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MIDNIGHT ――闇黒にもがく2

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「やかましい。とにかく、貴様がいる世界に召喚された、ということは、あながち私の計画も間違ってはいなかったということだな」
「自慢げに言うことかよ……」
「どうだ、絶頂に殺される気持ちは」
 笑いを含んだ声に、士郎は沈黙した。
「衛宮士郎? なんだ? 反論もできないのか?」
 アーチャーが士郎を振り向けば、小さく笑みを浮かべた士郎は目を伏せた。
「……絶頂どころか、おかげさまで、俺は封印指定だ」
「な……に?」
「エミヤシロウが魔術師の間で何て呼ばれているか知ってるか? “人類悪の象徴”だぞ……。ったく、ハタ迷惑な計画立てやがって……」
「封印……指定……」
「そ。俺に自由はない。明日には処刑かもしれない。お前の宿願は、すぐに叶う。そういうわけで、お前にはもうやることもないし、さっさと座に還れ」
「何を勝手に決めているのだ、たわけ」
「ああ、そうだ、言い忘れてた。お前の歩んだ道は、間違いじゃないからな。よく覚えとけよ」
「は? な……にを、急に、」
「確かにじいさんに言った言葉は俺を縛った。けどな、誰にも泣いてほしくない、誰かのためになりたい、その想いは一概に借り物ともいえない。あの炎の中で壊れていったものはたくさんあったけど、俺もじいさんも願ったんだ、助けたいって。
 お前は理想を突き詰めすぎて、嫌なものばかりを見てきたんだよな。けど、一等最初の想いは、ほんとに純粋なものだったはずだ。
 不器用に理想を追って英霊になったっていいじゃないか。理想の果てが思っていたのと違って、それはそれは最悪だったとしても、そんなのは結果でしかない。その道のり、お前が歩いた理想へ続く道は間違ってなんかない。それだけは伝えておく。十年前にはきちんと言葉で伝えることはできなかったけど、あの時は斬り合ってわかり合ったみたいなもんだし……。
 お前は笑って消えたそうだ。答えを得たって言って。だから、お前はもう、こんなバカみたいなこと、するなよな。一応、俺の理想でもあるんだからさ」
 淡々と告げる士郎を呆然と見ていることしかできなかった。
 ただ、胸にわだかまっていたものが、すっと、ほどけていく気がする。
「そんなことを、言って……、私が、貴様を見逃すと思っ――」
「動くな!」
 鋭い声とともに、カッ、と眩いライトに照らされ、目を眇める。
「やばいな。のんびりしすぎた」
 苦笑をこぼす士郎が背を浮かせる。
「さっさと還れ。捕まると、面倒だぞ」
 フラフラと立ち上がった士郎は片手を払う。
「何を、言って……」
 見上げれば、こちらを疲れた笑みで見下ろしている。
「お前まで、封印指定になりたいのかよ?」
「…………」
「ほら、さっさと、」
「お前は、いいのか、それで」
 立ち上がって訊けば、
「は? なに言ってんだ?」
 士郎は訝しげに首を傾げた。
「必死になって未来を変えて、変わった未来でお前は厄介者扱いなのだろう? ……これからも封印指定を続けるつもりか?」
「……仕方がない。これが、俺の望んだ未来だ」
「……珍しいな。諦めるのか、衛宮士郎」
「っ……、だ、っから、だなあ!」
 じっと見据えれば、士郎は口を閉ざしたまま睨み付けてくる。
「これからも封印指定を続けるのか?」
 繰り返し訊けば、
「お前こそ、くだらない掃除屋を続けるのか?」
 不遜な顔で言い返してくる。
「「……………………」」
 互いに沈黙が続く。険を帯びた顔で睨み合う。やがて、
「「まっぴらごめんだ!」」
 同時に吐き出した。
「ちっ」
 アーチャーは舌を打ち、士郎は小さく吹き出した。
「なに言ってんだって、話だよな」
 士郎は苦笑いを浮かべている。
「衛宮士郎」
 アーチャーは迷いを捨てて、腹を決めた。今、この、状況を突破するための道は一つしかない。
「なんだよ?」
「契約しろ」
「は?」
「私を使え」
「なに……言ってんだ……アーチャー……」
 呆けた顔で士郎は呟く。
「望んだ未来に殺される謂れはないだろう。誰も知らないとはいえ、貴様が未来を変えたことは、私が知っている。それだけでも御の字だ。どのみち、誰彼かまわず話せる内容ではないのだ。知っているのはごくごく一部の者でかまわない。……それに…………、それを知る私が、貴様の過去の抹消を望まない。そういうことだ」
「…………」
 琥珀色の隻眼が揺れている。
(あの時も……)
 新都のビルの屋上で、己を見つめていた琥珀色の瞳は、所在なさげに揺れていた。
「衛宮士郎、さっさとし……」
「アーチャー?」
 士郎が言葉を切ったアーチャーの視線を追えば、武装した魔術師たちが岩壁の階段を下りてくる。
「やるしかないか……」
 士郎は意を決したように呟いた。



□■□Interlude JOINT・・共闘□■□

「待ち構えてたって、感じだな」
「ああ」
 下りてくる魔術師たちは、見覚えのない奴らばかりだ。たぶん、ワグナーが言ってた、“本部の者”ってやつだろう。魔術協会は、俺もコイツも、逃がすつもりはないようだ。
「どうする気だ。上からぞろぞろと下りてくるぞ。ざっと見たところ、出口はあそこしかないようだが?」
「ああ、うん、他に出口はないな、トンネルでも掘らない限りは。にしても、極端に強い魔術師はいないけど、数がなぁ……」
「では、どうする」
「どうもこうも……、抗うしかないだろ?」
 お互い傷だらけだ。
 ただ、小休止のおかげで、俺もコイツも魔力で少しは回復している。それでも、俺の方は完全に傷が塞がっていないから、流血は止まらないけど……。
 アーチャーは俺をじっと見据え、ふむ、ともっともらしく頷く。
「同感だな」
 ともに駆けた。
 契約はする間がなかったけど、アーチャーの魔力はそれなりに補えていると思う。
 あれっきり、背中を預けて戦うことなんて、もう、できるとは思っていなかった。
(案外、いいもんだな……)
 なんて、俺もどうかしている。
 数で押してくる魔術師たちを相手に、どこまでこの身がもつかわからない。
 だけど、まあ、最後に何も考えずに戦うことに没頭できるなら、後悔はない。正気に戻ったらしいコイツと同じ目的を持って、同じ方を向いて、ただ、ここから脱出するっていう、目の前の、たった一つの目的のために。

 ……けどまあ、そううまく事は運ばないもんだ。
 俺もアイツもくたくたで、たとえこの地下空洞から出られても、受信機が受け取ることのできる魔力は少なくなる。それに、こんな壊れかけの魔術回路、役に立つかどうかわからない。
 俺ははじめから諦めていたんだと思う。
 どこかで、この世界で生きていてもと、自棄になっていたのかもしれない。そんな微かな諦めが、戦況には大きく表れるんだ。
 はっきり言って、今、俺は、立っているのもやっとだ。投影はあと一回もできれば御の字。
 案の定、眩暈を起こしたところを数に押され、取り押さえられてしまって、身動きができない。
「おい!」
 バカ、なんで俺のところに来るんだ。さっさと、行っちまえ。
 お前まで捕まっちまうだろ。
「アーチャー、行け!」
「な……?」
「お前まで封印指定なんざ、笑い話にもならないだろ!」
「だが、っ!」