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MIDNIGHT ――闇黒にもがく2

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 ぎり、と噛みしめた奥歯が軋んだ。
「……おかしな方に、さらにひん曲がって、ねじくれやがって! てめえがエミヤシロウだと思うと虫酸が走るわ! ほんっと、どうしようもねえ屁理屈に行き着きやがって!」
 だんだんと腹が立ってきた士郎は、思わず怒鳴っていた。
 手前勝手にもほどがある。自身の運命を、こんな私憤のために使うなんて馬鹿馬鹿しい。
「バカだな、お前。大バカだっ!」
「フン」
 鼻で笑ったアーチャーが詠唱し、数十の剣が中空に現れた。その切っ先は、すべて士郎に向けられている。
「くそっ!」
 毒づきながら距離を取る。
 過去、聖杯戦争で士郎が対峙したアーチャーは、魔力切れ寸前だった。
 だが、今のアーチャーは、魔力満タンの、万全の状態。
(不利は、承知の上だ!)
 過去においてもそうだった。やっと投影ができるようになっただけの自分がアーチャーに敵うはずもなかった。
 だが、あの時は勝てた。
 技量では到底追いついていない士郎がアーチャーに勝利したのは奇跡と言ってもいい。その勝因は、あの時のアーチャーに、ほんの僅かだが、迷いがあったことと、自身にはセイバーの鞘があったことだ。
 だが、今はどうか?
(アーチャーに迷いはない、俺にセイバーの鞘はなく、あの時ほどの力があるかも疑問だ……)
 士郎は唇を引き結ぶ。
 あの時は、がむしゃらで自分自身が間違っていないことを証明するために必死だった。
 今、士郎には自身が何よりも正しいと胸を張れるものがない。未来を変えるために、と聖杯を破壊した時の頑なさもあるとは言えない。
(だけど、退くわけにはいかない。コイツとは、俺が向き合わないとダメだ!)
 迷いのない剣がアーチャーの剣に止められる。
 まるで相手にならないことを証明されているようで、士郎は手応えのなさに、やはり、焦りを覚えた。
「こんなものか、衛宮士郎?」
 うすら寒い笑みは、初めて見る。
 壊れているのだと、ようやく認める。
 あの聖杯と同じく、黒く、禍々しく、そして、自身の望みを叶えることに貪欲な……。
「まさか、聖杯の欠片が……?」
「セイバーが完全に破壊しただろう。そんなもの、あるわけがない」
「じゃあ、どうしてお前は、」
「知っているのだろう? 衛宮士郎。貴様は私がこうなると、わかっていたのだろう?」
 にやり、と上がる口角のわりに、額当ての奥の目は全く笑っていない。
「あの時、……お前が気づく機会を……、俺が、奪ったから……?」
 吊り上がっていたアーチャーの口角が下がり、ひく、と引き攣った。
「自惚れもたいがいにしろ!」
「ぁぐ!」
 まともに腹を蹴られ、壁面まで飛ばされる。しこたま背中を打ち付け、後頭部を打ち、目が眩んだ。
「ぁ……、う……っ……」
 じゃり、と足音がすぐ側で聞こえ、すぐに動かなければ、と地に手をついたと同時、肩の痛みに全身を焼かれる。
「ぅぐ、っ、あぁっ!」
 ずぶり、とアーチャーの持つ剣の切っ先が肩に埋まった。
「っ……、っ……」
 歯を食いしばり、ひく、ひく、と痙攣する喉に無理やり空気を通し、痛みに失いそうな意識を必死に繋ぎ止める。
「フン、情けない。この程度で、大声を上げるとは」
「……あいにく、俺は……、普通の……人間、なんでね……」
 言いながら、アーチャーの脇腹に短剣を突き刺す。
「む」
「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)……」
 閃光がアーチャーを包んだ。
「……くっ、貴様っ!」
「お前の契約は、切れたな……」
 小さな笑みを刻んだ士郎を、アーチャーは冷めた目で見下ろしている。
「だからといって、お前の勝ちではない」
「勝たなくてもいいさ、無尽蔵みたいな魔力補給がなくなればな!」
 言って、剣を薙げば、アーチャーは士郎に突き刺した剣を引き抜き、あっさりと躱した。
「う、ぐ……」
 血が溢れ出ていき、目が霞む。
「小賢しい真似を」
 見上げた途端、喉を掴まれ、ギリギリと締め上げられる。
「ぁ……ぐ……」
 息ができず、はくはくと唇を動かして空気を取り込もうと試みる。が、いっこうに空気は入ってこない。
「ずいぶんと不甲斐ないな」
 ニタリ、と嗤う顔に反吐が出そうだった。
「お……ぉ……ばか、や……ろ……」
「む。貴様に言われる筋はない」
 アーチャーは不機嫌に言い、士郎にバカだと言われることが気に食わなかったのだろう、先ほど剣を突き刺した士郎の肩に噛みついてきた。
「っい、ぐ、あぁぁっ!」
 士郎の叫びが洞穴に響く。ブチブチと耳元でする音と痛みに、手放しそうになる意識を、士郎は必死に繋ぎ止める。
「フン、たいして美味くはないな」
 ぺ、と吐き出した肉片をアーチャーは踏みつけた。
「けだ……も、の……」
「肩以外も喰われたいようだな!」
 アーチャーが士郎の髪を乱暴に掴んだ瞬間、
「爆(フレア)っ!」
 炸裂した魔力にアーチャーは怯む。士郎は血製魔術を滲みそうな意識下で編んでいたのだ。
「ぐ……」
 アーチャーは完全に油断していたようで、まともに血製弾を食らうことになった。
「きさ……ま、」
 距離を取ったアーチャーがこちらを睨んでいる。額当ての半分は吹き飛んで、血に染まった白い髪が現れた。
 無言でアーチャーを睨み、士郎はふらつきながらも立ち上がる。アンダーシャツの袖をちぎって肩に巻き、どうにか血止めを施した。
「そんな死に体で、どうするつもりだ。実力差は変わらないままだぞ」
「……俺の目的は、勝敗じゃ……、ないんでね!」
 呼吸を整えながら言い切る。
「戯言を」
 嗤いながら、アーチャーは宝具を展開すべく詠唱をはじめた。
(固有結界なんて大技、魔力の無駄遣いだ……。いくら単独行動スキルがあるっていっても、魔力の減りは早いはず……。いや、それよりも、今は、聖杯戦争じゃない。アーチャーのクラスに加味された単独行動なんてもの、ないかもしれない。だったら、もっと魔力を使わせれば、数時間もせずに限界だ……。けど……)
 自身も満身創痍。どこまで身体がもつかわからない。
 その上にあの固有結界など展開されては、剣を防ぐだけで体力を消耗してしまう。
「でも、コイツは…………」
 エミヤシロウのなれの果て。
 であれば、尻拭いは己に課せられている。逃げるわけにはいかない。
(この身を懸けて……)
 いや、と士郎は思い直す。
(この、全身全霊を懸けて、コイツの目を、覚まさせてやる!)
 大きく一つ、深呼吸。
「投影(トレース)開始(オン)!」
 両手には鈎のついた対の双剣。
「負けるわけにはいかない! お前にだけはな!」
 アーチャーが片手を振り下ろすとともに、無数の剣が士郎へと矢の如く飛来してくる。こちらが魔力切れを起こす心配はない。何しろ、この地下空洞に満ちる魔力はほとんどを士郎が使用できるのだ。
 正常に魔力の受信機も作動している。
 身体の疲れや傷の痛みも、魔力で補えば麻痺して感覚などわからない。
「ちっ、しぶとい奴だ」
 忌々しげに呟くアーチャーと次第に距離が縮まってきている。
 眉間に寄せられたシワは、焦りの表れか……?
(そんなことは、ないかな……)
 自分を相手にするアーチャーに焦りなど皆無だと士郎は知っている。