Never end.2
ぱっと見は、その小柄な体型から、あまり軍人らしく無いアムロだが、こんな姿を見ると、それを実感する。
しかし、どうしても自分から進んで軍人でいようとしている様には思えなかった。
どちらかというと、メカニックの仕事の方が好きそうで、パイロットをしている時よりも生き生きとしている気がする。
「アムロ大尉は…やっぱりこれからもずっとパイロットを…軍人を続けるんですか?」
エルの問いに、アムロは一瞬目を見開くと、少し哀しげに微笑んでコクリと頷く。
「そうだな…、ある人との決着を付けなきゃいけないからな…。それが終わったら…多分、退役するよ」
『その時は…生きていないかもしれないが…』
あの男との決着を付けなければならない。
彼は必ず自分の前に立ち塞がる。
「ある人って?」
「赤い彗星だよ」
アムロの言葉に、ハサンの手が一瞬止まり、視線を向ける。
しかし、アムロの覚悟を決めた瞳に、何もいう事は出来なかった。
◇◇◇
「カミーユ、今日さ、久しぶりにブライトに殴られたよ」
クスクス笑いながら、アムロがカミーユに語りかける。
「ブライトの言いたい事は分かるけどさ、いきなり殴る事ないと思わないか?」
不貞腐れた様に呟きながら、何の反応も返さないカミーユの頬に触れる。
「確かにさ…ちょっと肩に力が入りすぎてたかも…とは思うけど…。俺が何とかしなきゃなんて…思い上がりもいいところだったのかな…」
カミーユの頬から伝わる体温に、アムロが小さく微笑む。
「俺はダメだなぁ。きっとあの人なら、君を導いたように…あの子達をもっと上手く導けるんだろうけど」
金色の髪に赤い服の男の姿が目に浮かぶ。
「…やっぱり生きてたな…あの人。っていうかピンピンしてた。怪我でもしてるんじゃないかって心配してたのに…。人の気も知らないで」
先日会った男の事を思い出し、アムロが溜め息を吐く。
「また…あの人の手を…振り払ってしまった…。馬鹿だよな、俺がジオンになんか行けるわけないのに…」
でも本心は、あの手を取りたかった。あの人と共に歩みたかった…。
決して言えないアムロの本心。
アムロはトスンっと、カミーユのベッドに頭を乗せて目を閉じる。
「何だか…疲れた…」
そのままアムロは眠りに落ちてしまう。
張り詰めた心と、酷使した身体はとうに限界を超えていた。しかし、自分が何とかしなければと、気力だけで立っていた。
いや、そんな自分の状態にすら気付いていなかった。
今日、ブライトに殴られて、ようやくそれを自覚したのだ。
『心配掛けてごめん…明日…ブライトに謝らないと…』
夢の中でそんな事を思いながら、アムロは深い眠りに落ちていった。
アムロの寝息が響き渡る病室で、カミーユの手がシーツの中から姿を現し、アムロの髪をそっと撫ぜる。
「ア…ムロさ…ん」
そして、ゆっくりとカミーユの唇がその名を呟いた。まるで、アムロを慰めるかの様に…。
その光景を、少し開いた扉から、ジュドーが見ていた。
アムロの告白と、カミーユの呟きに驚きながらも、二人の間に入る事が出来なかった。
それは、自分が触れてはいけない、二人だけの領域の様に思えたから。
ジュドーは自室に戻ると、アムロの言葉を思い出す。
「アムロ大尉が言っていた“あの人”って…やっぱりあの時の男だよな」
先日立ち寄ったコロニーで、アムロと共にいた黒髪の男。
遠目で、それもサングラスを掛けていたが、かなりの美形だという事が分かった。
そして、明らかに他とは違うオーラを纏った男。
「アムロ大尉をジオンに?」
それは、その男がジオン側の人間だという事だ。
つまりアムロはあの日、ジオンの人間に会っていた。そして、その男とアムロはかなり親密な関係だった。
「アムロ大尉が俺たちを裏切ってる?いや、そんな事はない…アムロ大尉は断ったと言っていたし…」
ジュドーは頭をクシャクシャのかき混ぜ、自分の思考を整理する。
『アムロ大尉とカミーユの知り合いで…ジオン側の人間。アムロ大尉はその人を探してたみたいだった…』
「誰だ?」
多分、アーガマのクルーに…ブライトに聞けば分かると思うが、なぜか言ってはいけないような気がした。
これは自分が口を挟んではいけない問題だ。
根拠はない。ただ、そう感じた。
翌日、ブリーフィングの後で、アムロがブライトを呼び止める。
「ブライト…昨日はすまなかった」
素直に謝るアムロに、ブライトは少し驚きながらも、笑みを浮かべて肩を叩く。
「俺こそ、いきなり殴ってすまなかった」
「いや…お陰で目が覚めたよ」
「そうか…それで、傷は大丈夫か?」
ブライトがアムロの頬に貼られた絆創膏に触れる。
「ああ、大したことない。背中の打ち身も大分痛みが引いた」
「あまり無理はするなよ」
「ああ、今日はこの後、ディジェの調整だけしたら休むよ」
「そうしろ、隊長が倒れたら示しが付かん」
「了解」
そう言って、去っていくアムロの後ろ姿を見ながら、ブライトは笑みを浮かべる。
「素直に謝るとはな。成長したもんだ」
昔は何かと突っかかって来ては言い合いをしていた。アムロが折れて謝ってくるなど考えられなかった。
「まぁ…余裕が無いのは俺も同じか…せめてヘンケンか…クワトロ大尉がいてくれたら…」
エゥーゴの主要メンバーが居ない今、ブライトの心の支えはアムロしか居なかった。
「クワトロ大尉…次に会う時は…敵かもしれんな…」
ブライトは窓から見える地球を見ながら、溜め息混じりに呟いた。
「ジュドーどこ?」
フリールームにジュドーを探しに来たプルが、ソファに座ってうたた寝をするアムロを見つける。
「アムロ?」
その顔を覗き込み、クスリと笑う。
「寝てるとなんか可愛い」
プルはソファの横に置いてあるブランケットをアムロに掛けると、その横に座ってアムロにもたれ掛かる。
「不思議、アムロの側は安心する。ジュドーの事は大好きだけど、アムロは…懐かしい…。初めて会ったのに…何でかなぁ」
そのまま一緒に寝てしまったプルは、不思議な夢を見る。
雨の中、死にゆく白鳥を見ていたら、青い軍服を着た子供のアムロと出逢った。
それは、偶然の様で必然。
まるで生まれる前から知っていた様に二人は惹かれあった。
恋愛とか、そういった感情では無く、どちらかというと親愛の感情。
魂が重なり合う様な、そんな繋がり。
次にアムロと会った時、自分は愛する人と共にいた。
そして、泥濘みにエレカをはめて困っていたアムロに手を貸した。
その時、アムロが自分よりも、自分が愛する人をずっと見つめている事に気付いた。
怯えるようなその視線の中に、熱いものを感じたのだ。
『アムロ…、アムロは“ ”を…』
そのめぐりあいは…三人の運命を大きく変えた…。
「プル?」
エルとルー、そしてジュドーがフリールームへとプルを探しにやってきた。
そこで、うたた寝をする二人を見つける。
「やだ、プルとアムロ大尉寝ちゃってる」
微笑ましい二人の姿に、エルとルーがクスリと笑う。
「こうして見ると年の離れた兄妹みたいね」
「ホント」
そんな二人を、ジュドーも覗き込む。
「本当だ…っていうか、本当にこの二人って何処と無く似てないか?」
作品名:Never end.2 作家名:koyuho