愛したいのに、
3 - 君のせいだよ
刹那は多少なりとも驚いた。 彼の知るティエリア・アーデという男は大体が4年前の彼で占められてはいたが、 人間というのは4年そこらでそんなに劇的に変わるわけでもないと思っていたところが実だからであった。 月日がこんなにも人を変えるというのを、所詮20年しか生きていない刹那はよく理解していなかったのだ。
「…相談だ」
「……相談、か」
「女々しい男だと思っているだろう、自分でもそう思っているさ、でも、」
どうしようもないんだ。迷子の子供のようなその呟きだけで、刹那は4年間の長さを感じた。 揺れるティエリアというのはかつて、刹那も見たことがあった。 ロックオン・ストラトス。 彼が手を差し伸べるたび、ティエリアは大きく揺れ動いては、 泣いたり、笑ったり、怒ったり、苦しんだり、さまざまな表情を見せた。 だからこそ、ロックオンの面影をそのまま残す彼に、どう接していいのか混乱していることも、刹那は知っているつもりだった。
「すまない…せっかく、君が連れてきてくれたというのにな」
ヴェーダという神を喪ったティエリアの世界では、もはやソレスタルビーイングが総てであった。 よくもまあ、ひとりで生きてくれたと思う。 ありがとうとも、がんばったなとも、交わす言葉の数は少ないけれど、刹那は常々そう感じていた。
軽率な行動だったとは思わない。 スメラギ・李・ノリエガはともかく、ロックオン・ストラトスを―――ライル・ディランディを 連れてきたのは刹那の完全な独断だった。ティエリアの動揺も、周囲の戸惑いも、予想していなかったわけではない。 それでも、ソレスタルビーイングのマイスターとして、ロックオン・ストラトスは必要な人間だと感じたから、連れて来たのだ。 かつてのロックオン・ストラトスの代わりではない、ひとりとして。それでも。
「刹那、俺は、わからない……」
「ティエリア、」
「追ってしまう…こんな、こんな見方、最低だと自分でも分かっているのに… でも、同じ顔をした男がすぐそこにいるんだ、彼と同じ顔をして、声で、俺の目の前に、」
痛々しい叫びだった。たぶんそれは、誰もが―――もちろん刹那も―――少しずつ抱いている感情だったのだろう。 刹那の胸にもすう、と入ってきて、すとん、と収まった。
「好きだったんだな、あいつのことが」
「…どうだろうな。当時はそんなこと考えたこともなかった。 終わってから気付くものなんて大抵美化されてるものなんじゃないか」
「………そうかもしれないな、でも、」
でも、そうしたら、もしそうなのだとしたら。刹那の穏やかな目がティエリアをとらえる。
「お前はその本当の意味を理解していない」