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MIDNIGHT ――闇黒にもがく3

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「可能性の話だよ。事実、彼が痛みを感じているかはわからない。けれど、その確証は取れないから、無茶はしない。まずは、その管を外していこう」
 ポッドから伸び、士郎へと貼り付けられた細い管を指し示し、ダ・ヴィンチは率先して針を内包したシールを剥がしにかかる。
「ダ・ヴィンチちゃん、ここで応急処置をするから! すぐに準備する、待ってて!」
 ロマニ・アーキマンは医療器具を取りに向かった。
 立香は医療スタッフを手伝い、取り外された管を邪魔にならないようにまとめている。
 みな、各々やるべきことをやっている。だというのに、エミヤは動けなかった。
 エミヤは突っ立っていることしかできない。そんな自分が歯痒くて仕方がない。
「……私は…………っ……」
 拳を握りしめ、エミヤは言葉に詰まった。
「大丈夫だよ、エミヤ。彼は生きている」
 ダ・ヴィンチが手を止めて穏やかに言う。
「……わかっている」
「君でもそんな顔をするんだね」
「……どんな、顔だ」
「まるで、お母さんのようだよ?」
「……ダ・ヴィンチ女史、眼鏡をかけた方がいいのではないか?」
「おやおや、これは手厳しい」
 反論する余裕が出てきたものの、まだ立ち尽くすだけのエミヤに、ダ・ヴィンチはクスクスと笑っていた。

 程なく応急処置の準備をしてロマニ・アーキマンが戻って来た。
 ダ・ヴィンチと医療スタッフが慎重に士郎に貼られたシールを剥がし、管を外していく。士郎の着ていた血だらけの衣服はハサミで切り刻まれ、ロマニ・アーキマンが傷口の手当てをしていく。さして深傷は見当たらない。傷口らしい傷口は、ほぼ塞がっていた。
「よし、見えるところと、手の届く所は外したね。じゃあ、背中の方を……。えっと、身体を起こそうか」
 ガーゼや絆創膏を貼り終えたロマニ・アーキマンが士郎の身体を前に倒せば、背中側に細い管は見当たらない。だが、代わりに太いコードが背中に残った衣服の中へと続いていた。
「なんだろう、これ?」
 切り刻まれたシャツを取り払うと、肩甲骨の真ん中あたりに黒く四角いプラスチックのようなものが貼り付けられていた。そこに、直径一センチほどのコードが二本まとまって繋がっている。
 ロマニ・アーキマンがコードを引っ張ろうとすると、
「待て! それは、抜くな!」
 エミヤが声を荒げた。
「え? 抜く?」
 ロマニ・アーキマンが訊き返しながら振り向く。士郎の肩を掴んでいた力が抜けたのか、その力ない身体が、前へ倒れた。意図せずコードが抜けてしまい、
「あ……」
 ロマニ・アーキマンの間の抜けた声がこぼれる。
 士郎の背中には二つ穴の差込口のようなものが埋め込まれている。対して、外れたコードの先にはプラグのような二つの突起がある。まるで、背中にコンセントプラグが刺さっているような状態で、士郎はこのポッドの中にいた。
 エミヤはすぐにポッドに乗り上がり、垂れたプラグを掴んで士郎の背に挿し込む。
「エミヤ、ごめん、ボク……」
「いや……」
 謝らなくていい、とロマニ・アーキマンに首を振る。謝る必要などないと伝えたいが言葉にならなかった。
「エミヤ? それは、なんだい?」
 ダ・ヴィンチが静かに訊けば、ロマニ・アーキマンから士郎の身体を引き寄せて、エミヤは視線を落とす。
 受信機があるのだ、と言った士郎を思い出す。身体のどこに付いているかや、どんなものかなどは聞かなかったが、これだという確信がエミヤにはあった。
 項垂れて、傷だらけだったこともあったのだろうが、力ない声が、ひどく申し訳なさそうに話していたように記憶している。
 魔力の少なさを露呈するようなことは、やはり衛宮士郎でも恥ずかしいことだという認識だったのか、それとも他に理由があるのか、あの時は、そんな悠長に話してなどいられなかった。
「エミヤ? それって、その……」
 答えないエミヤに、立香が気遣いながら訊いてくる。
「……魔力の、受信機だ、そうだ」
「受信……機?」
 ロマニ・アーキマンが訊き返す。
「魔力を収集する受信機だと……。元来、衛宮士郎は魔力が少ない。だが、やるべきことのために……、やらなければならないことのために、無茶を承知で、身体に装置を埋め込み――」
「エミヤ」
 みなまで言わずとも、とダ・ヴィンチはエミヤを制した。
「運ぶのは後だね。ロマン、処置を終わらせてしまおう。エミヤ、それを抜けば、今の彼は危ういんだね?」
「おそらく……」
「では、ポッドから彼をできるだけ引き出してくれたまえ。貼り付いていた管の方はすべて外れたからポッドに乗っても問題はない。みんな、邪魔な部分は取り払っていいよ」
 ダ・ヴィンチの指示でスタッフが動きはじめた。
「それからエミヤ。あとで、詳しく聞かせてくれるかな?」
 ダ・ヴィンチはにこやかな笑みを崩さないが、有無を言わせない口ぶりだ。
「……了解した」
 ダ・ヴィンチに頷き、エミヤは処置がしやすいように、士郎の身体を抱え、ポッドから可能な限り引き出した。



□■□Interlude FOGGY□■□

 寒くはない。
 肌で温度を感じる。
 耳で音を拾う。
 閉じた目蓋に半分だけの光を見る。
 呼吸をしている。
(……俺は、……この身体は、まだ、生きている)
 与えられる感覚じゃなく、俺の身体で様々を感じている。
 痛みにすら、歓喜している。
 鉛のような肉体の重さを粛々と受け止めている。
「背中のヤツを取るから、麻酔をするよ?」
 なんの反応もしない俺にいちいち確認する声が聞こえる。
 背中のヤツって、受信機のことか?
 それを取ると、俺は、戦えなくなるから、できれば、残してほしい。
(魔力が足りないと、俺は…………、お……れ、は…………)
 思考が散り散りにほどけていく。
(ああ、ます、ぃ…………を……する、……て……)
 霞んでいく。
 また、沈んでいく。
(いや…………だ…………)
 また、あの中に戻されるのだろうか?
 また、感覚を受け取るだけの、闇黒に……。
(……お…………れ、は……)
 今度はどこに棄てられるのだろう?
 封印指定なんて、ろくなものじゃないな……、ほんと……。



■□■Seven night■□■□

「さてと……」
 ダ・ヴィンチは、目を細めてにっこりと笑む。
 エミヤの知るレオナルド・ダ・ヴィンチという自画像だか肖像画だかは、老人男性だったが、今、目の前にいる、自身を天才だと宣うのは、美しい女性の姿。彼の描いた傑作モナリザに近い。
 ただし、エミヤは、あの絵の女性を美しいと思ったことはなかった。あの微笑は、うすら寒く、不敵なものだとしか感じなかったのだ。
 傑作は傑作なのだろうが、あの視線の先にはいたくないと思わせる。何か、自身の奥底までを見透かされそうな気がして、わざわざ見ようとは思えなかった。
 今、よく似た視線が自身に向けられている。ここに来て、一分も経たないうちに、エミヤは退出したくなったが、それを堪え、ダ・ヴィンチの視線に晒されることになっているのは、ひとえに、昼中の出来事のせいだ。
 謎の物体の出現。
 その物体から現れたケガ人。
 それが、衛宮士郎であったこと。