した、ここが落ち着くのです、と。
「うん……、ちょっと……、個人的なことだからさ……」
 青年は視線を落としたまま、セイバーの正面に胡坐で腰を下ろした。
「細かい説明は省く。ここにいる衛宮士郎を守ってくれないか?」
「マスター、話が全く読めません……」
 目を据わらせるセイバーが首を傾げるのは仕方のない話だ。
 聖杯を破壊し、聖杯戦争自体がなくなった。ということは、魔術師とサーヴァント同士が殺し合うこともないはずだ。だというのに、青年はここにいる少年の衛宮士郎を守ってくれという。
「話せないことがあるのだとは思いますが、もう少し詳しく教えてください」
 セイバーは、根掘り葉掘り訊くつもりはないと先に断っておく。
「……うん、そうだな、わかった」
 青年は気乗りしない様子だったが、ぽつりぽつりと話しはじめた。
 あと一両日中には自身が未来に戻ること、そして、セイバーとの契約が切れること。
 それ自体は初めからわかっていたことだ。改めて説明されなくとも、セイバーには理解できている。そのことについて異論はなく、セイバーも青年との契約が切れればおとなしく座に戻るつもりでいた。
「この時空の衛宮士郎と再度契約してほしい」
 セイバーは、瞠目したまま言葉を失っている。
「勝手ばっかで、悪い。……その上で、セイバーが、座に戻ったって、油断させてくれ」
「油断させる? 誰をです?」
「アーチャーを、だ」
「マ、マスター?」
 共闘したアーチャーを騙し討ちでもするのかと、セイバーはさらなる驚きを隠せない。
「アイツの目的は、衛宮士郎を殺すことだ」
「それは……っ、本当のことなのですか? ともに、聖杯を破壊した彼が、本当に?」
「わからない。けど、アイツの宿願はそれに尽きる。ただ衛宮士郎を亡き者に、って概念にとり憑かれてるみたいに……」
「そんな……、馬鹿な……ことが……」
「仕方がないんだ、アイツには、それだけの理由がある」
「ですが、マスター、彼は、貴方と同じ、シロウの未来の姿……」
「ん……。いろいろ、あるんだって……」
 小さな笑みをこぼし、いろいろある、で済ませてしまう青年に、セイバーは、ぐ、と拳を握りしめる。
「なぜ……、ですか……」
「セイバー?」
「なぜ、貴方は、そうやっていつも、自身の想いを何もかも押し潰して、何もかもわかったふうで…………。実際、わかっているのかもしれません。確かに貴方が辿った過去なのですから、知っているのでしょう、ですが、」
「セイバー、もう、あんまり時間がないんだ」
 セイバーに言いたいことをみなまで言わせず、青年は立ち上がる。
「今から契約を変えてくる。無理を言ってごめんな」
「マス……」
 振り切るように背を向けた青年に、セイバーは呼ぼうとした口を閉ざす。
 その背にかけたい言葉が、どれもこれも、自身の不満であるために、セイバーは声に出すことができなかった。


 自室で眠る士郎は、穏やかな寝息を立てている。
「世話になったな……」
 青年が手にしているのは、キャスターの宝具。再び勝手を働くことを心で謝りながら、士郎の手首を掴み、自身の胸に短剣を突き立てて、契約の変更を果たした。
「マスター……」
 開け放った障子の側に、セイバーが立っている。
 士郎に布団をかけ直し、青年はセイバーを促して、士郎の部屋を離れた。
「情けないけど、あいつの魔力は少ないから、もって半月だと思う」
「そうですね……」
 士郎の部屋から離れた縁側で、青年はセイバーと並んで夜空を見上げる。
「この先のことは、俺にも予測がつかない」
 そう断っておいて、青年は今後起こりうるだろう事態を説明する。それは、淡々と事務的でセイバーは、聞いているのも辛くなった。