愛したいのに、
2 - 僕のせいかな
やっぱりあそこは俺の居場所じゃないんだよなあ、煙草を吹かしながらひとりセンチメンタルに浸る。 やれレーゾン・デートルがどうとかアイデンティティがどうとか、っていうのはティーンの小僧が叫ぶだけで十分だ。 『自分の居場所』なんて、それこそあいつらが好きそうなワードではないか。 反政府運動なんて大胆なことはしなくても、このご時世、誰しも何かしらに反逆して生きている。 ティーンのガキが大人と大人が作った社会に反逆するように、女が男に反逆するように、 社員が社長に反逆するように、ペットが人間に反逆するように。そんな小さな火種ひとつひとつが集まって、 学生運動が起き、女性解放運動が始まり、ストライキが認められ、やがてはバイオ・ハザートにまで至るのだろう。 何も難しいことではない。所詮俺だって、大きな世界の小さな火種に過ぎない。
「ロック、オン、」
「ああ…アレルヤ?だったよな」
「ああ」
きみ煙草吸うんだ。少しびっくりしたよ。アレルヤはそう云って俺の隣に腰を下ろした。
「そんなに意外かい?」
「気を悪くしたら申し訳ないんだけど、……きみのお兄さんはお酒のほうが好きだったみたいだから」
ちらりと伺うようにこちらを見て、何も反応がないと分かると安心したように肩の力を抜く。 何怒られる寸前の子供みたいなことをしてるんだか。
要らないほど気を遣う男だということは、初見のときからずっと抱いている彼についての印象だ。 東アジア系の切れ長の瞳は鋭利な印象さえ与えるのに、声色や表情はそれから考えられないほど柔らかい。 無骨に鍛えられたたくましい腕も、自分より弱いものを前にすると、不似合いなほどフェミニストになる。
体は少し不似合いでも、アレルヤという人間にはぴったりとそれが当てはまっていて、何だか好感が持てる男だと思う。
「兄さんは、父さんと一緒に酒を呑むのが夢だった、ってずっと云ってたからな」
「そうなんだ…ごめんね」
「構いやしないさ」
云ったお前のほうがずっとつらそうな顔をしてるじゃないかとはとても云えず、 俺は随分と長くなっていた煙草の灰を落とした。と、「僕にも一本くれませんか」と 隣のアレルヤが訊ねてきて、少し驚いた。
「呑めるのか?」
「わからない。初めてなんです」
「初めてにしてはちょっとキツいぞ、これ」
仲間同士のように笑いあいながら、ちいさな火種を移した。
ゆらゆら、余所者の煙が次に行きつく場所なんて、誰も知りやしない。 炎によく似た瞳の彼を、何となく思い出した。彼もきっと、兄さんを求めているのだろうけれど (申し訳ないけれど俺にはどうしようもないんだ、)。