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MIDNIGHT ――闇黒にもがく2

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 己の方が優位だと、それだけの自負がアーチャーにはある。魔術師としてはボンクラのエミヤシロウが英霊となるまで戦い続け、努力の上に手にした技量だ。
(たった三十年足らずの俺に、負ける気なんかしない、ってな……)
 少し投げ遣りに思い、士郎は目前に迫ったアーチャーに上段から斬りかかった。
「フン、どこまでもつだろうな、その無謀さは」
「無駄口叩いてる暇、ねえぞ!」
 ボッ!
「ぐっ!」
 至近で炸裂した血製弾に、アーチャーは跳び退いた。頬を伝い落ちる血を拳で拭い、アーチャーは、すぐさま傷を塞ぐ。
「ちっ、たいしたダメージにもならなかったか」
 舌打ちをこぼして、士郎は、ふう、と息をつく。
「貴様……」
「忘れてるわけじゃないよな? さっきのも入れて、お前の目の前で三回は使ったぞ?」
 にやり、と嗤えば、アーチャーが睨みつけてくる。
「ああ、忘れていたさ。たいした威力もない、目くらまし、だったな?」
「おっかしいな……、ハイスペックのはずなのにな……」
 士郎も予想外だ、と宙を見つめる。
「何発喰らおうが、そんなもので私を倒すことはできないぞ」
「……知ってる」
 互いに呼吸を整え、同時に踏み出した。



 血製弾を三発当てたが、たいした傷にはならず、アーチャーは傷を治しながらも攻撃の手は休めない。砕けていく剣を尻目に、次々と投影を繰り返した。
 士郎の左目からは絶えず血が流れ出している。明らかにオーバーワークだ。
 血製魔術は、こんな短時間に連続で使用するようなものではない。通常、日に一、二発が限度なのだ。このハイスペックだという義眼も、もちろん二発。後のことを考えず撃っても限界三発。
 既にリミットだ。次の充填は完了しているものの、制御がきかないのか、左目から血が止まらない。だが、アーチャーは傷だらけと云えど、いまだに立っている。
 この義眼のハイスペックなところは、充填の早さのようだ。
 威力は士郎が以前から使っていたものと変わりがない。今、魔力となる血液が充填され、撃ち出されるのを待つだけの状態だが、もう四発目となる。ワグナーに警告された回数はもう過ぎた。が、チャンスが来れば使わざるを得ない。すでにリミット超えだというリスクの大きさなど、考えている余裕は士郎にない。
「その小規模爆弾、と言えばいいのか、……それは血で補うのだろう? 血を失っては、魔力も減る一方だぞ?」
「わかってる……」
「さっきまでの勢いはどうした?」
「うるさい!」
 皮肉に笑うアーチャーも余裕があるとは言えない。あちらも満身創痍だ。額当ては半分崩れ、装甲も手甲も、所々が裂けている。それでも、鈍色の瞳に宿る復讐の炎は消えていない。
 だが、アーチャーは傷を治すためにも魔力を消費している。魔力量の上では士郎の方が有利だ。
 まだアーチャーにはバレていない、士郎が魔力の受信機を携えて魔力を補給していることを。この地下空洞でやり合うぶんには、無尽蔵に近い魔力の補給ができていることを。
 だが、その過度な魔力の流れに魔術回路が悲鳴を上げている。自身の身体がいくらも持たないことを士郎自身が一番よく知っていた。
 一時間が限度だとワグナーは言ったが、明らかに過度な使用で、士郎の魔術回路はすでに限界を迎えている。
 まだ一時間にはなっていないはずなのに、と士郎は震える指先を誤魔化すように握りしめた。
 地を蹴ったアーチャーが双剣を構える。
「トレース、オン!」
 砕けた剣の柄を捨て、士郎も双剣を構え、アーチャーを迎え撃つ。
 正確に、どのくらいの時間が経過しているのか、もう何合打ち合ったかもわからない。
 腕を上げるのも限界だというのに、魔力でもって自身の腕を振り上げる。
「っはぁ……、っ……はあ……」
 互いに息が上がっていることはわかっていた。
 鈍色の瞳が士郎を映し、琥珀色の隻眼がアーチャーを映す。
(鏡合わせみたいだ……)
 ただ剣を振るうだけの姿が、傍から見ればそんなふうに見えるかもしれない。互いの姿は微妙に違えどエミヤシロウに変わりはないのだから。
(俺……何してるんだっけ……?)
 なんのために剣を振るっているのか、思考がまとまらない。アーチャーも同じような状態なのか、言葉もなく士郎と剣を交えている。
(バカ……じゃないかな、俺たち……)
 斬り合うことの意味すら曖昧になっているというのに、剣を振るうことをやめられない。
 不意に痛みに瞬いた。
「ぁ……っく……」
 脇腹を貫かれて膝をつく。
 見上げたそこに、莫邪をかざすアーチャーがいる。
(ダメだったか……。一度はわかり合えたつもりだった。だけど、あれは、奇跡みたいなものだったか……)
 瞼が下りようとする。
 膝をついてしまうと、一気に身体の疲れが全身を覆う。
(もう…………)
 鈍色の瞳は、相も変わらず憎しみを籠めてこちらを見ている。
 “笑っていたのよ、あいつ……”
 ハッとした。
 凛の語った言葉を思い出した。
 答えは得たと言って、笑って還っていったのだと凛は士郎に教えてくれた。
 それだったらいい、と士郎は心底安心したのだ、それを聞いて……。
 その過去を、士郎は自身で塗り替えた。
 この世界のために、一握りの人間が争うだけの未来などに嫌気がさして、こんなものは要らないと。
 過去を変えてしまえば、未来も変わる。わかりきっていたことだった。
 それを成した自分は、封印指定。
 だが、士郎はそれでもよかったと思う。
 たった一人、自分だけがあの最悪の未来の記憶を持っているのだとしても、過去を変えた悪逆の者だと謗られようとも、終焉へ向かうだけの未来などいらない、と……。
 後悔はなかった。
 だが、今、この目の前の英霊に伝えた言葉も想いも、すべてが霧散してしまったことが、何よりも口惜しい。
「終わりだ、衛宮士郎。ようやく私の宿願も叶う」
 冷たい宣告が下る。
(まだだ……。まだ、終わりにはできない。コイツを、もう一度……!)
 鎖骨を砕いて肺を切り裂き、アーチャーの剣が心臓に届く寸前、柄を握るアーチャーの腕を握りしめる。
「往生際が悪いな」
 口角を吊り上げて笑うアーチャーに、士郎も笑う。
「油断、してるだろ……、今……」
「な……? っ、しまっ、」
「爆(フレア)っ!」
 ボッ!
 増幅した魔力が爆ぜた。



***

「ぅ……」
 ボトボトと血が落ちる。
「くっ、そ……」
「不発、いや、暴発、の、よう、だな」
「大口、たたくな……、お前も、無事じゃ、ない……だろ……」
「貴様ほどでは、ない」
 片膝をついたアーチャーは、口の端を上げて嗤う。
「フン……、口先だけだろ……」
 目の前で座り込んでしまっている士郎は、左目から頬を血に染め、肩で呼吸を繰り返している。
「それは、貴様の方だろう。口の減らな――」
「っぐ、ぅ……っ……」
 俯いた士郎がこぼした呻き声を耳に拾う。
「おい、どうし……」
 びくり、びくり、と士郎の身体が痙攣している。
「なん……、……なんだ……、何が、起こっている?」
 呆けたように訊くと、士郎は笑いともため息ともつかない息を吐いた。
「魔力……が、流れ……過ぎて……」
「魔力が流れ過ぎる? どういうことだ」