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MIDNIGHT ――闇黒にもがく3

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 そして、彼があの物体と繋がっていたという、異様な状況。
 士郎が無事に病室に移動し、遅くなってしまった昼食を何だかんだと言い訳して作り、夕食まで用意して先延ばしにしていたが、ようやく踏ん切りをつけたエミヤはダ・ヴィンチの工房を訪れた。
 すでに夕刻になっていたが、ダ・ヴィンチは、遅い、と怒ることもなかった。
「やあ、君から来てくれるとは、うれしい限りだ」
「…………」
 詳細を教えろと迫った本人が、ずいぶん待たせたことを責めはしないが、すっとぼけるので、エミヤはすぐに踵を返した。
「わー! 待って、待って! 悪かったよ。ちょっとしたジョークじゃないか」
 慌てて引き止めたダ・ヴィンチを振り返り、じとり、と見据えたものの、結局、舞い戻る。
 椅子を勧められて腰を下ろせば、机を挟んでダ・ヴィンチも椅子に腰を下ろし、さてと、と口にしたのだ。
「まず、彼は、何者かな?」
「人間。魔術師だ」
「それで? 君とはどういった?」
「…………」
「エミヤ?」
 答えずにいれば、催促するように呼ばれる。
「君の縁者、というところかい?」
「どうして、そう思う?」
「名前だよ。それに、顔が似ている」
「はぁ……。だろうな……」
「うん。そうだよ」
「…………言わなければ、ならないか?」
 少し俯いたエミヤは、上目でダ・ヴィンチに伺う。
 う、と思わずダ・ヴィンチは声を詰まらせた。
 その顔は、反則だよ、とは口に出さず、ダ・ヴィンチはやんわりと笑みを刻むにとどまる。
 自覚がないんだねえ、と、エミヤの無意識のタラシ気質をダ・ヴィンチは苦笑いで乗り切った。
 ダ・ヴィンチであればこそ、その顔に流されはしないが、これがロマニ・アーキマンや立香やマシュとなると、そうはいかないだろう。
 きっと、いいよ、いいよ、と、なんでも許してしまいそうだ。
「そっとしておく、という選択肢はないか?」
 答えないダ・ヴィンチに焦れたのか、エミヤはさらに伺いを立ててくる。
「ならないねえ。日本人なら、そうしているかもしれないけれど、あいにく私は天才で、奥ゆかしい日本人とは違うからねえ」
 ダ・ヴィンチが流されるまい、と内心固く誓いながら、三日月型に目を細める。
 しばらく睨み合って、やがて、諦めたようにエミヤはため息をついた。
「……私だ」
「ん? なにが?」
「だから、アレは、私だ」
「えーっと、話がよく――――」
「だからだなぁ! アレは、衛宮士郎。私の元になった人間だ!」
「…………」
 ダ・ヴィンチは、何度か瞬きを繰り返す。
「ウっソだぁ」
「嘘ではない」
「ほんとに、本当なのかい?」
「本当だ。縁者とまで言っておいて、なんだと思っていたんだ……」
「てっきり、生き別れた双子の兄弟かと」
「そんなわけがあるか……」
 こちらはサーヴァント、あちらは人間。
 いくらなんでもサーヴァントと人間が兄弟になどなるはずがない。
「ふむふむ。それで、元になった人間だから、知っていた、と?」
「まあ、いろいろと、あってな……」
「ふーん。それは、言えない、と?」
「ああ、そうだ」
「そうかぁー。残念だなぁ。あのポッドのこととか、聞きたかったのにー」
「それは、奴に聞いてくれ。私にはわからない」
「そう。うーん、では、君に任務を与えようかな」
「唐突だな……」
「人生はいつも唐突さ。そして、出会いも突然、別れは必然」
「なんの話だ……」
「彼の世話は君の仕事だ」
「は?」
「彼は、このカルデアのことは何も知らない。けれど、君の説明から察するに、彼は君のことは知っているのだろう? 見知った者が側にいると、心強いじゃないか」
「…………」
 そんな殊勝な精神が、はたして衛宮士郎にあっただろうかとエミヤは思案してしまう。だが、この物資も乏しいカルデアで、重傷患者を引き受けているのは事実だ。しかも自身の根源となる者のことでもあり、無関係だと突っぱねるわけにいかない。
「ダ・ヴィンチ女史、その任務は、まあ、引き受けよう。だが、一つだけ頼みたいことがある」
「なんだい?」
「今、人類の未来が失われていることを、ここ以外の世界が消滅していることを、伏せておいてほしい」
「なぜだい?」
「ショックが大きいように思う……」
「確かにそうかもしれないね。了解だ。それは、スタッフにも重々注意を払えと伝えておこう」
「恩にきる。それから、面倒もかける。貴重な医薬品を使わせてしまった。それに、」
「エミヤ、それは、人として当然のことだよ」
「だが――」
「見縊らないでほしいな。このカルデアのスタッフは、瀕死の人間を放っておくような人でなしではないよ」
 にっこりと笑むダ・ヴィンチに、そうだな、とエミヤは頷いた。



***

 意識が浮上していく。ずっと覚醒していたようで、ずっと眠っていたようで、自分自身が今までどういう状況であったのかも定かではない。瞼を上げようとしたが思うようには上がらず、うっすらと見えた視界は暗いものだった。
 真っ暗闇ではないことから、どこかに光源がある。そう思って首を巡らせようとしたが、身体が全く動かない。
(生きて……いるのか、俺は……)
 ぴくり、とも動かせない身体だが、確かな鼓動が胸を打っている。
「やあ、目が覚めているね。気分はどうだい?」
 声のする方へ目を凝らせば、人影が問いかけてきた。頷いたつもりなのだが、たいして首は動かない。
「ちょっと、失礼」
 不意に瞼に触れた指に、びくり、と身体が硬直する。
「ああ、危害を加えるのではないよ。少し瞼を上げようと思ってね。それでは私の顔が見えないだろう?」
 そうは言われたものの、他人に瞼を勝手に触られるのはいい気がしない。知らず、緊張しながらその作業が終わるのを待つ。
「さあ、どうかな? 見えるかい?」
 うっすらと瞼を開けることができる。
 視線の先にいるのは、きれいなお姉さんだった。
(ずいぶん美人な医者だな……)
 いや、医者なのか? とすぐに疑問が湧く。
 医者ならば白衣などを着ているはずだ、と勝手な固定観念で思い、ならば、違うのか、と結論が出た。
「眠っている間に、君の身体を調べさせてもらったよ。率直に言おう、生きているのが不思議だね」
(俺もそう思う……)
 答えようとしたが、声が出ず、頷くこともできなかった。
「君は魔術師のようだね。けれど、魔術は使えない。魔術回路がボロボロでね。回復には時がかかる。……もしかすると、二度と魔術を使うことはできないかもしれない。その覚悟はしておいてくれたまえ。
 身体もあちこち傷だらけだ。いったいどんな無茶をしたんだい? いや、なぜ、と訊くべきかな……。あんな受信機なんてものまで取り付けて。まったく、取り外すのに苦労したんだよ? 相当手間暇かかるよ、あんな手術。受ける者の気が知れないね。
 ああ、それから、魔術回路が損傷を受けているせいで、身体も不自由になっている。すぐには動けないだろう。が、魔術回路の回復とともに良くはなってくるはずだ。外傷も塞がっているし、肉体的な損傷はないものの、関節や筋肉は、一定の姿勢を保ち続けたせいで硬直している。君は、どのくらいあの中にいたか知っているかい?」