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MIDNIGHT ――闇黒にもがく3

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「…………なぁ……、今は、何年だ? このくらいなら、いいだろ?」
「いいとも。西暦でいいかい?」
 こく、と頷けば、
「2015年だよ」
「2015……」
 時間は経過していない。
 アーチャーと地下の洞穴で戦ったあの時から、さほどの時は経っていないということなのか?
 考えてみるものの、未来に戻ってから――――捕らえられてから、士郎は細かい日付などを記憶していなかった。
 士郎はただ、ぼんやりとあの高層ビルを上下して過ごしていただけだ。
(そうか……。ここも、あそこも、変わらないってことか……)
「士郎くん?」
「ああ、うん。わかった、2015年なんだな」
 視線を落としたまま答える。
「士郎くん、あのね、君は――――」
 ダ・ヴィンチが何ごとかを話しているが、士郎の耳には全く入ってこない。
 ここから出ることはできない。帰ることはできなくなった。
 士郎にわかったことは、それだけだ。
(ああ、そっか、帰るって、言ったってな……)
 士郎に帰る場所など、ありはしない。この世界には衛宮士郎が存在しているのだ。では、士郎はどこに帰ればいいというのだろうか。
 魔術協会極東支部から厄介払いをされてここへ来たのだから、士郎は残る日々をここで過ごすことになる。それを、やっと理解した。
「……これを、君に渡しておくよ。あのポッドの座席の脇から出てきたものだ」
 いつものように茶化すのではなく、真摯な眼差しで差し出されたのは封筒と小さな箱だ。
「え? これ……」
 見覚えのある小箱を開けると、士郎の眼球が液体の中で保存されている。十年前の聖杯戦争に向かう前、桜が預かってくれた士郎の左目だ。
 懐かしさに少しだけ笑みが浮かぶ。ともに受け取った封筒を見れば、見慣れた封緘。
(……ワグナー…………)
 申し訳なさで胸が、ぎゅ、と詰まる。
「そんなふうに残すなんて、よほどのことだろう。その上、その小箱も封筒も、魔術で封をしてある。それは特定の者にしか開けられない、ということさ。このカルデアのサーヴァントも含め、誰しも、そして、この天才をもってしても封を切れなかった。それを開けることができたのだから、それは、君へ宛てたものだね」
「…………そうか……」
 包帯を外し、士郎は慣れた手つきで左目を戻した。視神経が傷ついているのか、それとも保管状態が良くなかったのか、左目はぼんやりと明かりを映しているだけだ。何度か瞬いてみても、あまり変わらない。
(視力は、戻らないのかもな……)
 そのうち良くなることがあるかもしれない、と思うことにして、手紙の方へと気を向ける。
「手慣れているんだね」
「え?」
「その目だよ」
 苦笑いで指摘され、
「あ、ああ……、何度も、繰り返したから……」
 俯いたまま答えた士郎は、手紙の封を切った。
「それじゃ、私は退散するよ」
「え?」
「君のプライベートにまで口を挟む気はないからね」
 そう言われて、ようやくダ・ヴィンチが気を遣ってくれたのだと思い至る。
「……ありがとな」
「礼には及ばない。当然のことをしたまでさ」
 僅かにダ・ヴィンチに向けて笑みを見せた士郎にウインクを飛ばして、ダ・ヴィンチは部屋を出ていった。



『君を捕らえ、封印指定をした僕が、こんなことをしていると思うと不思議でならない。
 ただ、君には、何か理由があったのではないかと思えて仕方がない。だから、こんなふうに紙に残すことにした。
 いつか、君が目覚めたとき、そこに僕はいないと思う。ポッドは、半永久的に開かず、絶海の地に捨て置かれるからだ。
 すまない。謝っておこう。
 自由になれるかもしれないなど、口先だけだった。けれど、本当にそうなることを僕は望んでいた。言い訳がましいだろう? 僕もそう思うよ。
 不思議なものだね。なぜだか君とは、古くからの知り合いのような気がしていたんだ。
 おかしいだろう。捕獲者のくせに、と笑うだろう。僕も可笑しい。本当に何を言っているのかと、呆れてしまう。
 君は、いつも展望室から空や街を見ていたね。
 僕も真似てみたけれど、空と街と人々の動くちっぽけな姿が眼下にあっただけだった。
 君には何が見えていたんだろう?
 僕たちには見えない何かが君に見えていたんだとしたら、もしかすると、僕たちは大変な間違いを犯しているのかもしれない。そんな気がしてしまったりする。
 ただ、もう君に確かめることもできなくなった。僕は今さら後悔しているんだ。君と、もっと話せばよかった、なんて……。
 君とは本当に仲良くなれそうな気がするんだ、なんて、本当に馬鹿げているな……。

 エミヤシロウ。何者でもない君へ、僕は心からの敬意を表したい。得体の知れないあの黒いモノと果敢に戦う姿は、決して罪人のそれではない、と。
 君はやはり何か、もしくは、誰かのために、その身に罪を背負ったのではないか?
 僕たちの与り知らぬところで、独り、君は闘っていたのだろう?
 僕は、そう思うことにしたよ。
 でなければ、辻褄が合わないからね!
 最後に、左目は返しておくよ。それから、魔術回路の修復を施せるよう、細工をしておいたが、なにぶん時間がかかるものだから、治るかどうかは五分だ。
 君の回路は、めちゃくちゃに壊れている。無理もない。無茶な使い方をしたと、あの受信機の状態を見れば一目瞭然だ。目覚めたとき、腕のいい医師か魔術師が側にいることを願う。そして、君が目覚めたその世界に、平穏があらんことを……、願ってやまない』
 辛そうに背けた横顔が思い出される。
(律儀な奴……)
 はっきりと言葉にはならず、乾いた音が口から漏れていく。
(バカだな……)
 封印指定の自分を気にかけるなど、どうかしている。
 けれど、士郎はうれしかった。
 こんなふうに気を揉んでくれる友人がいたことを誇りに思える。
 未来が変わって、もう友人ではなくなったワグナーが残してくれた手紙は、今の士郎を救ってくれる。
(ここが、絶海の地、ってとこなのかはわからないけど……)
 ベッドに横になり、ワグナーの手紙を胸に当てる。
(機械の不調でだかは知らないけど、俺、外に出ちゃったぞ……)
 いいのか? と心中で問う。
 魔術協会の施設ではあるが、このカルデアは、もしかすると、また別の目的を持っているのかもしれない、ということがわかった。
 魔術協会は一枚岩ではない。
 魔術師の家系は幾つもあるし、それぞれに力を持った家系が支部のような役割を担っていることもある。ここは、本部とは隔絶された組織なのかもしれないと、そんな考えに至った。
(まだ、俺は、この世界にいるよ……)
 平穏な世界であればいいと願ってくれた、かつての友人に、
「ありがとな、ワグナー」
 届きはしない感謝の言葉を声に出した。

「夕食だぞ」
 ノックもなしに入ってくるのは、決まった顔だけだ。
 さっきまでいた自称天才ダ・ヴィンチ、そして、食事の世話をしてくれる英霊エミヤ。他の者は、必ずノックをしてから入ってくる。
 声は聞こえたが、ベッドに横になったまま返事をせずにいれば、カツカツと足早に近づいてくる音。
「おい! どうし、」
「え?」
 腕を引かれて士郎が顔を上げれば、エミヤは、ぱ、と手を放す。