Never end.3
『君を…私だけの鳥籠の閉じ込めたい…』
きっと、あの人には支えとなる人間が必要なんだろう。
肌を重ねる度、伝わってくる切ない想い。
本当ならば許されない二人の逢瀬。
けれど、その瞬間だけは…あの人に安らぎを与える事が出来る様な気がする…。
ジオンと連邦、そして思想。色々ものが二人を引き離す。
スペースノイドの現状を思えば、シャアのやろうとしている事には共感できる。
しかし、その性急過ぎる手段には共感できない。
「シャア…人はそんなに愚かでは無いよ…人の進化は…ゆっくりでいいんだ…ニュータイプ能力は…宇宙に順応して生きる為のもの…俺や…ララァは少し早過ぎたんだ…だから、戦いにしかその力を使えなかった…俺が…間違ってるんだよ」
アムロは手の平で顔を覆い、溜め息を吐く。
一年戦争で、自分が世の中の知らしめてしまった。
ニュータイプとは…戦争の道具だと…。
そのせいで、強化人間と言う…哀しい人たちを生み出してしまった。
カミーユが愛したフォウも、プルもみんな被害者だ。
そして、自分こそがその加害者。
“ニュータイプ”イコール戦争の道具だと知らしめ、研究の被験体となって自身のニュータイプとしてのデータや体組織を研究者達に提供してしまった。
仲間や母を人質に取られ、強制だったとはいえ…あんな事はするべきでは無かった…。
そう、全ては己の罪。
永遠に終わることの無い、大罪。
ならば自分は、それを償うために生きよう。
この身が果てようとも…。
ふと、アムロは人の気配を感じて身体を起こす。すると、ベッドの横にはカミーユが立っていた。
「カミーユ!?」
居るはずのない存在を目にしてアムロが驚く。
カミーユは、ゆっくりアムロへと手を伸ばし、その頬に触れる。
「…か…ない…で…ひと…で…せお…ないで」
『泣かないで、一人で背負わないで』
アムロは自身の頬に触れるカミーユの手から、自分を心配する思惟を感じる。
そして、アムロは自身が涙を流していた事に気付く。
「あ…」
アムロはその手に自身の手を重ね、カミーユを見上げる。
「…心配かけてごめん…」
アムロはゆっくりとカミーユの手を引いて、ベッドへと座らせる。
「ダメだな。さっきブライトにも叱られたばっかりなのに」
俺一人が背負ったところで、背負い切れるものじゃない…。
カミーユがアムロの手を握り返し、その瞳を向けてくる。
「じぶ …たいせつ…して…」
『自分を大切にして』
カミーユの言葉に、アムロの目頭が熱くなる。
今まで、自分がみんなを守らなければと我武者羅に戦ってきた。カラバに合流して直ぐは、“そうあれ”と期待する皆に応えられず、辛く、苦しかった。だからこそ、自分の身を顧みるなんて、考えてもいなかった。
そんな事を考えるアムロに、カミーユが優しく微笑む。
「おれ…アム…ロさ…す…き…です…だから…しあわ…せ…なって…ほし…」
「え?」
そう言うと、カミーユはアムロの両頬を手で包み込み、そのまま自分の方に引き寄せて、唇を重ねる。
その柔らかな感覚に驚きながらも、アムロは目を見開いたまま、カミーユの綺麗な顔を見つめて固まる。
それはほんの数秒の事だったが、とても長い時間に感じた。
カミーユはゆっくり唇を離すと、そのままアムロに抱きつく。
「カ、カミーユ…!?」
「アム…ロ…さ…ん」
どうして良いか分からず戸惑っていると、カミーユから穏やかな寝息が聞こえる。
「え?」
アムロはゆっくりとカミーユの顔を覗き込む。
「…寝ちゃったのか?」
困惑しながらも、抱きついたままのカミーユ背中をそっと撫ぜる。
「ありがとな…カミーユ…」
そして、カミーユに口付けられた自身の唇に触れる。
「俺も…カミーユが好きだよ。でも…ごめんな。俺…あの人を愛してるんだ。だから…」
カミーユをギュッと抱きしめ、目を閉じる。
「カミーユ…。俺は…あの人を救えるかな…」
翌朝、ジュドーがアムロの病室を訪れると、思いもよらない光景を目にして固まる。
狭い病室のベッドの上で、アムロとカミーユが抱き合って眠っているのだ。
いや、抱き合うと言うのは語弊があるだろうか。
カミーユがアムロの胸にしがみつき、アムロがそんなカミーユの頭を優しく抱え込んでいる。
その二人の姿が何処か神聖なものに見え、また、微笑ましくも映った。
ジュドーはそっとカーテンを閉じると、そのままその場を後にした。
◇◇◇
その後、ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンとの戦いは、ハマーンの死によって終結した。
その、潔くも、美しく哀しい生き様に、ジュドーは複雑な想いを胸に抱える。
「どうして…こんな事になっちゃったんだよ、アンタなら、もっと他に良い方法を選べたんじゃないのか!?」
納得できないその終わりに戸惑いながらも、戦争の終結にホッと肩を撫で下した。
しかし、その後の地球連邦の対応に憤り、大人の身勝手さに怒りを爆発させた。
「いっぱい死んだんだぞ!なのに!!」
死んで逝った多くの仲間、そして、ハマーンの顔が浮かぶ。
怒りに震える拳をお偉方に向けようと振り上げた時、「その怒りは、自分を殴って晴らせ」と自分の前に立ち塞がるブライトに、また別の大人の思いも感じる。
ブライトを殴るのは違うと、頭では分かっていたが、感情を抑える事が出来なかった。
ブライトがその身を案じていたプルも、そしてプルツーも、その哀しい命を戦場に散らしていった。
その瞬間の、アムロの慟哭が今もジュドーの耳に残って離れない。
アムロがプル達の死と“ララァ”の死を重ねているのが痛いほど伝わってきた。
アムロはまた、その胸に哀しみを抱え、血の涙を流す。
それでも、歯を食いしばって立ち上がるアムロの強さに、羨望と共に、どうしようもない哀しみが込み上げた。
この人は、こうして哀しみを背負いながらも、一人の男の為に生きていくんだ。
全ては、シャア・アズナブルの為に…。
◇◇◇
数日後、エゥーゴと連邦の協議が始まる前に、ジュドー達ガンダムチームとアムロはアーガマを降りる事になった。
ビーチャやモンド、イーノとエルはサイド1のシャングリラに帰る。
俺とルーは木星船団の一員として木星に行く事にした。
そして、カミーユはファと共に、地球のブライト艦長の知り合いの病院に行くのだと言う。
今日、俺が木星に旅立つのに合わせ、その知り合いがこのグラナダの宙港に迎えに来ることになっている。
俺は腰を落とし、車椅子に座るカミーユに視線を合わせ、別れの挨拶をする。
「カミーユ、元気でな」
カミーユは優しく微笑み、俺を見つめ返してくれる。
そして、車椅子に置いた俺の手をそっと掴んだ。
「カミーユ?」
「ジュ…ドー、あり…がと…う…」
初めて、自分に対してはっきりと話し掛けてくれたカミーユに喜びが込み上げ、思わず抱きつく。
そんな俺の背中を、カミーユも抱きしめ返してくれた。
『アムロ大尉!カミーユの心はちゃんと育ってる!アムロ大尉のお陰だよ!凄いやアムロ大尉!』
心の中でそう叫ぶ。
そして顔を上げて、側で見ていたアムロ大尉を見ると、真っ赤に染まった顔を手で覆い隠して照れていた。
俺の思惟はしっかりと伝わっていたらしい。
作品名:Never end.3 作家名:koyuho